プブリウス・デキウス・ムス (紀元前312年の執政官)

プブリウス・デキウス・ムス

プブリウス・デキウス・ムス（生年不詳 - 紀元前295年没）は、共和政ローマの中期、紀元前4世紀末から3世紀初頭にかけて活躍した影響力のある政治家であり軍事指導者でした。彼は、第一次サムニウム戦争で功績を挙げた同名の父、そして後にエピロス王ピュロスと対峙した同名の子を持つ、「デキウス・ムス」の三人目として知られています。

彼の経歴は、幾度かの最高公職への就任に彩られています。

最初の執政官職

紀元前312年、デキウスは初めて執政官（コンスル）に就任しました。この時期は第二次サムニウム戦争の最中でした。歴史家リウィウスによれば、彼は病を得てローマに留まり、共同執政官が軍務を担ったとされています。また、エトルリアとの間で緊張が高まる中、必要に備え、元老院の意向を受けてガイウス・ユニウス・ブブルクス・ブルトゥスを独裁官（ディクタトル）に指名したと伝えられています。ただし、カピトリヌスのファスティ（執政官などの公職者を記録した公文書）では、この年の独裁官はガイウス・スルピキウス・ロングスと記されており、史料間で食い違いが見られます。

一方、アウレリウス・ウィクトルは異なる記述を残しており、デキウスは最初の執政官在任中にサムニウム人に対する勝利を収め、ローマで凱旋式を挙行し、戦利品を農耕神ケレースに奉納したと伝えています。しかし、凱旋式の記録によると、この年凱旋式を行ったのは彼の同僚執政官であったとされており、ここでも史料間の差異が見られます。

二度目以降の公職

紀元前310年には、デキウスはサムニウム戦争において、当時の独裁官ルキウス・パピリウス・クルソルの下で高級幕僚（レガトゥス）として軍務に就きました。

紀元前308年、彼はクィントゥス・ファビウス・マクシムス・ルリアヌスと共に二度目の執政官に選出されました。この年、ファビウスがサムニウム人との戦いを担当する一方、デキウスはエトルリア方面の戦線を受け持ちました。この際、エトルリア人との1年間の休戦協定の提案に対して、彼は強く反対の立場を取りました。

政治的な役割

軍務の傍ら、デキウスはローマの政治にも深く関与しました。紀元前306年には、当時の独裁官プブリウス・コルネリウス・スキピオ・バルバトゥスの副官（マギステル・エクィトゥム）を務めました。

紀元前304年には、再びクィントゥス・ファビウス・マクシムス・ルリアヌスと共に監察官（ケンソル）に就任しました。監察官として、彼らはかつてアッピウス・クラウディウス・カエクスが全トリブス（選挙区）に登録した解放奴隷を、ローマ市内の四つのトリブスに限定して再登録するという改革を実施しました。また、7月に行われるディオスクーロイの祭礼における騎馬行列の創設者としても伝えられています。

紀元前300年には、プレブス（平民）にも神官職を開放するオグルニウス法の制定を支持し、新設された神祇官職に就任した最初のプレブスの一人となりました。彼は同時代の有力なプレブス指導者たち、ガイウス・ファブリキウス・ルスキヌスやマニウス・クリウス・デンタトゥス、そしてオグルニウス法によって初のプレブス出身最高神祇官となったティベリウス・コルンカニウスらと親交があったと、キケロによって伝えられています。

三度目、四度目の執政官職と最期

紀元前297年、デキウスは三度目の執政官となり、再びファビウスと同僚を務め、第三次サムニウム戦争を戦いました。二人は別々の戦線で進軍し、デキウスはマレウェントゥム近郊でアプリア人を破ることに成功しました。翌紀元前296年にはプロコンスル（前執政官）としてサムニウムの地で戦いを継続し、三つの都市を陥落させるなど功績を挙げました。

そして紀元前295年、デキウスは四度目となる執政官に就任し、またしてもファビウスと共に最高責任者となりました。この年、ローマはガリア人、サムニウム人、ウンブリア人、エトルリア人といった複数の民族が結成した反ローマ同盟というかつてない脅威に直面していました。サムニウムにいたデキウスは、同僚ファビウスを支援するため、急遽エトルリアへと向かいました。ガリア・サムニウム連合軍との間で発生した決定的な戦い、センティヌムの戦いにおいて、デキウスはローマ軍の左翼を指揮しました。彼の部隊がガリア人の猛攻により敗走寸前となった時、デキウスは父が第一次サムニウム戦争で行った故事に倣うことを決意します。彼は自らと敵軍を冥府の神々に捧げる「デウォティオ」の誓いを立て、敵陣深くに単身突撃し、壮絶な戦死を遂げました。彼の自己犠牲は、崩れかかっていた左翼の兵士たちを奮起させ、戦いの流れを変える一因となったと言われています。この激戦は最終的にローマ軍の勝利に終わりました。デキウスの遺体は戦場から収容され、ローマによって壮麗な葬儀が執り行われ、その偉業と自己犠牲の精神は後世に語り継がれることとなりました。

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