ショット (戦車)

ショット：イスラエルが誇る改造戦車

ショット（ヘブライ語: שוט, Sho't）は、イスラエルがイギリス製のセンチュリオン戦車を独自に改造した車両の名称です。「鞭」や「天罰」を意味するこの名は、戦場での強烈な打撃力を期待して名付けられました。初代首相ベン＝グリオンにちなんだ「ベングリオン」という通称もありますが、これは西側メディアによるもので、イスラエル国防軍（IDF）内部では「ショット」が正式名称です。

センチュリオン導入の背景

建国当初のイスラエル国防軍は、第二次世界大戦後の余剰となったM4シャーマン戦車を再生利用していました。その後、フランス製のAMX-13軽戦車を導入し、M50/M51スーパーシャーマンを開発するなど、機甲戦力の近代化を図ります。しかし、M4シャーマンの火力強化は限界に達し、装甲防御力も不足していました。

一方、周辺のアラブ諸国は、T-54/55、IS-3、M47/M48パットン、センチュリオンといった新型戦車を次々と導入。イスラエル国防軍はアメリカからM48A1/A2を導入するとともに、イギリスとの間でチーフテン戦車の共同開発・購入契約を結ぶ代償として、イギリス陸軍の余剰センチュリオンを導入することになりました。その後も、ヨーロッパ各国から中古のセンチュリオンを大量に導入し、最終的な保有数は1,000両を超えました。

ショットの戦歴

期待と失望

初めて導入された戦後第一世代戦車として、イスラエル軍はセンチュリオンに大きな期待を寄せました。しかし、実戦投入の結果、ヨーロッパでの運用を前提とした設計が、中東の環境には適さないことが判明します。主砲の20ポンド砲は遠距離での命中精度が低く、ガソリンエンジンの航続距離も短いため、長時間の機動作戦には不向きでした。また、ブレーキやトランスミッションなどの機関部も、砂漠地帯での運用には適していませんでした。

改修と実戦

これらの問題を解決するため、イスラエル軍はセンチュリオンの近代化改修に着手します。まず、主砲をL7 105mm戦車砲に換装。これにより、遠距離での命中精度と装甲貫徹能力が向上しました。また、エンジンをアメリカ製のディーゼルエンジンに換装し、機械的信頼性と整備性を向上させました。

改修されたショットは、1967年の第三次中東戦争でM50/M51スーパーシャーマンやM48パットンと共に活躍。ゴラン高原やヨルダン川西岸地区、ガザ地区、シナイ半島の占領に貢献しました。しかし、フランスとイギリスによる武器禁輸措置を受け、イスラエルは国産戦車メルカバの開発に着手。それまでの間、M48/M60パットンを追加導入し、鹵獲したT-54/55をチラン4/5に改修するとともに、既存のM48やショットのさらなる改修を行うこととなりました。

第二次改修

機関部を中心に改修が行われ、アメリカ製コンチネンタルAVDS-1790-2AディーゼルエンジンとアリソンCD850-6変速機に換装され、砂漠地帯における機械的信頼性と整備性、操縦性が飛躍的に向上しました。その後も新型の射撃管制装置や砲安定装置を搭載し、キューポラもマガフと同様にハッチを少し開けた状態で固定することで車長が頭部を車外に曝すことなく外部を視認できる機構を有するタイプに換装するなどの改良を受けました。

第四次中東戦争

1973年の第四次中東戦争において、マガフは主にシナイ半島におけるエジプトとの戦闘に投入され、9M14 マリュートカ対戦車ミサイルやRPG-7によって砲塔旋回装置の作動油に引火して炎上し多数の損失を被りましたが、ショットは砲塔左右両側面部の雑具箱やサイドスカートが中空装甲の役割を果たしたことや、各区画に隔壁を設けて被害拡大を防ぐなどの生存性の高い基本設計とにより、損害は比較的軽微なものにとどまりました。ゴラン高原ではシリア軍のT-54/55やT-62と交戦し、「涙の谷」と呼ばれる戦場を形成。ショットは、その信頼性と戦闘能力を証明しました。

引退と再生

メルカバの登場により、ショットは主力戦車の地位を譲りますが、ブレイザー爆発反応装甲（ERA）やスモークディスチャージャーを装備するなど、さらなる近代化改修を受けました。レバノン内戦にも投入されましたが、その後現役を退き、ナグマショット装甲兵員輸送車やプーマ戦闘工兵車などに改造され、第一線での運用が続けられています。

バリエーション

ショット・ミーティア: オリジナルのミーティアガソリンエンジン搭載型
ショット・カル A（アレフ）: L7 105mm砲とディーゼルエンジン換装型
ショット・カル B（ベット）: 砲塔旋回装置改修型
ショット・カル C（ギメル）: エンジン排気管の移設、発煙弾発射機装備型
ショット・カル D（ダレット）: マタドールFCS換装型

派生型

ソルタムM72 155mm自走榴弾砲: ショットの車体に155mm榴弾砲を搭載
MAR-290: 290mmロケット弾の自走式多連装ロケットランチャー
ナグマショット: 砲塔を撤去した装甲兵員輸送車
ナグマホン: ナグマショットの改良型
ナグマホン・ドッグハウス: 戦闘室上に「Doghouse」と呼ばれる箱形の戦闘室を設置した歩兵戦闘車
ナクパドン: 防御力を強化した装甲兵員輸送車
プーマ戦闘工兵車: ショット・カルを改修した戦闘工兵車

登場作品

* 映画『レバノン』：レバノン内戦に出撃したショットが登場

ショットは、イスラエルの機甲戦力を支えた重要な戦車であり、その改造と運用の歴史は、イスラエルの国防戦略を反映しています。

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