ファイアストリーク (ミサイル)

デ・ハビランドファイアストリーク

概要

デ・ハビランドファイアストリーク（de Havilland Firestreak）は、1950年代にイギリスのデ・ハビランド社（後のホーカー・シドレー）によって開発された第一世代の空対空ミサイルです。赤外線によって目標を追尾するパッシブホーミング誘導方式を採用しており、イギリス空軍およびイギリス海軍艦隊航空隊にとって、初めて実戦配備された国産空対空ミサイルとなりました。主に、当時の主力戦闘機であるイングリッシュ・エレクトリックライトニング、デ・ハビランドシービクセン、グロスタージャベリンに搭載され、その防空能力の要を担いました。

開発の経緯

ファイアストリークの開発は、運用要求OR.1056に基づき開始された「レッドホーク」ミサイル計画に端を発します。当初のレッドホーク計画は、当時の技術水準から見て非常に先進的かつ野心的な内容を含んでおり、実現には困難が伴いました。このため、1951年に要求仕様が見直され、より現実的な運用要求OR.1117が策定されました。この新たな計画には、軍需省が定めたレインボーコードに基づき、「ブルー・ジェイ（Blue Jay）」という開発コードネームが与えられました。このブルー・ジェイ計画の成果としてファイアストリークは誕生しました。

技術的な特徴

ファイアストリークは、一般的なミサイルと同様に円筒形の胴体を持ち、胴体中央よりやや後方にデルタ型の主翼、尾部に小型の矩形操縦翼を備えていました。内部構造にはいくつかの特徴があります。

誘導方式: パッシブ赤外線ホーミング方式を採用しており、目標機が発する赤外線（主にエンジン排気熱）を捉えて追尾します。インプット情報によれば、敵機の後方左右20度程度の角度からロックオンが可能でした。
シーカー: 鉛-テルル（PbTe）センサーを用いた赤外線シーカーを搭載していました。感度を高め、信号対ノイズ比（SN比）を向上させるため、シーカーは無水アンモニアを用いて-180°Cという極低温に冷却する必要がありました。
ノーズコーン: 通常の半球状ではなく、八角錐形の三硫化ヒ素製「ペンシル型」ノーズコーンが採用されました。これは、従来の形状で問題となった飛行中の氷結を防ぐための工夫でした。
信管: 目標に直接接触せずとも近距離で起爆させるための光学的近接信管を備えていました。これは胴体前方に円周状に配置された2列の窓から機能しました。
電子機器: 内部の電子回路には真空管が多用されていました。真空管は動作時に熱を発するため、別途冷却機構が必要でした。ミサイルは地上ではフロンガスで、飛行中は母機に搭載されたポンプから供給されるアンモニアによって冷却されました。
操縦機構: 尾部の操縦翼は、ミサイル先端に設けられたアクチュエータからの長いロッドを介して作動する複雑なリンケージ構造を持っていました。アクチュエータの動力源はミサイル後部に搭載されたエアコンプレッサーでした。
弾頭: 弾頭はミサイルの後方に配置されており、ロケットモーターの排気口を取り囲むように搭載されていました。

ファイアストリークは「ファイア・アンド・フォーゲット（撃ちっぱなし）」能力を持つ短距離ミサイルでした。発射前は、搭載機のレーダー（ライトニングのフェランティAIRPASS、シービクセンのGEC AI.18など）によってシーカーの指向方向が制御されるスレーブモードで目標をロックオンし、発射後は自律的に目標を追尾しました。

配備と運用

ブルー・ジェイとして開発された本ミサイルの最初の空中発射試験は1955年に行われ、デ・ハビランドベノムから発射されたミサイルが見事に標的機であるフェアリーファイアフライを破壊する成功を収めました。このブルー・ジェイMk.1が1957年にイギリス空軍で実戦配備され、ファイアストリークという名称が与えられました。翌1958年8月には海軍の艦隊航空隊でも採用され、イギリスにとって最初の実用的な空対空ミサイルシステムとなりました。

運用面では、いくつかの課題も存在しました。ミサイルに使用されている物質（おそらくロケット推進薬など）には高い毒性があり、地上でミサイルを航空機に搭載する作業員は特別な防護服の着用が義務付けられていました。また、赤外線シーカーの特性上、悪天候、特に雲の多い状況での使用は困難でした。これは、開発当時の技術レベルにおける赤外線誘導ミサイルの限界を示すものでした。

改良と発展

ファイアストリークの改良型として、複合動力迎撃機計画（サンダース・ロー SR.177やアブロ 720など）に合わせてMk.2（新型ロケットモーター）とMk.3（全幅延長、速度抑制）の2案が検討されましたが、これらの迎撃機計画自体が中止されたため、実現には至りませんでした。しかし、ファイアストリークをベースとした発展型の開発は続けられ、ソ連の超音速爆撃機に対抗するためのロケット推進迎撃機の武装として、「ブルー・ジェイ Mk.4」（後に「ブルー・ヴェスタ」と改称）計画が進められました。この計画は、1964年に「レッドトップ（Red Top）」ミサイルとして結実し、実戦配備されました。

レッドトップはファイアストリークの後継と位置づけられており、ファイアストリークと比較して高速化、射程延伸が図られたほか、前方からの目標追尾能力を獲得するなど性能が大幅に向上しました。また、電子機器においても大きな進化が見られ、ファイアストリークが真空管を使用していたのに対し、レッドトップはトランジスタを採用しました。これにより、真空管の発熱に伴う冷却機構が不要となり、ミサイルシステムの信頼性や運用性が向上しました。

レッドトップの配備により多くの部隊でファイアストリークは置き換えられましたが、イングリッシュ・エレクトリックライトニング戦闘機にファイアストリークを搭載した場合、空力性能が優れるという特性があったため、一部のライトニング部隊ではレッドトップへの完全な更新後もファイアストリークが引き続き運用されました。ファイアストリークは、搭載機であるライトニングが1988年に全機退役するまで、およそ30年以上にわたり現役であり続けました。

採用組織

イギリス
イギリス空軍 (RAF)
イギリス海軍艦隊航空隊 (FAA)
クウェート
クウェート空軍
サウジアラビア
サウジアラビア空軍