ヴァイオリン協奏曲 (ウォルトン)

ウィリアム・ウォルトンの《ヴァイオリン協奏曲》は、1938年から1939年にかけて作曲された、彼の初期から中期にかけての重要な作品です。若きウォルトンが国際的な名声を確立する契機となった作品群、例えば1920年代初頭の奇抜な音楽付き朗読劇《ファサード》や、1929年の成功作《ヴィオラ協奏曲》と並び称される傑作と位置づけられています。

この協奏曲は、世界的に有名なヴァイオリニスト、ヤッシャ・ハイフェッツの委嘱によって生まれました。ハイフェッツは1936年にウォルトンに作品を依頼し、ウォルトンはこれに応える形で作曲を進めました。初演は1939年12月7日、委嘱者であるハイフェッツ自身の独奏、アルトゥール・ロジンスキ指揮クリーヴランド管弦楽団によって行われました。この初演は大きな反響を呼び、作品の評価を確立する上で決定的な役割を果たしました。ハイフェッツはその後もこの作品を愛奏し、作曲者自身の指揮による録音や、1942年にはユージン・グーセンス指揮シンシナティ交響楽団との共演による録音を残しています。

ウォルトンは初演後、1943年にこの協奏曲のオーケストレーションに一部修正を加えました。この改訂版では、特に打楽器の扱いが見直され、初版に比べて編成がややスリム化されています。この改訂版の初演は、初演から数年後の1944年1月17日、ヘンリー・ホルストのヴァイオリン独奏、マルコム・サージェント指揮リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団によって行われました。現在、コンサートや録音で一般的に演奏されるのは、この1943年改訂稿が主流となっています。この改訂版による録音は数多く、ユーディ・メニューイン、ジノ・フランチェスカッティ、鄭京和（チョン・キョンファ）、ナイジェル・ケネディ、ジョシュア・ベル、イダ・ヘンデルといった20世紀から現代にかけての偉大なヴァイオリニストたちが、それぞれ個性的な演奏を残しています。例えば、パーヴォ・ベルグルンド指揮ボーンマス交響楽団との録音は特に有名です。

楽曲は以下の3つの楽章で構成されています。

第1楽章 Andante tranquillo
第2楽章 Presto capriccioso alla napolitana
第3楽章 Vivace

構成としては、穏やかで抒情的な性格を持つ開始楽章、技巧的で軽快なスケルツォ風の楽章、そしてソナタ形式に基づく活気のあるフィナーレという伝統的な協奏曲の形式を踏襲しています。特に第1楽章に聞かれる深みのある抒情性は、ジャン・シベリウスのヴァイオリン協奏曲との類似性が指摘されることがあります。これは、初演者であるハイフェッツがシベリウスの協奏曲の普及にも大きく貢献した事実と無関係ではないかもしれません。全曲の演奏に要する時間は約30分です。

改訂版における楽器編成は以下の通りです。初版に比べて打楽器パートが削減されている点が特徴です。

独奏ヴァイオリン
木管楽器：フルート2（うち1人はピッコロ持ち替え）、オーボエ2（うち1人はコーラングレ持ち替え）、クラリネット2、ファゴット2
金管楽器：ホルン4、トランペット2、トロンボーン3
打楽器：ティンパニ、打楽器奏者2名（小太鼓、シンバル、タンブリン、シロフォンを使用）
ハープ
* 弦五部

ウォルトンのヴァイオリン協奏曲は、その豊かな旋律、鮮やかなオーケストレーション、そして独奏ヴァイオリンに高度な技術と表現力が求められることから、20世紀のヴァイオリン協奏曲のレパートリーにおいて重要な位置を占めています。ハイフェッツのために書かれただけあり、ヴァイオリンの妙技を存分に披露できる一方、ウォルトンらしいメランコリックで個性的な楽想も随所に現れる、魅力的な作品です。

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