ラーガ・ロック

ラーガ・ロックとは

ラーガ・ロックは、インド古典音楽の旋律である「ラーガ」や、シタールやタブラといったインドの民族楽器をロックに取り入れた音楽ジャンルです。インド音楽の要素を明示的に参照したロック音楽を指し、単にインド音楽の影響を受けたというだけでなく、より深くその音楽構造や楽器に注目した点が特徴です。

ラーガ・ロックの成立

ラーガ・ロックの隆盛には、インドのシタール奏者ラヴィ・シャンカルの影響が大きく、1966年頃からポピュラー音楽にインド音楽の要素が導入され始めました。

1960年代

1965年、ヤードバーズはアルバム『Heart Full of Soul』でインド音楽の要素を取り入れようと試みましたが、最終的にはタブラのみが採用され、シタールのパートはジェフ・ベックのエレキギターによってドローン効果として表現されました。同年には、キンクスもドローンギターを用いた楽曲「See My Friends」を発表しています。

ビートルズは、1965年12月に発売したアルバム『ラバー・ソウル』に収録された「ノルウェーの森」で、ジョージ・ハリスンがシタールを演奏し、ロック音楽にインド楽器が導入される先駆けとなりました。1966年3月には、バーズが「霧の8マイル」を発表し、この曲の広報担当者が「ラーガ・ロック」という言葉を初めて使用したとされています。

ローリング・ストーンズは、1966年5月に発表した「黒くぬれ!」でブライアン・ジョーンズがシタールを演奏し、世界的なヒットを記録しました。ビートルズは同年8月に発売したアルバム『リボルバー』で、ハリスンが自作自演した「ラヴ・ユー・トゥ」や、レノン作の「トゥモロー・ネバー・ノウズ」など、インド音楽の影響を色濃く反映させた楽曲を収録しました。ポール・バターフィールド・ブルース・バンドも、同月に発売した『East-West』でインド音楽の影響を受けたロックを追求しています。

1967年には、ビートルズがアルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』で、「ウィズイン・ユー・ウィズアウト・ユー」を発表し、インド音楽と西洋音楽の融合を試みました。また、1968年にはジョージ・ハリスンが映画『Wonderwall』の音楽を担当し、ラーガの要素を取り入れています。

1970年代初頭には、イギリスのプログレッシブ・ロックバンド、Quintessenceがインド音楽の要素をロックやジャズに取り入れた楽曲を制作しました。

1990年代以降

1990年代には、イギリスのインディー・ロックバンド、コーナーショップがシタールやドールキといったアジアの民族楽器を使用し、1997年に発売したアルバム『When I Was Born for the 7th Time』で、インド音楽とロック、ファンク、ヒップホップ、カントリー・ミュージックを融合させました。このアルバムに収録された「Brimful of Asha」や、パンジャーブ語で歌われたビートルズのカバー曲「ノルウェーの森」も話題となりました。

1996年にはクーラ・シェイカーがデビューし、「Tattva」や「Govinda」といったラーガ・ロック調の楽曲をヒットさせました。

近年では、The Black AngelsやThe Brian Jonestown Massacreといった西洋のバンドや、The Raghu Dixit ProjectやSwarathmaといったインドのバンドによって、西洋の楽器と伝統的なインドの楽器の融合が活発化し、ラーガ・ロックが再評価される傾向にあります。

主な作品

ビートルズ：「ノルウェーの森」、「ラヴ・ユー・トゥ」、「トゥモロー・ネバー・ノウズ」、「ウィズイン・ユー・ウィズアウト・ユー」、「ジ・インナー・ライト」
ローリング・ストーンズ：「黒くぬれ!」、「ストリート・ファイティング・マン」
ジョージ・ハリスン：『不思議の壁』
コーナーショップ：「Brimful of Asha」、『When I Was Born for the 7th Time』


ラーガ・ロックは、インド音楽とロックという異なる文化の融合によって生まれた、独自のサウンドを持つ音楽ジャンルです。その影響は、現代の音楽シーンにも見ることができます。

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