ドゥニエ

ドゥニエとは

ドゥニエ（フランス語: denier）は、かつてフランスで使用されていた通貨単位です。その起源は、フランク王国のピピン3世が導入したデナリウス銀貨（ラテン語: denarius）に遡ります。この銀貨は、古代ローマ時代のデナリウスを模倣したもので、当時の経済において重要な役割を担いました。フランク王国の分裂後、デナリウスは各国語で呼ばれるようになり、フランス語ではドゥニエという名称が定着しました。

ドゥニエの名称と起源

デナリウスという名称は、ローマ時代の青銅貨アスの10枚分の価値を持つ新しい貨幣として設定されたことに由来します。プリニウスによると、最初のデナリウスは紀元前269年に鋳造されたとされていますが、現代では紀元前211年ごろが有力視されています。デナリウスは時を経て各地で異なる名称で呼ばれるようになり、フランス語ではドゥニエとなりました。日本語では、ドゥニエ、ドニエ、デニエなど表記の揺れが見られますが、本稿ではドゥニエに統一します。

ドゥニエの位置づけ

中世の貨幣制度を語る上で、シャルルマーニュは重要な人物です。彼は「大帝が中世の貨幣制度の創始者である」と評されるほど、貨幣制度の確立に貢献しました。シャルルマーニュは、1リーヴル＝240ドゥニエという貨幣体系を制定し、この体系は18世紀末まで維持されました。当初、実際に発行されたのはドゥニエだけで、リーヴルやスーは計算上の単位でした。ドゥニエは、当時の基軸通貨として、現代の円のような存在でした。

ドゥニエの価値が下落すると、より高額な単位であるスーやリーヴルも登場しましたが、これらは当初は計算上の単位に過ぎませんでした。経済が発展し、大口取引が増加するにつれて、ドゥニエの価値は相対的に低下し、より価値の高い貨幣が求められるようになりました。それに対応して、エキュ、フラン、グロなどの新しい通貨単位が制定されましたが、ドゥニエはそれらの価値を測るための単位として、高額な通貨体系と並立して存在し続けました。

ドゥニエの歴史

銀貨の導入

フランク王国では、当初金貨を基軸通貨としていましたが、7世紀末には金不足に陥り、銀本位制へと移行しました。751年、ピピン3世はローマ・ポンドをベースに、銀本位制を採用し、1ポンドを22ソリドゥス、1ソリドゥスを12デナリウスと定めました。シャルルマーニュは、この改革を引き継ぎ、1リーヴル（491グラム）の銀から240枚のドゥニエを鋳造する体制を確立しました。しかし、実際には純銀貨ではなく、銀含有量950/1000の銀を基にドゥニエが作られました。805年には、貨幣鋳造権が王に独占されることになりましたが、地方の領主や教会でも造幣は続けられ、貨幣高権は実質的には形骸化しました。さらに、デーンゲルト用のコイン需要が増加したため、9-10世紀には造幣所の委譲も増加しました。11世紀まではおおむね貨幣の品質は統一されていましたが、やがてパリ貨、トゥール貨など、地方ごとの価値が異なるドゥニエが乱立するようになりました。

銀貨選択の理由

銀貨が選ばれた理由は、当時のフランク王国に金貨を発行し続ける余力がなかったとする衰退説が有力でしたが、現在では一般市民がより頻繁に使用する小額決済に便利な銀貨が選ばれたという説が有力になっています。また、2015年の研究では、流通貨幣としてではなく、金貨の製造も細々と行われていたという説も出てきています。ドゥニエは当初、発行数が少なかったため、主に兵士の給料の支払いに用いられ、一般市民は物々交換や帳簿上の相殺などを通じて取引を行っていました。貨幣の流通は、カロリング朝時代には活発になっていたと考えられています。

経済の発達とドゥニエの多様化

10世紀から商業が復興し、12-13世紀には活況を呈するようになりました。王権が弱体化すると、貨幣のデザインも各地の諸侯や教会でばらばらとなり、様々なドゥニエが鋳造されるようになりました。11世紀になると、銀の不足からドゥニエの品位は大きく下がり、地方ごとに貨幣の価値が異なるようになりました。例えば、メーヌではマン貨が標準通貨でしたが、アンジュー貨やトゥール貨の2倍の価値がありました。12世紀には、フィリップ2世がパリ貨をベースに、ドゥニエの標準化を進めましたが、依然として他の地域では独自の通貨が存在し続けました。13世紀には、ルイ9世が貨幣高権を国王に集中させ、王の鋳造したドゥニエのみを王国の共通貨幣としました。また、この時期にグロとエキュが導入され、金銀複本位制が始まりました。グロ銀貨は、その使いやすさから広く普及しました。

フィリップ4世の悪鋳

ドゥニエの悪鋳は継続的に行われていましたが、フィリップ4世は、対イングランド、対フランドルの戦費を確保するため悪鋳を繰り返し、インフレを引き起こしました。1295年には2ドゥニエ貨を発行しましたが、含有銀量が大幅に少なく、ドゥニエの価値は下落しました。フィリップ4世の悪鋳は、後の王にも引き継がれ、財政をごまかす手段として利用されました。

ヴァロワ朝

シャルル5世は貨幣価値の安定に努めましたが、ドゥニエの品質は改善と改悪を繰り返しました。ジャン2世はフランという新たな通貨単位を定めましたが、すぐに廃止されました。シャルル5世は貨幣制度改革を行い、ドゥニエは一時的にビロン貨になりました。シャルル6世は造幣所の統廃合を進めましたが、ブルターニュなどでは依然として独自にコインを鋳造していました。ルイ11世の時代には、ドゥニエは銀貨として鋳造されましたが、品位は低いままでした。

ドゥニエから銅貨へ

16世紀には新大陸からの大量の銀の流入がありましたが、悪鋳やユグノー戦争の影響で経済は衰退しました。ドゥニエは地方では存在していましたが、もはや小銭となり、主にドゥゼーン貨やディゼーン貨が流通しました。アンリ3世はフランを銀貨として復活させ、エキュ金貨を通貨単位としました。ドゥニエは銅貨として復活し、1ドゥニエと2ドゥニエ銅貨が発行されました。18世紀初頭には銅が値下がりし、1スー＝15ドゥニエ銅貨換算となっていましたが、資料によっては1スー＝12ドゥニエとされているものもあります。

フランス革命とドゥニエの終焉

フランス革命期の憲法制定国民議会においても、ドゥニエが発行されましたが、国民公会の時代になると、最小貨幣の単位はスーとなり、ドゥニエはコインとしては姿を消しました。1795年4月5日、リーブル - スー - ドゥニエの通貨体系は廃止され、フランに一本化されました。

フランス国外におけるドゥニエ

ドゥニエは、十字軍国家や植民地など、フランスが影響力を持った地域でも発行されました。イベリア半島、トリポリ伯国、アンティオキア公国、エルサレム王国、キプロス王国、アカイア公国、アテネ公国、スイス、北部アメリカなどでドゥニエが使用されました。しかし、ほとんどの場合ビロン貨でした。

ドゥニエの価値と現代の比較

ドゥニエの価値は、時代や地域によって大きく異なり、現代の貨幣価値で示すことは困難です。しかし、当時の物価を例示することで、おおよその価値を推測することができます。東フランク王国（750年 - 1055年）では、鶏1羽が1/2ドゥニエ、太った牡牛が60ドゥニエでした。オータン（1294年-1295年）では、馬1頭が840ドゥニエでした。アブヴィル（1764年）では、織工の日当が240ドゥニエでした。これらの例から、ドゥニエの価値が時代とともに大きく変動したことがわかります。

まとめ

ドゥニエは、中世フランスの経済を支えた重要な通貨単位でした。その起源からフランス革命による廃止まで、1000年以上にわたる歴史の中で、その価値や役割は大きく変化しました。ドゥニエの歴史を理解することは、中世フランスの経済や社会を深く理解するための鍵となります。

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