ヴァイオリン協奏曲 (コルンゴルト)

エーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルト

ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35

エーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルトが1945年に作曲した《ヴァイオリン協奏曲 ニ長調》作品35は、アルマ・マーラー＝ヴェルフェルに献呈されました。

ヴァイオリニストで亡命者仲間でもあったブロニスラフ・フーベルマンの強い勧めによって作曲されたこの作品は、1947年2月15日にヤッシャ・ハイフェッツの独奏、ウラディミール・ゴルシュマン指揮のセントルイス交響楽団によって初演されました。しかし、当時の批評家からはその音楽語法に対し「時代錯誤」との厳しい評価を受けます。それでもハイフェッツはその後もこの協奏曲を演奏・録音し続け、その結果、コルンゴルト作品の中でも最も広く知られる存在となりました。

コルンゴルトはハリウッドで映画音楽作曲家として大きな成功を収めましたが、彼の渡米以前や渡米後の純粋な芸術音楽作品は、かつては正当な評価を得られずにいました。このヴァイオリン協奏曲も、長く低い評価に甘んじていた時期があります。しかし、ハイフェッツ生誕百周年を記念した音源の復刻や伝記の出版などを機に、この作品への注目が集まりました。さらに、ギル・シャハムやヒラリー・ハーンといった若手ヴァイオリニストたちが積極的に録音やコンサートで取り上げるようになったことで、その豊かな魅力が再発見されます。こうして現在では、サミュエル・バーバーのヴァイオリン協奏曲などと共に、20世紀における新ロマン主義音楽を代表するヴァイオリン協奏曲の一つとして高く位置づけられています。

作風

この協奏曲には、ウィーン世紀末の芳醇で抒情的な音楽語法が色濃く反映されており、洗練された管弦楽法が存分に生かされています。興味深いことに、調性のニ長調と作品番号の35は、ピョートル・イリイチ・チャイコフスキーの同名協奏曲と完全に一致しています。

楽器編成

ヴァイオリン独奏
ピッコロ 1
フルート 2
オーボエ 2
コーラングレ 1
クラリネット 2
バスクラリネット 1
ファゴット 2
コントラファゴット 1 (第2ファゴット奏者が持ち替え)
ホルン 4
トランペット 2
トロンボーン 1
ハープ
ヴィブラフォン
シロフォン
チェレスタ
* 弦五部

楽章構成

コルンゴルトは、クラシック音楽で培った精緻な作曲技法をハリウッドの映画音楽に適用する一方、自身の映画音楽から着想を得て純粋な芸術音楽作品を創作することも行っていました。このヴァイオリン協奏曲も、同時期に書かれた他の器楽曲（例：《弦楽四重奏曲 第3番》や《チェロ協奏曲》）と同様に、各楽章の主要主題に過去の映画音楽の旋律を借用しています。

第1楽章 モデラート・ノビレ (Moderato nobile)

ニ長調。ソナタ形式あるいはソナチネ形式に倣った構成を持つ一方で、自由な幻想曲風の性格も帯びています。序奏はなく、ヴァイオリン独奏が奏でる優雅で格調高い主題で始まります。この主題は、1937年の映画《砂漠の朝（Another Dawn）》のテーマ音楽に由来し、わずか5音で2オクターヴもの広がりを持ちます。躍動的な第2主題が提示された後、中間部では1939年の映画《革命児フアレス (Juarez)》で用いられた「カルロッタの主題」が、ほぼそのままヴァイオリン独奏によって引用されます。この主題はイ長調で展開されますが、短調の響きを帯びる箇所も見られます。また、この主題は続く変奏やカデンツァへの導入としての役割も担います。カデンツァに続き再現部に入り、オーケストラ全体で第1主題が奏でられ、「カルロッタの主題」の回想とその展開が続きます。生き生きとした第2主題の再現によって楽章が締めくくられます。

第2楽章 ロマンツァ (Romanze)

ト長調。静謐で神秘的な序奏に導かれて、ヴァイオリン独奏がロマンス楽章の主要主題を歌い始めます。この主題は、1936年の映画《風雲児アドヴァース（Anthony Adverse）》に用いられた旋律を基にしています。対照的な中間部を経て再現部に入り、主題は巧みに変奏されます。なお、中間部の素材は映画音楽から取られておらず、この協奏曲のために新たに作曲された部分と考えられています。

第3楽章 アレグロ・アッサイ・ヴィヴァーチェ (Allegro assai vivace)

ニ長調。ロンド・ソナタ形式。ヴァイオリン独奏に最も高度な技巧が要求される楽章であり、スタッカートによる跳躍音型を持つ第1主題で活発に開始します。第2主題は1937年の映画《放浪の王子（The Prince and the Pauper）》のテーマに由来し、ヴァイオリン独奏によって変ロ長調で提示されます。全曲を華麗に締めくくるにふさわしく、超絶技巧を駆使した圧倒的なクライマックスを形成します。

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