チョークス・オーシャン・エアウェイズ

チョークス・オーシャン・エアウェイズ：飛行艇が彩った90年の歴史

チョークス・オーシャン・エアウェイズは、1917年から2007年までアメリカ合衆国で運航していた航空会社です。特に、飛行艇による定期便を運航していたことで知られ、その歴史は90年にも及びます。設立から運航停止まで、数々の変遷を経てきた同社の足跡を辿ります。

創設期

第一次世界大戦中にアメリカ陸軍航空部隊に所属していたアーサー・パピー・チョークが、1917年に除隊後、チャーター航空会社「レッド・アロー・フライング・サービス」を設立したのが始まりです。1919年には「チョークス・フライング・サービス」に改称し、マイアミのビスケーン湾からバハマ諸島のビミニ島を結ぶ定期便の運航を開始しました。

1926年には、ワトソン島にマイアミ飛行艇発着場を開業し、それまでのビスケーン湾から拠点を移転。この発着場は2001年まで使用されました。禁酒法時代には、バハマで醸造された酒をアメリカに密輸する手段としても利用され、一役買っていました。

第二次世界大戦中には一時運航を停止しましたが、戦後には運航を再開。1966年にはチョークが経営権を友人に譲渡しましたが、1975年まで経営に関与し続け、1977年に88歳で亡くなりました。

1970年代には、保有するグラマン マラードのエンジンをターボプロップ化する工事が進められ、8機がプラット・アンド・ホイットニー R-1340からプラット・アンド・ホイットニー・カナダ PT6に換装されました。同時に、より大型のグラマン アルバトロスも導入され、路線拡大に貢献しました。主に、ビミニ島からマイアミへの買い物客と、マイアミからパラダイス島などへの観光客の利用が多かったようです。

相次ぐ経営母体の流転

1974年には、パラダイス島でリゾートホテルを展開するリゾーツ・インターナショナル・ホールディングスの傘下に入り、リゾート客の輸送手段として利用されました。しかし、夜間の発着ができなかったことが災いし、リゾーツ社がSTOL機対応の滑走路を建設し、パラダイス・アイランド・エアラインズを設立したことで、飛行艇は不要となり、リゾーツ社から投資会社ユナイテッド・キャピタルに売却されました（ユナイテッド航空とは無関係）。

ユナイテッド・キャピタル傘下では、キーウェストやナッソーへの路線開設、機材の増強など拡大路線が推進されましたが、経営状態は芳しくなく、1996年には再び別の投資家グループに売却され、社名もパンナム・エアブリッジに変更されました。

1998年には、テキサス州の航空機リース会社であるエア・アラスカがパンナム・エアブリッジの株式の7割を取得し子会社化しましたが、エア・アラスカが1年足らずで破綻。その影響を受け、パンナム・エアブリッジも1999年1月に連邦破産法第11章を申請し、経営破綻しました。

その後、イースタン航空の機長を務めた経験を持つジェームズ・コンファローンが、92万5000ドルで買い取り、再建計画が進められました。一時は保有機材が2機、従業員が35人まで縮小しましたが、その後、グラマン マラードを5機、グラマンG-111Tターボ・アルバトロスを14機購入する契約を結び、規模拡大を目指しました。1999年12月17日、社名をチョークス・オーシャン・エアウェイズに変更し、新たなスタートを切りました。

2001年8月には、横浜国際航空の設立準備に向けて機材と運航ノウハウを提供する契約を締結しましたが、横浜国際航空側の計画の不備により、就航は実現しませんでした。

アメリカ同時多発テロの影響と事故

再建に向けて動き出した矢先の2001年9月11日、アメリカ同時多発テロが発生。マイアミ飛行艇発着場の警備体制の不備や、ワトソン島におけるヘリコプターの運用増加を理由に、同社はマイアミ飛行艇発着場から撤退し、既に整備拠点を置いていたフォートローダーデール・ハリウッド国際空港へ拠点を移すこととなりました。

さらに2005年、チョークス・オーシャン・エアウェイズ101便墜落事故が発生。原因は、当該機であるグラマン マラードの老朽化による金属疲労が原因で主翼桁の付け根付近が破断したことでした。この機材の亀裂は以前から確認されていたものの、金属疲労箇所が密封材で覆い隠されていたため、発見が遅れたこと、そして不適切な修理が問題視されました。この事故により、同社は保有する飛行艇の運航が不可能となり、8ヶ月間の運航停止を余儀なくされました。

終焉

運航再開後、飛行艇が使用できなくなったため、ビッグスカイ航空からビーチクラフト1900をリースして運航を継続。101便の事故によりバハマの耐空証明が取り消されたため、バハマ路線が運航できなくなり、キーウェストとセントピーターズバーグへの路線を開設し、社名をチョークス・インターナショナル・エアラインズに変更しました。2007年にはバハマ路線を復活させ、パームビーチ国際空港への路線を開設し、イメージの一新を図りました。

しかし、101便の事故による影響は大きく、乗客離れが進み、経営状況は悪化の一途を辿りました。2007年9月3日、全ての運航を停止。101便の事故の最終報告書が発表されると、運輸省は同月30日にチョークスの運航免許を取り消し、1917年の設立以来90年に及ぶ歴史に幕を閉じました。

運航停止後も、米国民間連邦航空規則121条の運航条件は満たしていたため、60席級のリージョナルジェットの運航を模索しましたが、実現には至りませんでした。

世界最古の航空会社

チョークス・オーシャン・エアウェイズは、1917年の設立から90年にわたり運航を継続したため、「現存する世界最古の航空会社」と称されていましたが、実際には第二次世界大戦中の3年間、1992年のハリケーン・アンドリュー、そして2005年の事故による8ヶ月間の運航停止期間がありました。同社の運航停止後、1919年10月に設立され、1920年に運航を開始したKLMオランダ航空が、名実ともに世界最古の航空会社となりました。

保有機材

グラマン マラード
グラマン アルバトロス
サーブ 340A - ビミニアイランド航空からのリース機
ビーチクラフト1900 - ビッグスカイ航空からのリース機

チョークス・オーシャン・エアウェイズが登場する作品

テレビドラマ

『特捜刑事マイアミ・バイス』
1980年代に大ヒットしたマイアミを舞台とする犯罪ドラマ。オープニング映像、およびシーズン4の第14話「冷血の殺人兵器密輸機関を叩け」で、チョークスのグラマン マラード（登録記号N2969）が登場しました。この機体は、2005年の101便墜落事故の当該機となりました。

映画

『羊たちの沈黙』
フレデリック・チルトン医師がレクター博士を訪ねてビミニ島に上陸するシーンに、同社の機材が登場しています。
『ダイヤモンド・イン・パラダイス』
ピアース・ブロスナン演じるマックス・バデットとサルマ・ハエック演じるローラ・シリロが抱き合うシーンに、同社の機材が登場しています。

音楽（PV）

『ケアレス・ウィスパー』
同社のグラマン マラード（登録記号N2974）がPVに登場しています。

ノート

* 出典・脚注

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