一般用漢方製剤承認基準

一般用漢方製剤承認基準とは

一般用漢方製剤承認基準とは、日本において一般用医薬品として漢方製剤の製造販売承認を与える際の基準です。この基準は、厚生労働省によって定められており、漢方処方の品質、有効性、安全性を確保することを目的としています。具体的には、210の漢方処方（後に改正により処方数は増加）について、その構成生薬の種類と配合量、用法・用量、そして期待される効能・効果の範囲などが詳細に規定されています。

承認基準策定の背景

承認基準策定以前は、漢方製剤の承認審査は統一的な基準に基づいて行われていませんでした。そこで、1972年から1974年にかけて、厚生省（現在の厚生労働省）が専門家の意見を参考にしながら、承認審査の内規を段階的に公表しました。これらの内規は、長年にわたって使用されてきた漢方処方の中から、一般用医薬品として適当と考えられる210処方を選び出し、その成分・分量、用法・用量、効能・効果を明確に示したものでした。この内規の内容は、『一般用漢方処方の手引き』という書籍を通じて広く周知され、「一般用漢方処方の210処方」や「いわゆる210処方」という通称で呼ばれるようになりました。

承認基準の見直しと変遷

内規制定から30年以上が経過し、社会情勢や医学の進歩に対応するため、厚生労働省は承認基準の見直しを決定しました。2008年には、「一般用漢方処方の見直しを図るための調査研究班」が設置され、調査結果やパブリックコメントなどを基に、薬事・食品衛生審議会で議論が行われました。その結果、

用語の現代化
新たな文献に基づく効能・効果の追加
加減方の分離（213処方へ）

などの変更が加えられた新たな承認基準が、2008年9月30日に公布され、翌日から適用されました。

その後も、2010年には加減方23処方が追加され236処方へ、2012年には294処方へと処方数が増加しています。

承認基準の内容

承認基準では、各漢方処方について以下の情報が記載されています。

1. 処方名
2. 成分・分量：構成生薬の種類と配合量
3. 用法・用量：服用方法や1回あたりの服用量、1日の服用回数
4. 効能・効果：期待される効果

例：安中散

成分・分量：桂皮3-5、延胡索3-4、牡蛎3-4、茴香1.5-2、縮砂1-2、甘草1-2、良姜0.5-1
用法・用量：（1）散・1回1-2g、1日2-3回（2）湯
効能・効果：体力中等度以下で、腹部は力がなくて、胃痛又は腹痛があって、ときに胸やけや、げっぷ、胃もたれ、食欲不振、はきけ、嘔吐などを伴うものの次の諸症：神経性胃炎、慢性胃炎、胃腸虚弱

旧基準からの主な変更点

旧基準（内規）からの主な変更点として、以下の点が挙げられます。

効能・効果の追加・変更:
新たな文献に基づき、有用性が認められる効能・効果を追加（122処方）。
全ての内服薬に対し、効能・効果を症状との組み合わせによって表現（99処方）。
一般用医薬品としてわかりにくい用語をより平易な表現に変更（27処方）。例：胃アトニー→胃腸虚弱
用法・用量の見直し:
小児用法の追加、散剤の追加など（44処方）。
記載の整備:
「朮」を「白朮」と「蒼朮」に分離（123処方）。
処方の構成生薬とその割合の表記を「処方構成」に変更。
構成生薬の表記を、日本薬局方の別名として標記した漢字名に統一。
加減方の分離:
旧基準では単一の処方名であった加減方を個別の処方名として分離。

承認基準策定までの経緯

1970年7月、厚生労働省薬務局製薬課に「漢方打合せ会」が発足し、専門家による検討が開始されました。事前に準備されていた632処方から一般用医薬品として適切であると考えられる346処方に絞り、1971年10月、その結果を中央薬事審議会に送りました。中央薬事審議会一般医薬品特別部会の下に「漢方生薬製剤調査会」が発足し、「漢方打合せ会」が選定した346処方に業界団体の意見を反映し210処方の素案を作成しました。210処方の出典は、『傷寒論』、『金匱要略』などの古典や、現代の漢方関連の成書を参考に、成分・分量、用法・用量、効能・効果などの案が作成されました。この素案をもとに中央薬事審議会にて審議・承認され、1972年11月から1974年5月までの間、計4回に分けて公表されました。

承認基準に収載されている主な処方

承認基準には、数多くの漢方処方が収載されています。

あ行

安中散（あんちゅうさん）
安中散加茯苓（あんちゅうさんかぶくりょう）
胃風湯（いふうとう）
胃苓湯（いれいとう）
茵蔯蒿湯（いんちんこうとう）
茵蔯五苓散（いんちんごれいさん）
温経湯（うんけいとう）
温清飲（うんせいいん）
温胆湯（うんたんとう）
延年半夏湯（えんねんはんげとう）
黄耆桂枝五物湯（おうぎけいしごもつとう）
黄耆建中湯（おうぎけんちゅうとう）
黄芩湯（おうごんとう）
応鐘散（おうしょうさん）（芎黄散（きゅうおうさん））
黄連阿膠湯（おうれんあきょうとう）
黄連解毒湯（おうれんげどくとう）
黄連湯（おうれんとう）
乙字湯（おつじとう）
乙字湯去大黄（おつじとうきょだいおう）

か行

解労散（かいろうさん）
化食養脾湯（かしょくようひとう）
藿香正気散（かっこうしょうきさん）
葛根黄連黄芩湯（かっこんおうれんおうごんとう）
葛根紅花湯（かっこんこうかとう）
葛根湯（かっこんとう）
葛根湯加川芎辛夷（かっこんとうかせんきゅうしんい）
加味温胆湯（かみうんたんとう）
加味帰脾湯（かみきひとう）
加味解毒湯（かみげどくとう）
加味四物湯（かみしもつとう）
加味逍遙散（かみしょうようさん）
加味逍遙散加川芎地黄（かみしょうようさんかせんきゅうじおう）（加味逍遙散合四物湯（かみしょうようさんごうしもつとう））
加味平胃散（かみへいいさん）
乾姜人参半夏丸（かんきょうにんじんはんげがん）
甘草瀉心湯（かんぞうしゃしんとう）
甘草湯（かんぞうとう）
* 甘麦大棗湯（かんばくたいそうとう）

さ行以降

（同様に、他の行の処方名も列挙されます）

まとめ

一般用漢方製剤承認基準は、漢方製剤の品質、有効性、安全性を確保するための重要な基準です。この基準に基づいて、適切な漢方製剤を選択し、正しく使用することで、より効果的な治療が期待できます。

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