オリエント学

オリエント学とは、地中海世界東部地域、いわゆる「オリエント」の文化を研究する学問です。欧米では、ヨーロッパ中心の視点から「東洋」全体を指す学問体系として発展しました。北アフリカのイスラム文化圏も含まれており、東洋学全般を包含する広範な分野でした。しかし、現代の欧米の大学では、中近東学、トルコ学、インド・ペルシャ学など、より専門性の高い細分化が進んでいます。そのため、従来のオリエント学と区別する必要性から、「古代オリエント学」や「狭義のオリエント学」と呼ばれることもあります。特にアメリカでは、「オリエント」という名称が差別用語とみなされる傾向があるため、「古代中近東学」という名称が一般的になりつつあります。ただし、シカゴ大学オリエンタル・インスティトゥートのように、伝統的な名称を維持している機関もあります。

一方、「オリエンタリズム」という言葉は、近年のカルチュラル・スタディーズやポストコロニアル研究において、異なる意味で用いられています。

日本のオリエント学は、古代オリエント文明の研究にとどまらず、マグレブ諸国から中近東諸国までの、古代から現代までの文化、言語、歴史、政治、経済、社会生活全般を研究対象としています。日本オリエント学会が中心となり、研究・調査活動を行っています。

研究対象地域は、メソポタミアを起点に、東地中海沿岸地域（アナトリア、レバノン、ヨルダン、シリア、イスラエル、パレスチナ）、アラビア半島、イラン、そして古代エジプト文明圏まで広がります。考古学的、文献学的な研究を通して、これらの地域の古典文化を多角的に解明することを目指しています。研究対象となる時代は主に古代ですが、日本オリエント学会などでは、サーサーン朝時代やイスラーム化以降の時代も研究対象に含める場合があります。そのため、中東学と研究対象が重複する部分もあり、区別が難しいケースもあります。

古代オリエント学は、主にエジプト学とアッ[[シリア]]学の二大分野に大別されます。エジプト学はヒエログリフ、アッ[[シリア]]学は楔形文字を扱うのが特徴です。これらの文字文化が終焉した後の時代は、一般的に古代オリエント学の研究対象外とされます。つまり、アレキサンダー大王による遠征以前（紀元前322年以前）が中心となります。

古代オリエント学のさらに専門的な分野としては、アッ[[シリア]]学（シュメール学、エラム学、ヒッタイト学など）、エジプト学、イラン学、ヘブライ学などが挙げられます。また、イスラーム化以降の時代まで対象とするイスラーム学やアラビア学、トルコ学なども、広義のオリエント学に含まれることもあります。

古代オリエント学の発展史は、重要な発見の数々と密接に関連しています。1799年のロゼッタ・ストーン発見、1822年のシャンポリオンによる解読、1835年のローリンソンによるベヒストゥン碑文解読などは、オリエント学の発展に大きな転換をもたらしました。19世紀後半から20世紀にかけては、盛んな発掘調査が展開されました。ニネヴェ、ニムルド、ウルク、バビロン、ツタンカーメン王の墓、ウガリット、マリ、エリコ、チャタル・ヒュユクなど、数々の遺跡の発掘調査から、膨大な資料が発見され、古代オリエント文明研究は飛躍的な進歩を遂げました。これらの研究は、現代の歴史学、考古学、言語学、文化人類学などの発展にも大きく貢献しています。

もう一度検索