ウォルター・ルーサー

ウォルター・ルーサー：アメリカ労働運動と社会変革の象徴

ウォルター・フィリップ・ルーサー（1907年9月1日 - 1970年5月9日）は、アメリカの労働運動と公民権運動における重要な指導者であり、全米自動車労働組合（UAW）をアメリカ史上最も革新的な労働組合の一つへと変貌させました。彼は労働運動を単なる利益追求の手段ではなく、民主主義社会における社会正義と人権を推進するための強力なツールとして捉え、その生涯をこれらの理念の実現に捧げました。

労働運動と社会正義への貢献

ルーサーは、世界中の労働者の権利、市民の権利、女性の権利、ユニバーサルヘルスケア、公教育、適正な住宅価格、環境保護、そして核不拡散を推進するために、UAWの財力と影響力を積極的に利用しました。彼は、スウェーデン型の社会民主主義と非暴力による市民的不服従を支持し、これらの原則に基づいた社会変革を目指しました。1955年には、ジョージ・ミーニーと共にアメリカ労働総同盟・産業別組合会議（AFL-CIO）を設立し、労働運動の統合に貢献しました。

政治への関与と影響力

ルーサーは、退職者やその家族を含めた500万人以上の自動車関連労働者のリーダーとして、民主党内部にも大きな影響力を行使しました。彼は、ジョン・F・ケネディ大統領からキューバへの特使として派遣され、フィデル・カストロとの捕虜交換交渉を担当しました。また、平和部隊の創設を主導し、1964年の公民権法、1965年の投票権法、メディケアとメディケイド、そして公正住居法の成立を支援しました。リンドン・ジョンソン大統領とは、毎週のようにホワイトハウスで会談し、偉大な社会や貧困との戦いに関する政策や法案について議論を重ねました。

しかし、ルーサーの活動は保守派から強い警戒を招き、1960年の大統領選挙では、リチャード・ニクソン候補から「政治ボス」と批判され、バリー・ゴールドウォーターからは「スプートニクよりも危険」とまで評されました。

公民権運動への献身

マーティン・ルーサー・キング・ジュニアとは深い親交を結び、公民権運動を強力に支援しました。デトロイト、セルマ、バーミングハム、モンゴメリー、ジャクソンなどでの行進にキングと共に参加し、バーミングハムでキングらが収監された際には、抗議者たちの釈放のために資金を提供しました。また、1963年のワシントン大行進の計画と資金調達を支援し、キングの歴史的な「I Have a Dream」演説の前座として演説を行いました。

セサール・チャベスと全米農業労働者組合の支援者でもあり、ロバート・ケネディにチャベス訪問と支援を要請しました。全米黒人地位向上協会（NAACP）の役員を務め、民主的行動のためのアメリカ人の共同創設者の一人でもありました。

環境保護への取り組み

生涯にわたる環境保護主義者でもあり、1970年の最初のアースデイの組織と資金調達に重要な役割を果たしました。最初の全国的なアースデイ主催者であるデニス・ヘイズは、「UAWの存在がなければ、最初のアースデイは失敗しただろう」と述べています。

生涯と遺産

ルーサーは、『タイム』誌によって20世紀で最も重要な人物の一人に選ばれました。1995年には、ビル・クリントン大統領から大統領自由勲章を没後追贈されました。クリントン大統領は、彼の追悼式典で「ルーサーは時代をはるかに先んじたアメリカの先見の明を持った人物であり、彼の死後四半世紀が経過した今でも、わが国は彼の夢にまだ追いついていません」と述べました。

生い立ちと教育

1907年9月1日、ルーサーはウェストバージニア州ホイーリングで、ドイツ系アメリカ人のヴァレンタインとアンナ（旧姓ストッカー）ルーサーの間に生まれました。父親のヴァレンタインは11歳でドイツから移民し、ビール配達の御者であり、社会主義運動の組織者でした。ルーサーは、毎週日曜日に父親が開く討論会で、イエロージャーナリズム、児童労働、女性参政権、公民権といった社会問題について、自分の頭で考えることを学びました。彼は後に、「父の膝の上で、労働組合主義の哲学を学び、労働者の闘いや希望を日々知った」と回想しています。

ルーサーの幼少期は質素なものでしたが、倹約することを学びました。母親は使用済み小麦粉の袋から子供たちの下着を作り、9歳の時には父親が事故で失明したため、家計を助けるために雑用を始めました。高校を中退後、工場で働き始めましたが、安全対策の不備によって足の親指を切断する事故に遭いました。幼い頃から人種主義に反対する教えを受け、人種や経済的平等のために戦うことを決意しました。

デトロイトへの移住と労働運動への参加

1927年、19歳のルーサーはデトロイトに移り、フォード・モーターで工具・金型製造の専門職に就きました。彼は、青図や金型を読む能力が高く、工場で最も高い給料をもらう技術者の一人となりました。フォードで働く傍ら、高校を卒業し、デトロイト・シティ・カレッジ（現在のウェイン州立大学）に入学しました。1932年、大統領選挙で社会党のノーマン・トーマスを応援したことが原因でフォードを解雇されました。しかし、彼はこれを機に、子供の頃からの夢だった世界旅行に出かけることを決意しました。

世界旅行と帰国

フォード・モデルTの生産設備がソビエト連邦に売却された際、ルーサーは兄弟とともに、その設備操作を指導する仕事に就きました。彼は3年間にわたる旅行で、ヨーロッパを自転車で巡り、ソ連の工場で働きました。その後、トルコ、イラン、インド、中国を旅し、最後に日本を訪れました。この世界旅行で、彼は「すべての人々が、自由と子供たちにより大きな機会を与えられる安定した仕事を求めている」ことを実感し、アメリカの労働者が強く民主的な労働組合を組織する手助けをしたいと考え、労働運動に身を投じました。

政治的立場と党派性

ルーサーは民主党に入党する前、アメリカ社会党の党員でした。ジョン・エドガー・フーヴァーをはじめとする人々は、彼が一時的に共産党員であったと疑っていましたが、ルーサー自身はそれを否定しました。1938年、彼は「共産党員でもなければ、その政策の支持者でもない」と述べています。しかし、1930年代半ばには共産主義者と協力関係にあり、UAW内部の問題で共産党と意見を一致させていました。その後、フランクリン・ルーズベルト大統領の不平等に対する取り組みに感銘を受け、民主党員となりました。

ウォルター・ルーサーは、労働運動と社会正義の象徴として、その功績は今日でも高く評価されています。

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