ブルー・ムーン・オブ・ケンタッキー

「ブルー・ムーン・オブ・ケンタッキー」：ブルーグラスの永遠の輝き

「ブルー・ムーン・オブ・ケンタッキー」（Blue Moon of Kentucky）は、ブルーグラス音楽の創始者とされるビル・モンローが1946年に作曲したワルツです。同年にモンロー率いるブルーグラス・ボーイズによって初めて録音され、その後、エルヴィス・プレスリーをはじめとする多くのアーティストによってカバーされ、今日に至るまで愛され続けています。この曲は、ケンタッキー州の公式ブルーグラス曲としても知られています。

ビル・モンローによるオリジナル

ビル・モンローは1946年9月16日にコロンビア・レコードでこの曲を録音しました。当時のブルーグラス・ボーイズには、レスター・フラット（ギターとボーカル）、アール・スクラッグス（バンジョー）という、後にフォギー・マウンテン・ボーイズを結成する二人が在籍していました。この録音では、モンロー自身がボーカルを担当し、フラットとスクラッグスも演奏に加わっています。

「ブルーグラス・ワルツ」とも呼ばれるこの曲は、1947年に全国的なヒットとなり、他のブルーグラスミュージシャンやカントリーミュージック、初期のロカビリーの楽曲に大きな影響を与えました。この曲は『グランド・オール・オプリ』などの番組で人気を博し、カール・パーキンスはこの曲をアップテンポにアレンジして演奏していました。

1954年には、スタンレー・ブラザーズがプレスリーのアレンジを基にブルーグラス楽器で演奏し、モンローとプレスリーのスタイルを巧みに融合させました。ビル・モンロー自身もこの曲を再録音し、オリジナル同様の3/4拍子で始め、途中でアップテンポの4/4拍子に切り替えるスタイルで演奏するようになりました。

エルヴィス・プレスリーによる革新的なカバー

1954年、エルヴィス・プレスリーは、サン・レコードからリリースする「ザッツ・オール・ライト」のカップリング曲を探していた際、ビル・ブラックを通じて「ブルー・ムーン・オブ・ケンタッキー」にたどり着きました。当時のバンドは行き詰まりを感じていましたが、ブラックがモンローのファルセットを真似てこの曲を歌ったところ、プレスリーも参加し、新たなアレンジが生まれました。

プレスリー、スコティ・ムーア、ビル・ブラックの3人は、サム・フィリップスの激励を受けながら、モンローの3/4拍子のワルツを、アップビートでブルース風の4/4拍子の曲に作り変えました。このアレンジは、サム・フィリップスに「ポップな曲になった！」と絶賛され、プレスリーのデビュー盤に収録されました。デビュー盤は「エルヴィス・プレスリー、スコティ&ビル」名義で発売されました。

プレスリーのバージョンは、「ザッツ・オール・ライト」と共にラジオで頻繁に放送され、ポップ音楽のDJたちも、イージーリスニング曲の間にこの曲を挟み込んで放送するようになりました。結果として、プレスリーの「ブルー・ムーン・オブ・ケンタッキー」は、「ザッツ・オール・ライト」よりもチャートの上位にランクインするようになりました。この成功により、プレスリーの名は一躍有名になりました。

その他のアーティストによるカバー

「ブルー・ムーン・オブ・ケンタッキー」は、プレスリー以外にも、ジョン・フォガティ、パッツィー・クライン、ロニー・ホーキンス、ロリー・ギャラガー、ジェリー・リー・ルイス、リアン・ライムス、ポール・マッカートニー、レイ・チャールズなど、数多くのアーティストによってカバーされています。1980年には、ザ・バンドのリヴォン・ヘルムが映画『歌え!ロレッタ愛のために』でこの曲を演奏しました。

1995年には、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スターが、この曲の4/4拍子バージョンを即興で演奏し、『ザ・ビートルズ・アンソロジー』のボーナス・トラックDVDに収録されました。また、マッカートニーは1991年に「MTVアンプラグド」でもこの曲を披露しています。

メディアでの使用

SF番組『タイムマシーンにお願い』では、主人公がエルヴィス・プレスリーとして登場し、この曲を演奏するエピソードがあります。また、映画『大災難P.T.A.』では、ジョン・キャンディとスティーヴ・マーティンがこの曲を歌い、アニメ『キング・オブ・ザ・ヒル』では、ヴィンス・ギルの歌声でこの曲が使用されています。

文化的意義

「ブルー・ムーン・オブ・ケンタッキー」は、ブルーグラス音楽の重要な楽曲であるだけでなく、音楽史における重要なターニングポイントとなりました。ビル・モンローによるオリジナルは、ブルーグラス音楽の基礎を築き、エルヴィス・プレスリーによるカバーは、ロカビリーの誕生に貢献しました。この曲は、時代を超えて様々なジャンルのアーティストに愛され、音楽の多様性を象徴する存在となっています。

この楽曲は、2002年にアメリカ議会図書館の全米録音資料登録簿に登録され、2003年にはカントリー・ミュージック・テレビジョン (CMT) の「最も偉大なカントリー音楽100曲」で11位にランクインするなど、その文化的価値は高く評価されています。

「ブルー・ムーン・オブ・ケンタッキー」は、まさにブルーグラス音楽の魂であり、その魅力は世代を超えてこれからも語り継がれていくでしょう。

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