イアン・ボストリッジ

イアン・チャールズ・ボストリッジ：知性と歌声が織りなすテノール歌手の肖像

イアン・チャールズ・ボストリッジ（Ian Charles Bostridge CBE, 1964年12月25日 - ）は、イギリスを代表するテノール歌手として、世界中でその名を知られています。オペラと歌曲の両分野で卓越した才能を発揮し、聴衆を魅了し続けています。

生い立ちと学歴

ロンドンで生まれたボストリッジは、幼い頃から学問に秀でていました。ウェストミンスター・スクールを経てオックスフォード大学セント・ジョンズ・カレッジで近代史を専攻、首席で卒業。その後、ケンブリッジ大学セント・ジョンズ・カレッジで科学哲学史の修士号を取得。さらに、オックスフォード大学でキース・トーマスの指導の下、17世紀から18世紀のイギリスにおける魔術の研究で博士号を取得しました。学者としての道を歩む傍ら、テレビの時事問題やドキュメンタリー制作にも携わり、コーパス・クリスティ・カレッジで教鞭を執るなど、多彩な才能を発揮していました。

歌手としてのキャリア

30歳でフルタイムの歌手に転身するという異色の経歴を持つボストリッジ。1993年にウィグモア・ホールでデビュー後、パーセル・ルームやオールドバラ音楽祭など、数々の舞台で成功を収めました。コリン・デイヴィス、サイモン・ラトルなど、著名な指揮者との共演も重ね、その評価を確立しました。

ハイペリオン・レコードでのブリテン歌曲集「赤いオウム」の録音を皮切りに、シューベルトの「美しき水車小屋の娘」など数々の名盤をリリース。グラモフォン賞をはじめとする数々の音楽賞を受賞しています。1996年からはEMI Classicsの専属アーティストとして活動し、グラミー賞にも複数回ノミネートされ、受賞も果たしています。

オペラ歌手としても、バズ・ラーマン演出の「夏の夜の夢」ライサンダー役でデビュー後、「魔笛」のタミーノ役、「ねじの回転」のクイント役など、主要な役柄を演じています。コリン・デイヴィス指揮によるブリテンの「夏の夜の夢」のフルート役、ウィリアム・クリスティとの「後宮からの誘拐」のベルモンテ役など、数々の録音も高く評価されています。

多彩な活動

ボストリッジは、音楽に関する深い知識と洞察を活かし、執筆活動や講演も行っています。著書『Witchcraft and Its Transformations, c. 1650-1750』は、近世悪魔学研究における重要な作品として知られています。また、ニューヨーク・レビュー・オブ・ブック、ガーディアン紙など、様々なメディアに音楽に関する記事を寄稿しています。

2000年には、エディンバラ大学フェスティバルで「音楽と魔術」と題した講演を行い、聴衆を魅了しました。2004年には、音楽への貢献が認められ、大英帝国勲章コマンダー（CBE）を授与されています。

近年では、カーネギーホールでのパースペクティブ・シリーズ、バービカンでのレジデンス「帰郷」など、独自の企画にも取り組んでいます。また、ウェストミンスター寺院での休戦記念日の礼拝でベンジャミン・ブリテンの「戦争レクイエム」から「アニュス・デイ」を歌うなど、特別な機会での演奏も行っています。

2011年にはエッセイ集『A Singer's Notebook（ひとりの歌手のノートブック）』を、2015年には著書『Schubert's Winter Journey: Anatomy of an Obsession（シューベルトの冬の旅:強迫観念の構造）』を出版。後者はダフ・クーパー賞を受賞するなど、高い評価を得ています。

人物

趣味は読書、料理、絵画鑑賞。知的な雰囲気と飾らない人柄で、多くの人々から愛されています。

イアン・ボストリッジは、その卓越した歌唱力と知性、そして音楽への深い愛情によって、これからも多くの聴衆を魅了し続けることでしょう。

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