フランシスコ・デ・ビトリア

フランシスコ・デ・ビトリア（Francisco de Vitoria, 1492年頃 - 1546年8月12日）は、ルネサンス期スペインを代表するカトリック神学者、哲学者、そして法学者です。彼はドミニコ会に所属し、特に「サラマンカ学派」の創始者としてその名を知られています。ビトリアは、正戦論や国際法への深い貢献から「国際法の父」と称されることもあります。

生涯

ビトリアはブルゴスで生まれましたが、正確な生年は1483年、1485年など諸説あります。出自については、コンベルソ（改宗ユダヤ人）の家系であるという説も存在します。1506年にドミニコ会に入会後、パリのサン・ジャック学院でトマス・アクィナスの神学を学び、エラスムスなどの人文主義者とも交流を持ちました。1512年には、トマスの『神学大全』に自序を付して刊行し、1522年にはパリ大学で神学博士号を取得しました。1523年にスペインへ帰国したビトリアは、バリャドリッドのサン・グレゴリオ学院で神学教授となり、1526年にはサラマンカ大学の神学部正教授に就任しました。彼はこの大学で亡くなるまで教鞭をとり続けました。

神聖ローマ皇帝でもあった当時の国王カルロス1世も、ビトリアの神学者としての能力を高く評価しており、エラスムスの著作の異端性を審議する会議への参加を求めたり、インディアスにおける強制改宗の是非についての諮問を行いました。また、ビトリアはトリエント公会議の代表団の一員に指名されましたが、病気のため参加できませんでした。これらの出来事は、彼がスペインの王室や教会に対して大きな影響力を持っていたことを示しています。

業績

サラマンカ学派の形成

サラマンカ大学において、ビトリアは従来のロンバルドゥスの『命題論集』に代えてトマス・アクィナスの『神学大全』を導入しました。彼はトマスの教説を発展させ、実証神学と思弁神学の調和を試み、歴史神学の基礎を築きました。1528年から1540年にかけて行った「特別講義」では、トマスの学説を当時の社会問題、倫理問題、法問題、経済問題に適用し、実践的な視点から考察しました。これらの活動を通じて、彼は同僚のドミンゴ・デ・ソトやメルチョル・カノ、バロトロメ・デ・メディナ、ドミンゴ・バニェスらを指導し、16世紀のサラマンカ学派を創始しました。

経済理論

1534年10月、「トマスの道徳体系」に関する講義を開始したビトリアは、翌1535年3月から4月にかけてトマスの徴利論（利子徴収の是非に関する議論）について講義を行いました。これはサラマンカ学派の経済理論の端緒とされ、彼の後継者であるドミンゴ・デ・ソトやマルティン・デ・アスピルクエタらによって「公正価格論」や「貨幣数量説」へと発展しました。

インディオ問題と国際法理論

1533年のピサロによるインカ皇帝アタワルパ殺害の報を受けて、ビトリアはペルー征服の正当性に疑問を呈しました。1539年には、サラマンカ大学でインディオ（インディアス先住民）問題に関する特別講義を2回行い、植民政策を倫理的に考察しました。ビトリアは、1493年の教皇アレクサンデル6世による「贈与大教書」をスペインによるインディアス支配の法的根拠とする見解に異議を唱え、諸民族間の交流の自由を主張しました。彼は、人間の権利を自然権として捉え、異教徒であるインディオの権利を擁護し、万民法（国際法）を国家の法の上位に位置づけました。このようなビトリアの万民法理論は、スアレスやグロティウスらに引き継がれ、近代的な国際法理論へと発展したため、彼は「国際法の父」とされています。

著作

ビトリアは生前、著作を公刊しませんでしたが、学生による講義録を集めた『神学再講義』（Relectiones Theologicae）が死後出版されました。この講義録は、1557年のリヨン版から1665年のマドリッド版まで、17の異なる版が出版されています。

人物とエピソード

当代随一の神学者として高く評価されていたビトリアの講義は非常に人気があり、国王カルロス1世をはじめとする多くの学生がサラマンカに集まりました。痛風に苦しむ彼を、聴講を希望する学生たちが講義室まで担いで運んだという逸話もあります。特に「インディオについて」の講義は500部以上の写本が作成されました。彼の没後、サン・エステバン学院の回廊天井には、法衣をまとったビトリアとドミンゴ・デ・ソトの肖像画が飾られています。

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