セラピス

セラピス：ヘレニズム期エジプトの習合神

セラピス（またはサラピス、古代ギリシア語: Σάραπις）は、古代エジプトのヘレニズム時代に登場した習合神です。プトレマイオス朝の統治下で、エジプトの宗教とギリシアの宗教を融合させる試みから生まれました。特にアレクサンドリアのセラペウムが有名で、その信仰は古代ローマにも広がりました。

起源

プトレマイオス1世は、エジプト人と支配者であるギリシア人との宗教的統合を目指しました。エジプトの神官たちが過去の支配者（ヒクソス）の神セトを呪っていたため、両者に受け入れられる神を見つける必要がありました。アレクサンドロス大王はアメン神を考えていましたが、アメン神は上エジプトで人気がある一方、ギリシア人の影響が強い下エジプトではそれほどではありませんでした。ギリシア人は動物の頭を持つ像に馴染みがなかったため、ギリシア風の人間像が選ばれ、アピス神と同一視されました。これが「アセル＝ハピ」（オシリス＝アピス）となり、セラピスへと変化しました。このセラピスは、オシリスの霊魂だけでなく、完全な存在として崇拝されました。

歴史

セラピスに関する最古の記録の一つに、アレクサンドロス大王の死にまつわる話があります。紀元前323年、重篤な状態にあったアレクサンドロス大王をバビロンのセラピス神殿に移すべきか神託を伺ったという記述があります。しかし、この時代にセラピスがバビロンで崇拝されていたという記録は、プトレマイオス朝を起源とする説と矛盾するため、アッリアノスの時代錯誤であるとする説もあります。一方で、バビロンにはエンキ神という深淵の王「セラプシ」と呼ばれていた神がおり、アッリアノスがこのセラプシとセラピスを混同した可能性があるという説もあります。

プルタルコスによれば、プトレマイオス1世の夢に、見知らぬ神が現れ、シノーペからアレクサンドリアに神像を運ぶよう命じたとされています。アレクサンドリアに運ばれた神像は、エレウシスの秘儀を司る祭司の家系であるEumolpidaeと、エジプトの学者で神官のマネトによってセラピスであると宣言されました。こうして、エジプトとギリシア両方の視点から権威づけが行われました。

一部のエジプト学者は、プルタルコスの記述するシノーペは、メンフィスに既に存在していたセラペウムがあった「シノペイオンの丘」のことだと主張しています。タキトゥスによれば、セラピスはもともとラコティスという村で祀られていた神であり、アレクサンドリアという大都市に持ち込まれて信仰が急速に拡大したとされています。プトレマイオス1世は、自らをディオニューソスの末裔と称し、セラピスとの同一性を強調しました。

セラピスは、妻であるイシスと息子であるホルス（ギリシア化されたハルポクラテス）とともにギリシア世界で重要視されるようになりました。アヌビスはケルベロスと同一視され、古代ローマでも信仰されるようになりました。ローマでは、カンプス・マルティウスに建てられたイシスの聖域でセラピスも崇拝されました。ウェスパシアヌス帝の時代には、アレクサンドリアで体験した奇跡がセラピスによるものとされ、その信仰がさらに広がりました。フラウィウス朝以降、硬貨には皇帝とともにセラピスが描かれるようになりました。セラピスの信仰は385年まで続きましたが、キリスト教徒によるアレクサンドリアのセラペウム破壊や、テオドシウス1世がキリスト教を国教としたことで、その信仰は忘れ去られることになりました。

初期のアレクサンドリアのキリスト教徒の中には、セラピスとイエスを混同して礼拝し、区別なく崇拝する者もいました。ハドリアヌス帝のものとされる書簡には、エジプトでキリスト教徒を自称する人々がセラピスを崇拝していることや、セラピス信仰と称したキリスト教信仰など、信仰や慣習の大きな混乱があったことが記されています。

セラピスの姿

セラピスの神像は、時代や地域によってさまざまな形態をとりました。頭に穀物を量る容器（モディウス）を載せた、ギリシアの冥府の王ハーデース（またはプルートー）に似た像や、手に王笏を持った像、冥府の番犬ケルベロスを従えた像、足元にヘビが描かれた像などが存在します。これらの像は、エジプトの王権の象徴である蛇形記章（ウラエウス）を模しているとされています。

ギャラリー

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参考文献

P. プティ、A. ラロンド 『ヘレニズム文明―地中海都市の歴史と文化』北野徹訳、白水社、文庫クセジュ、2008年
Ancient Egypt: the Mythology - Serapis
"Immoralities of the Gods: Of the fugitive Serapis chased from Sinope to Alexandria", by Theophilus of Antioch

関連項目

アルゴスのアーピス
セラピス・ベイ
古代ローマ

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