スズキ・バレーノ

スズキバレーノ：グローバル戦略車としての軌跡

スズキバレーノは、インド市場を中心に世界各国で販売されているハッチバックタイプの乗用車です。日本では2016年から2020年まで販売されましたが、その短い期間で多くの話題を提供しました。この記事では、バレーノの初代モデルを中心に、その特徴や歴史、日本市場での展開について詳しく解説します。

初代バレーノ（WB32S/42S型：2015年 - 2022年）

開発の背景と特徴

初代バレーノは、2015年のジュネーブモーターショーで発表されたコンセプトカー「iK-2」をベースに開発されました。インドのマルチ・スズキ・インディアで生産され、世界中に供給されるグローバルモデルとして位置づけられています。

当時、スズキの鈴木修会長は「インドで最も売れるため、インドで生産するのが最適。インドの工場は日本のレベルに達しており、コスト面でもメリットがある」と述べており、スズキにとってインドが重要な生産拠点であることがわかります。また、日本市場に投入されたモデルは、インド生産車として初めての事例であり、自動車業界内でも注目を集めました。

車名の「バレーノ」は、イタリア語で「閃光」を意味し、かつて3代目カルタス（クレセント）の欧州名として使用されていたものを再利用しています。

インド市場での成功と日本市場での苦戦

インド市場では、バレーノは発売当初から高い人気を誇り、2021年には年間販売台数でワゴンR、スイフトに次ぐ3位となる17万台以上を売り上げました。しかし、日本市場では年間6,000台の販売目標に対し、その20%以下の販売台数にとどまり、2020年には販売を終了しています。この背景には、日本市場におけるコンパクトカーの競争激化や、消費者のニーズとのミスマッチがあったと考えられます。

トヨタへのOEM供給

2018年には、トヨタ自動車との間で完成車相互供給の基本合意が締結され、2019年からはインド市場向けに「トヨタ・グランツァ」としてOEM供給が開始されました。さらに、2020年にはアフリカ市場向けに「トヨタ・スターレット」として販売されています。これは、スズキとトヨタの提携関係を象徴する出来事と言えるでしょう。

メカニズム

バレーノは、新開発のBセグメント用プラットフォームを採用しています。このプラットフォームは、軽量化と高剛性を両立しており、優れた走行性能に貢献しています。また、最小回転半径が4.9mと小さく、取り回しの良さも特徴です。

ボディサイズはスイフトとほぼ同等ですが、全長と全幅がやや大きく、全高はやや低く設計されています。これにより、居住性とラゲッジスペースが向上しています。開発を担当したチーフエンジニアは、競合車種としてフォード・フィエスタやフォルクスワーゲン・ポロなどの海外メーカーのコンパクトカーを想定していたと述べています。

パワートレーン

日本市場向けのパワートレーンは、1.2L直列4気筒「デュアルジェットエンジン」と1.0L直列3気筒ガソリン直噴ターボエンジン「ブースタージェットエンジン」の2種類が用意されました。

「デュアルジェットエンジン」は、高効率な燃焼を実現するデュアルインジェクションシステムやクールドEGRシステムを採用し、優れた燃費性能を発揮します。「ブースタージェットエンジン」は、小排気量ながらターボチャージャーを搭載することで、1.6Lエンジンに匹敵する高出力と高トルクを実現しました。

トランスミッションは、デュアルジェットエンジンにはCVT、ブースタージェットエンジンには6速ATが組み合わされます。

安全装備

安全面では、ミリ波レーダー方式の衝突被害軽減システム「レーダーブレーキサポートII」が標準装備されています。これにより、前方衝突警報機能や自動ブレーキ機能などが利用可能です。また、ESP、エマージェンシーストップシグナル、ヒルホールドコントロールなども標準装備されており、高い安全性を確保しています。

年表

2015年
2月：ジュネーブモーターショーでコンセプトカー「iK-2」を発表。
9月：フランクフルトモーターショーで「バレーノ」を世界初公開。
10月：インドで生産・販売を開始。
10月：東京モーターショーに参考出品。
2016年
3月：日本で販売開始（1.2Lモデル）。
5月：日本向けに1.0Lターボモデルを追加。
11月：日本向けに新グレード「XS」を追加。
12月：日本向けの最廉価グレード「XG」の販売を終了。
2018年
5月：日本向け「XT」の仕様変更（燃料をレギュラーガソリンに変更）。
2019年
1月：インド向けにマイナーチェンジモデルを発表。
4月：日本向けボディカラー設定を変更。
2020年
3月：日本向け仕様の生産を終了。
7月：日本市場向け販売を終了。
2021年
11月：インドでの国内累計販売100万台を達成。

2代目バレーノ（2022年 - ）

概要

2代目バレーノは、初代モデルのパッケージングを維持しつつ、内外装の刷新と装備の充実化が図られました。エクステリアは、ルーフライン後方にかけて傾斜が強調され、よりスポーティな印象になりました。また、フロントグリルはワイド化され、クローム加飾が施されています。

インテリアでは、9インチのタッチパネルディスプレイオーディオやヘッドアップディスプレイ、コネクテッドサービス「スズキコネクト」などが採用され、先進性が向上しました。

グレード構成

グレードは、エントリーの「デルタ」と上級の「ゼータ」の2つが設定されています。

CNG仕様

CNG（圧縮天然ガス）仕様も設定され、1.2Lエンジンでガソリンと圧縮天然ガスの両方を使用できます。これにより、環境性能と経済性が向上しています。

日本市場への再投入

2代目モデルについても日本市場への再投入が検討されましたが、最終的にはバレーノとプラットフォームを共有するコンパクトSUVのフロンクスを投入することになりました。

まとめ

スズキバレーノは、インド市場を中心に世界中で販売されているグローバルモデルです。初代モデルは日本市場では販売台数が伸び悩みましたが、その斬新なデザインと優れた走行性能は、多くの人に印象を残しました。2代目モデルでは、さらに進化を遂げ、今後もグローバル市場での活躍が期待されます。

スズキ・バレーノ