翟斌

翟斌（てき ひん）

翟斌は、五胡十六国時代に活躍した丁零族の首長です。彼の率いた勢力は、後に翟遼によって建国される翟魏の前身となりました。翟斌は当初、前秦や後燕といった有力な勢力に従属していましたが、最終的には自立の道を歩むことになります。

生涯

挙兵前

翟斌の一族は代々康居に居住していましたが、後に中国に移住しました。後趙に仕えた翟斌は、330年に句町王に封じられます。371年、前秦の苻堅は、関東の豪族や雑夷15万戸を関中に、烏桓族を馮翊郡と北地郡に、そして翟斌率いる丁零族を新安県と澠池県に移住させました。

挙兵後

383年12月、前秦の衛軍従事中郎であった翟斌は、河南で兵を挙げ、前秦の豫州牧・平原公の苻暉を洛陽で攻撃しました。長楽公の苻丕は慕容垂と苻飛龍に討伐を命じますが、慕容垂は密かに前燕の復興を企てており、翟斌の丁零と結託して前秦に反旗を翻します。苻飛龍を殺害し、その兵を生き埋めにしました。慕容鳳や、前燕の故臣の子である燕郡の王騰・遼西の段延らは、翟斌の挙兵を知り、それぞれ部曲を率いてその傘下に入りました。苻暉は武平侯の毛当に翟斌を討伐させましたが、丁零の兵は翟斌に従い、秦兵に大勝して毛当を討ち取りました。翟斌は陵雲台戍を攻略し、大量の武器や兵器を鹵獲しました。

384年1月、慕容鳳・王騰・段延らは慕容垂を盟主として奉じることを翟斌に勧め、翟斌もこれに従いました。慕容垂が大将軍・大都督・燕王を称して後燕を建国すると、弟の慕容徳を車騎大将軍・范陽王、兄の慕容恪の嫡男である慕容楷を征西大将軍・太原王、翟斌を建義大将軍・河南王、元夫余王の余蔚を征東将軍・夫余王、昌黎鮮卑の衛駒を鷹揚将軍、慕容鳳を建策将軍に任命しました。同年2月、慕容垂は丁零と烏桓の兵20余万を率いて鄴を攻撃しましたが、陥落させることはできませんでした。同年7月、翟斌は自身の功績を誇り、鄴城を攻略できない慕容垂に対して密かに二心を抱くようになります。慕容垂の太子である慕容宝や慕容農・慕容紹、そして慕容徳らは、翟斌を排除することを慕容垂に進言しましたが、慕容垂は功績のある翟斌を排除することを拒否しました。その後、翟斌は尚書令の地位を求めますが、慕容垂に拒否されたため、密かに苻丕と通謀し、丁零の兵に鄴城への水攻めのために堤防を破壊させました。しかし、この企みが露見し、翟斌とその弟である翟檀と翟敏は慕容垂によって殺害されました。

翟斌の生涯は、五胡十六国という激動の時代を生き抜いた一人の人物の興亡を如実に物語っています。彼は、時代の流れに乗り、自らの勢力を拡大しようと試みましたが、最終的にはその猜疑心と野心が災いし、悲劇的な結末を迎えることとなりました。

参考文献

『魏書』列伝第八十三
『晋書』載記第十三、載記第十四、載記第二十三
* 『資治通鑑』卷第九十四、卷第一百三、卷第一百五

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