イスラーム教徒のペルシア征服

イスラーム教徒によるペルシア征服：サーサーン朝の終焉と文化の変遷

イスラーム教徒によるペルシア征服は、7世紀にイスラーム共同体がサーサーン朝ペルシア帝国を打ち破り、その広大な領土を支配下に置いた一連の歴史的出来事を指します。この征服は、中東地域の勢力図を塗り替え、ペルシアの文化、宗教、そして社会構造に深い影響を与えました。

征服の背景：疲弊した帝国の姿

預言者ムハンマドの時代から、イスラーム勢力はアラビア半島を統一し、東ローマ帝国とサーサーン朝ペルシアという二大帝国に目を向けていました。イスラームの伝承によれば、ムハンマド自身が両国に使者を派遣し、イスラームへの改宗を促しましたが、拒否されたため、征服を決意したとされています。

当時のサーサーン朝は、東ローマ帝国との長年にわたる戦争によって国力が著しく疲弊していました。特に、602年から628年まで続いた戦争では、西突厥の介入も招き、ニネヴェの戦いでの大敗北が決定的な打撃となりました。628年にはホスロー2世が暗殺され、カワード2世が即位するも短命に終わり、その後5年間で5人ものシャーが交代するという政治的混乱が続きました。このような状況下で、サーサーン朝はイスラーム教軍との戦いに臨まざるを得なかったのです。

戦闘の推移：メソポタミアからペルシア高原へ

イスラーム教軍が本格的にサーサーン朝への軍事行動を開始したのは、ムハンマドの死後、リッダ戦争に勝利した633年でした。当初はメソポタミア地域に侵攻し、サーサーン朝軍と激戦を繰り広げました。兵力ではサーサーン朝軍が優勢でしたが、ハーリド・イブン＝アル＝ワリードの指揮下にあったイスラーム教軍は、ワラジャ、フィラーズ、クーファなどの戦いで連勝し、633年から634年にかけてメソポタミアの大部分を制圧しました。

637年のカーディシーヤの戦いでは、イスラーム教徒がサーサーン朝の首都クテシフォンを攻略し、ペルシア軍をメソポタミアから駆逐することに成功しました。第2代正統カリフのウマル・イブン＝ハッターブは当初、ペルシア高原への進軍に慎重でしたが、側近たちの進言を受け、ペルシア帝国の完全な滅亡を決意しました。

642年、イスラーム教軍はザグロス山脈を越えてペルシア高原に侵攻し、ニハーヴァンドの戦いでヤズデギルド3世率いるサーサーン朝軍と激突しました。兵力ではサーサーン朝軍が圧倒的に優勢でしたが、士気と錬度の低さから大敗を喫し、ヤズデギルド3世は東方へ逃亡、651年に暗殺されました。この戦いを最後に、サーサーン朝は組織的な抵抗を終え、滅亡へと向かいました。

サーサーン朝滅亡後のペルシア

サーサーン朝の滅亡は、ゾロアスター教を国教とする最後のペルシア系民族の国家の終焉を意味し、ペルシア地域に新たな時代をもたらしました。イスラーム勢力はペルシアを征服し、その高度な技術や学問を吸収することで、急速な発展を遂げました。ペルシアの文化は、東ローマの文化とともに、イスラーム文明の基盤となり、多くの神学、法学、哲学、自然科学の学者たちがペルシア人でした。アラビア文字で表記されるようになったペルシア語は、イスラーム世界東部の共通語として広まり、数々の文学作品を生み出しました。

しかし、ゾロアスター教は国教としての地位を失い、二等宗教として扱われるようになり、信者にはジズヤの支払いなどの差別待遇が課せられました。ゾロアスター教徒の数は徐々に減少し、一部はイスラームの圧迫を逃れてインド亜大陸へ亡命し、その子孫が現在のパールシーと呼ばれる人々です。

関連項目

キリスト教
キリスト教徒

イスラーム教徒によるペルシア征服は、単なる軍事的な征服に留まらず、文化、宗教、社会構造に深い影響を与えた歴史的な転換点でした。この出来事は、現代の中東地域を理解する上で欠かすことのできない要素の一つと言えるでしょう。

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