メルチョル・カノ

メルチョル・カノ（Melchor Cano, 1509年1月6日? - 1560年9月30日）は、ルネサンス期スペインを代表する神学者・哲学者です。ドミニコ会士であり、16世紀のサラマンカ学派において、フランシスコ・デ・ビトリアの後継者として重要な役割を果たしました。

生涯

カノは、タランコンで生まれました。サラマンカ大学で学んでいた1523年にドミニコ会に入会し、フランシスコ・デ・ビトリアのもとで神学を学びました。その後、バリャドリッドのドミニコ会学院で哲学と神学を教鞭を執りました。1542年にはアルカラ大学の神学教授に就任し、1546年までその職を務めました。1546年にビトリアが亡くなると、カノはサラマンカ大学で師の担当していた神学講座を引き継ぎました。

1550年、カノは「バリャドリッド論争」において審議会委員として参加しました。この論争は、インディアス先住民（インディオ）の処遇を巡り、ラス・カサスとセプルベダが対立したもので、カノはラス・カサスの立場を支持しました。

1551年から1552年にかけては、スペイン国王でもあった神聖ローマ皇帝カール5世の要請を受け、トリエント公会議に皇帝任命の神学顧問として参加しました。1554年にはバリャドリッドのドミニコ会学院の院長に就任しましたが、国王フェリペ2世の政策を支持したことが、教皇パウルス4世との対立を招き、教皇庁から顰蹙を買うことになります。また、設立されたばかりのイエズス会を非難したことも、教会内での彼の立場を複雑にしました。

これらの出来事が影響し、カノは1557年に再度管区長に選出されたにもかかわらず、教皇パウルス4世の承認を得ることができませんでした。1560年になってようやくピウス4世によって承認を受けましたが、その年のうちにトレドで亡くなりました。

業績

カノは、ルネサンス期の人文主義者であるルドルフ・アグリコラの人文主義的弁証法に影響を受けました。彼の主著である『神学的証泉』（De Locis Theologicis）は、神学の方法論を確立した重要な著作として知られています。この著作では、神学における議論の根拠や論証の方法について詳細に論じられており、後の神学研究に大きな影響を与えました。

カノの著名な弟子としては、同じサラマンカ学派に属するドミンゴ・バニェスが挙げられます。バニェスは、カノの神学思想を受け継ぎ、発展させた人物として知られています。

著作

『神学的証泉』（De Locis Theologicis） 1563年

参考文献

J・アリエタ 「カーノ」 『新カトリック大事典』第Ⅰ巻 研究社、1996年
クラウス・リーゼンフーバー 『中世思想史』 平凡社ライブラリー、2003年 ISBN 9784582764857
飯塚一郎 『貨幣学説前史の研究』 未来社、1969年
同 「スペインの初期経済学」 小林昇（編） 『経済学の黎明』〈講座経済学史Ⅰ〉 同文舘出版、1977年所収
同 『大航海時代へのイベリア：スペイン植民地主義の形成』 中公新書、1981年

もう一度検索