カトリック教会の歴史

カトリック教会の歴史は、組織としてのローマ・カトリック教会の成立とその発展、およびカトリック神学思想の変遷を深く掘り下げるものです。

古代

キリスト教が古代ローマ帝国において公的に認められると、首都ローマの司教は使徒ペトロの後継者としての地位を主張し、神の国への入り口を開く権威を持つと宣言しました。これは、後の教皇首位説の萌芽とも言えます。また、この時期には、東西教会間の教義解釈における相違が顕著になりました。特に、ニカイア・コンスタンティノポリス信条をラテン語に翻訳する際に、西方教会が「子からも」という文言（フィリオクェ）を付け加えたことは、後に東西教会が分裂する大きな要因となりました。西方教会は、これはイエス・キリストを通じてのみ救済が得られることを強調するための分かりやすい意訳だと主張しましたが、東方教会は信条への不当な変更であるとして受け入れませんでした。この出来事をもって、両者の対立の端緒が開かれたと言えます。

西ローマ帝国が衰退期に入り、その原因をキリスト教に求める声が上がると、ヒッポのアウグスティヌスは主著『神の国』を著し、地上の国家と神の国を峻別することで、キリスト教に対する批判に反論しました。

中世

8世紀頃、フランク王国のピピン3世からの土地の寄進によって教皇領が成立し、ローマ教皇は精神的な権威に加え、地上の支配権も確立しました。中世カトリック教会は、異端審問や十字軍派遣といった権力的な側面を持つ一方で、文化的には豊かな成果を残しました。ドミニコ会やフランシスコ会といった新しい修道会が設立され、信仰の実践と学問が深められました。アンセルムスやトマス・アクィナスのような偉大な神学者が現れ、またダンテ・アリギエーリの『神曲』に描かれた「煉獄」の概念が教会の正式な教義として認められるなど、思想や文学にも影響を与えました。しかし、14世紀初頭には、フランス国王フィリップ4世による教皇庁のアヴィニョンへの移転（アヴィニョン捕囚）が発生し、教皇がフランス王権の強い影響下に置かれることで教会の権威は失墜し、後に教会大分裂へと繋がりました。14世紀以降、イタリアを中心にルネサンス運動が活発化し、ミケランジェロ、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ラファエロといった巨匠たちが活躍しました。教皇ユリウス2世は、ミケランジェロにシスティーナ礼拝堂の天井画制作を依頼するなど、芸術の保護者としての役割も担いました。

対抗宗教改革

16世紀にマルティン・ルターやジャン・カルヴァンらによって宗教改革が開始されると、カトリック教会はこれに対抗するための改革（対抗宗教改革）に着手しました。トリエント公会議が開催され、教義や規律の刷新が図られ、ヴルガータが教会の公認聖書として改めて承認されました。ローマ教皇庁はヨーロッパ各国の君主に対し、プロテスタント勢力への対抗を働きかけました。イングランド王国では、ヘンリー8世の離婚問題から始まったプロテスタント化に対し、一時メアリー1世のもとでカトリックへの復帰が試みられましたが、エリザベス1世の治世にイングランド国教会が確立され、カトリックの再建はなりませんでした。

近代

フランス革命期には、啓蒙思想が台頭し、理性崇拝が唱えられました。カトリック教会はこうした動きに強く反発し、革命政府当局との間に激しい対立が生じました。18世紀以降、アジアへの宣教活動も盛んになり、パリ外国宣教会などが中国や日本を含む各地に宣教師を派遣しました。19世紀にはテオドール＝オギュスタン・フォルカードが日本に渡来しています。特にイエズス会は積極的な宣教を行いましたが、中国宣教における現地の慣習（典礼）への適応を巡って教会内部で論争が起こりました。スペイン継承戦争やオーストリア継承戦争といった世俗国家間の紛争にも教皇庁は関与しましたが、最終的には国家権力が教会の影響力を凌駕する傾向が強まり、教皇庁もこれを受け入れざるを得なくなりました。例えば、フランスにおける教会への国家干渉主義（ガリカニスム）の撤廃を求めたものの、拒否されています。1869年に始まった第1バチカン公会議では、教皇の教会全体に対する首位権や、信仰・道徳に関する教皇の不可謬性が教義として承認されました。これに反対する一部勢力は教会を離脱し、復古カトリック教会を設立しました。19世紀には、それまで聖職者に限られていた聖書朗読が一般信徒にも認められるようになり、信仰の実践において大きな変化が見られました。

現代

20世紀

1929年、イタリア政府との間でラテラノ条約が締結され、バチカン市国が独立国家として成立し、中世から続いた教皇領の歴史は終焉を迎えました。第二次世界大戦期には、バチカンはイタリアやスペインなどに樹立されたファシスト政権やそれに類する体制を承認しましたが、これは後に共産主義などに対抗するための選択であったとされる一方で、ユダヤ人虐殺への対応などを含め、厳しい批判に晒されることとなりました。この時期にはオプス・デイも設立されています。1960年代に開催された第2バチカン公会議は、教会の刷新を目指し、典礼の変更や信徒の役割拡大、他教派や他宗教との対話の推進などを打ち出しました。この公会議では、イヴ・コンガール、カール・ラーナーといったリベラル派の神学者が重要な役割を果たしました。また、東方正教会やプロテスタント諸派、さらにはマルクス主義との対話が模索されました。1978年には、初の非イタリア人教皇として、当時社会主義国であったポーランド出身のカロル・ユゼフ・ヴォワティワ枢機卿がヨハネ・パウロ2世として選出されました。この頃から、バチカンは中華人民共和国との国交正常化に向けた模索を開始しています。

21世紀

2005年、ヨハネ・パウロ2世の逝去に伴い、ドイツ出身のヨーゼフ・ラッツィンガー枢機卿がベネディクト16世として第265代ローマ教皇に選出されました。2006年には、ベネディクト16世がイスラム教に関するビザンティン皇帝の過去の言葉を引用し、イスラム教の暴力的側面を示唆した発言が大きな波紋を呼び、イスラム世界からの強い反発を受けました。これに対し、教皇は謝罪を表明しましたが、この一件は西洋におけるイスラム教への警戒感を高める一因となりました。その後、バチカンは中国、ロシア、ベトナムといった各国との関係改善や国交正常化に向けた協議を重ねていきました。2013年、ベネディクト16世は高齢を理由に生前退位という異例の決断を下し、名誉教皇となりました。これを受けて開催されたコンクラーヴェにより、アルゼンチン出身のホルヘ・マリオ・ベルゴリオ枢機卿がフランシスコとして後継の教皇に選ばれ、現在に至っています。

もう一度検索