ブジピ川

ブジピ川（ブジブ川）

黒海東岸、ジョージアのアブハジア自治共和国を蛇行しながら流れるブジピ川は、この地域でコドリ川と並び称される主要な河川です。アブハズ語ではブジブ川とも呼ばれ、かつてはカポエティスツカリ川という歴史的な名称でも知られていました。ジョージア国内全体で見ても、その長さは12番目にランクインします。

語源の変遷

「ブジピ川」という呼び名は比較的最近のもので、19世紀初頭までは「カポエティスツカリ」と呼ばれていました。この旧称は、当時のジョージア語で「コイ科の魚（カポエティ）」と「川（ツカリ）」を組み合わせたもので、ジョージア西部の淡水域に広く生息する魚と古語に由来しています。この川には、コイ科の魚だけでなく、多様な種類のマスも生息しています。1820年代頃から現れ始めた「ブジピ」という名称は、セイヨウツゲを指すジョージア語の「ブザ」に関連すると考えられています。アブハジア地方では、セイヨウツゲが茂る峡谷のそばを流れる川を「ブジピ」と呼ぶ習慣があったためと言われています。

多様な地理と景観

ブジピ川の流域は、広大なコーカサス山脈の温暖湿潤な気候帯に属しています。全長は約110キロメートルに及び、これはアブハジア地域で最も長い川です。年間の平均流量は約96立方メートル毎秒、流域面積は約1,510平方キロメートルで、どちらもアブハジアの河川の中ではコドリ川に次ぐ規模を誇ります。川は黒海へと注ぎ込みますが、河口付近で二手に分かれる特徴的な形状を見せます。

川の源流は、大コーカサス山脈西部の標高およそ2,300メートル地点にあります。そこから流れ下るにつれて、粘土や泥灰土、苦灰岩、砂岩など、上流の地層から削り取られた堆積物が川床や岸辺に見られます。ブジピ川が作り出す谷は、ブジピ山脈やガグラ山脈など、大コーカサス山脈を構成するいくつかの山並みに隣接しています。特にアラビカ山とブジピ山脈を隔てるように流れる区間では、カルスト地形が顕著で、浸食によって形成された深い洞窟が数多く存在します。主要な支流としては、ブジピ山脈の最高峰ヒムサ山を源とするヒムサ川や、美しいリツァ湖の水源となっているイウプシャラ川があります。このブジピ川とイウプシャラ川の峡谷沿いには、黒海沿岸とリツァ湖を結ぶ重要な道路が整備されています。

河口の南東には、黒海に突き出したビチヴィンタ岬があります。この岬は、長い年月をかけてブジピ川が運び込んだ土砂が堆積してできたものです。かつてこの地域で観測された地震のデータ分析により、岬沖の海底斜面に、中新世から鮮新世にかけての古い礫岩層に切り込むような谷が存在することが明らかになっています。1967年の調査データによれば、ブジピ川は年間約17万トンもの砂礫や土砂を海へ運んでおり、これは隣接するムジムタ川とプソウ川を合わせた量に匹敵します。

豊かな自然と特異な植生

ブジピ川の渓谷は、河口から上流のリツァ湖周辺まで、非常に豊かな植物相に恵まれています。特に上流部は、両岸が300メートルを超える急峻な岩壁に挟まれた狭い峡谷となっており、その斜面には多彩な草本植物が自生しています。中でも有名なのは、キキョウ科の多年草「カンパニュラ・ミラビリス（Campanula mirabilis）」です。この花は1株から100輪もの花を咲かせると言われ、6月から8月にかけて鮮やかな青い花が峡谷の岩肌を彩ります。その特徴的な美しさから、「アブハジアの植物の女王」とも称されています。リツァ湖の近くでは、大きな葉のロゼットを形成し、側枝から白い花序を出すキキョウ科の「カンパニュラ・パラドクサ（Campanula paradoxa）」も発見されています。このほかにも、「カンパニュラ・アルボヴィ（Campanula albovii）」や「カンパニュラ・ジシュリカ（Campanula dzyschrica）」といったキキョウ科のアブハジア固有種が見られます。さらに、淡い青色のオダマキ「アキレギア・ゲギカ（Aquilegia gegica）」、比較的大輪の花を咲かせるキンポウゲ「ラヌンクルス・スウケンシス（Ranunculus suukensis）」、そしてダイコンソウ属に近縁ながら大きな花や葉を持つバラ科の固有種「ウォロノウィア・スペキオサ（Woronowia speciosa）」など、珍しい植物が多く生育しています。

樹木ではモミ属が多く見られます。また、ブジピ川上流部では、国際自然保護連合によって絶滅危惧種に指定されているトカゲ「ダレフスキア・アルピナ（Darevskia alpina）」のまとまった個体群が確認されています。渓谷の一部には大規模な農業試験場が設けられており、世界各地から集められた様々な植物がこの地の気候で栽培されています。中には沿岸部で見られるアメリカスギやヒマラヤスギのような珍しい外来種も含まれ、樹齢50年で高さ25メートルに達するアメリカスギも見られます。

歴史、文化、経済、そして観光

ブジピ川の上流域には、アブハズ人の三大民族的サブグループの一つであるブジピ・アブハズ人が伝統的に暮らし、彼らは独特のブジピ方言を話します。歴史的には、1904年から1917年にかけて、この川がスフミ管区とソチ管区の境界線として機能していました。また、高地の森林から切り出された材木を輸送するための重要な交通路としても利用されてきました。

ジョージアにおいて、ブジピ川は黒海流域における水力発電の観点から非常に重要な河川と位置づけられています。ブジピ川を含む主要河川の潜在的な水力発電能力は、合計で350万キロワットを超えるとも評価されています。かつて、ソビエト連邦の閣僚会議議長を務めたニキータ・フルシチョフは、ブジピ川河口近くに位置するお気に入りの保養地、ビチヴィンタへの影響を考慮しつつも、大規模なダムと水力発電所の建設を提案したことがありました。しかし、これは海岸侵食の危険性を懸念した専門家によって却下され、最終的にダム計画はエングリ川へと移されました。皮肉なことに、ダム建設の決定後にフルシチョフは失脚しています。

現在、ブジピ川は観光やレクリエーションの場としても人気を集めています。カヤッキングやラフティングといったウォータースポーツが盛んに行われています。リツァ湖周辺のリツァ保護区は、森と川沿いの環境で育まれるワインでも有名で、「リツァ」や「ノヴィ・アフォン」といった銘柄がアブハジア土産として親しまれています。ブジピ川の河口にあるビチヴィンタ岬周辺には、古代都市ピチウンティ（現在のビチヴィンタ）の遺跡、灯台、10世紀に建てられた寺院、博物館、そして1926年から手厚く管理されているマツの老木など、歴史的・文化的な見どころが多く点在しています。

河口近くのインキティ湖はブジピ川の水の流入を受けています。かつて古代都市ピチウンティが栄えた頃、この湖は黒海と繋がった内港として機能していました。考古学的調査により、湖底からは古代の遺物や建造物の基礎が見つかっており、古代神殿が水位の変化によって水没したという伝承も残されています。

ブジピ川は、その壮大な自然景観、固有の生態系、歴史の証、そして経済的・観光的な重要性を通じて、アブハジア地方のアイデンティティと深く結びついた、かけがえのない存在です。

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