オシリス (惑星)

オシリス (HD 209458 b) について

オシリス、またはHD 209458 bは、ペガスス座の恒星HD 209458を公転する太陽系外惑星です。この惑星は、ホット・ジュピターに分類され、その特徴的な性質から多くの注目を集めてきました。質量は木星の約0.69倍、半径は約1.4倍と推定されており、中心星からわずか0.045天文単位の位置を、約3.5日という短い周期で公転しています。表面温度は約1,200℃に達する高温の惑星です。

系外惑星研究における重要なマイルストーン

HD 209458 bは、系外惑星研究において数々の重要な発見をもたらしました。以下に、その主な成果を挙げます。

トランジット観測の初成功: この惑星は、トランジット（惑星が恒星の前を通過する現象）によって観測された最初の系外惑星です。
複数の検出方法: 視線速度法とトランジット法という複数の検出方法で発見された初めての惑星です。
大気の確認: 大気を持つことが初めて確認された系外惑星です。
水素大気の流出: 大気から水素が流出していることが確認された初めての惑星です。
大気中の酸素と炭素の発見: 大気中に酸素と炭素が存在することが発見された初めての惑星です。
分光観測による直接観測: 分光観測で直接観測された2つの系外惑星のうちの一つです。
巨大な嵐の測定: 巨大な嵐が観測された初のガス惑星です。
軌道速度の測定と質量決定: 軌道速度が測定され、質量が直接決定された初めての惑星です。
* 大気中の水蒸気の発見: 新しい理論モデルによって、大気中に水蒸気が存在することが発見された最初の系外惑星と考えられています。

2014[[年]]7月には、NASAによってHD 209458 bを含む複数の系外惑星の大気が非常に乾燥していることが発表されました。

名称の由来

オシリスという名前は、古代エジプト神話の冥界の王オシリス神に由来します。この名前は、惑星が大気を失っている様子が、オシリス神が体を切り刻まれて失った物語に似ていることから、大気の流出を初めて発見した研究者によって提案されました。ただし、この愛称は正式なものではなく、学術論文などでは引き続き「HD 209458 b」という名称が用いられています。

発見と観測

視線速度法とトランジット観測

HD 209458 bの存在は、まず視線速度法によって検出されました。その後、トランジットが検出され、その存在が確実なものとなりました。トランジットの初検出は、ハーバード・スミソニアン天体物理学センターとテネシー州立大学の2つの研究チームが競合する形で行われました。

主星であるHD 209458は、ケック望遠鏡とオート＝プロヴァンス天文台の望遠鏡を用いた視線速度法による観測の対象となっていました。1999[[年]]8月には視線速度の変動が検出され、その後の観測で惑星候補の軌道要素やトランジットの予測日時が判明しました。これを受けて、Charbonneauらのグループは1999[[年]]8月29日以降、HD 209458の測光観測を行い、9月9日と16日にトランジットを検出しました。

一方、HenryらのグループもHIRESを用いた観測で視線速度の変動を検出し、測光観測を開始しました。1999[[年]]11月7日には、フェアボーン天文台の望遠鏡を用いてトランジットを検出しましたが、観測は前半部分のみでした。両グループは、互いの観測結果を論文として発表し、アストロフィジカルジャーナルの同じ巻に掲載されました。

主星はヒッパルコス衛星によって繰り返し観測されていたため、HD 209458 bの公転周期は3.524786日と非常に正確に計算されています。

分光観測

分光観測による視線速度の変動から、惑星の質量は0.69木星質量と推定されました。トランジットの検出により、惑星の半径も計算できるようになり、木星半径よりも約35％大きいことが判明しました。

直接検出

2005[[年]]3月22日、NASAはスピッツァー[[宇宙望遠鏡]]を用いた観測で惑星から放出される赤外線を検出し、これは系外惑星からの放射の初めての直接的な検出となりました。これは惑星からの光を恒星からの光と空間的に分解した観測ではありませんが、二次食を用いた観測であり、惑星の表面温度が少なくとも750℃であることが判明しました。

また、HD 209458 bは比較的大きな半径を持つため、別の天体の影響で軌道[[離心率]]が大きくなり、潮汐力によって半径が大きくなっていると考えられていましたが、この観測によって軌道が円軌道であることが確認されました。

スペクトルの観測

2007[[年]]2月21日、NASAとネイチャー誌はHD 209458 bおよびHD 189733 bのスペクトルを直接観測したと発表しました。これは、系外惑星のスペクトルが直接観測された最初の例です。この観測では、大気中の水蒸気の存在を示すピークは確認されませんでしたが、ケイ酸塩のダスト雲が存在する可能性が示唆されました。

2010[[年]]6月23日には、HD 209458 bの大気中に時速7000キロメートルに達する巨大な嵐が存在することを初めて測定しました。この観測では、一酸化炭素ガスが非常に速い速度で昼側から夜側へ移動していることが示されました。

公転面

2008年のロシター・マクローリン効果の測定では、惑星の公転面と主星の赤道面のずれは-4.4 ± 1.4°と測定されています。

物理的特性

ホット・ジュピターは、恒星に近い位置を公転するために大気が加熱されて膨張していると考えられています。HD 209458 bも同様のメカニズムで半径が大きくなっている可能性があります。また、潮汐加熱も半径に影響を及ぼしている可能性があります。

成層圏と上層雲

HD 209458 bの大気は、惑星の中心から1.29木星半径の高度で1バール（100キロパスカル）になります。大気の圧力が33±5ミリバールになる高度で大気は透明になり、レイリー散乱の影響が検出できます。この高度での温度は2200±260Kです。

MOST宇宙望遠鏡の観測では、惑星のアルベド（反射率）が0.3以下と制限されており、非常に暗い天体であることが示されています。理論モデルでは、大気の上層部とマントルを取り囲む高温・高圧のガスの間には、より低温の成層圏が存在することが示されています。

外気圏と大気散逸

成層圏の上部には外気圏が存在します。2001[[年]]には、ハッブル[[宇宙望遠鏡]]によってHD 209458 bの大気中からナトリウムが検出されました。2003[[年]]から2004年にかけては、水素、炭素、酸素からなる巨大なエンベロープが発見されました。この惑星は、1秒あたり1-5×10^8kgもの水素を失っていると推定されています。

大気中の水蒸気の可能性

2007[[年]]4月10日、ローウェル天文台の研究者は、惑星の大気中に水蒸気が存在するという証拠を発表しました。その後、2009[[年]]には、ジェット推進研究所の研究者らが、水蒸気、二酸化炭素、メタンを発見したと発表しました。

磁場

2014[[年]]には、HD 209458 bから水素が蒸発していく様子から、惑星の周囲の磁場に関する示唆が与えられました。この研究では、惑星の磁場が木星の約10分の1の強さであることが示唆されました。

まとめ

HD 209458 bは、その特異な性質から、太陽系外惑星の研究において非常に重要な役割を果たしている惑星です。今後も、さらなる観測によって、この惑星の謎が解き明かされていくことが期待されます。

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