中原師遠

中原師遠（なかはら の もろとお）

中原師遠は、平安時代後期の貴族であり、学者としても名を残した人物です。父は同じく貴族の中原師平で、師遠も父の跡を継ぎ、明経道（儒教の経典を研究する学問）の分野で才能を発揮しました。官位は正五位上・大外記に至りました。

経歴

師遠は、父・師平と同様に明経得業生として学問を修め、明経試に合格しました。1088年には権少外記に任官し、1090年には中原氏の祖である中原有象以来、代々受け継がれてきた大外記に任命され、従五位下に叙爵しました。これは、中原氏にとって非常に重要な官職であり、師遠が家系の中で重要な役割を果たしたことを示しています。

1091年に父・師平が明経博士を辞任すると、師遠はその後任として直講に任ぜられ、儒学者としての活動を本格化させました。1093年には天文密奏宣旨を受け、釈奠の座主として『孝経』を講じるなど、その学識の高さを示しました。1098年には、直講としての功績が認められ、従五位上に昇叙されています。また、1097年には関白内大臣・藤原師通の文殿にも任ぜられましたが、師通の死去に際して、許可を得ずに服喪のために籠居したため、一時的に勅勘を蒙りました。この一件は、師遠の律儀な性格を表す一方で、貴族社会における慣習や規則の重要性を示唆しています。

1101年には再び大外記に任ぜられ、1130年に亡くなるまで、約30年間にわたってその職を務めました。この間、白河院政期から鳥羽院政期にかけて、朝廷の官人として主計権助・主計頭などを歴任し、儒学者としては直講・助教・明経博士を、また摂関家（藤原忠実・忠通）の政所別当も務めました。1111年には記録荘園券契所の寄人にも任ぜられ、朝廷における様々な役職を兼任し、その多才ぶりを示しました。また、1104年に正五位下、1113年には正五位上に昇進するなど、順調に昇進を重ねました。

1130年正月には、長年務めた大外記を辞任し隠岐守に転任しましたが、同年8月6日に61歳で亡くなりました。最終官位は隠岐守正五位上兼修理左宮城判官主殿頭図書頭明経博士でした。これは、師遠が亡くなる直前まで多くの官職を兼任していたことを示しており、その多忙な生涯が伺えます。

著作

師遠は、日記を著していましたが、大部分が散逸してしまっています。しかし、1127年に肥前国から鯨珠が朝廷に献上された経緯を記した『鯨珠記』が逸文として残っています。この記録は、当時の朝廷の出来事や珍しい献上品に関する貴重な資料となっています。また、年中行事書である『師遠年中行事』や、見聞した事柄を記した『随見聞抄』など、複数の著作があり、師遠の学識や関心の幅広さを物語っています。

官歴

以下に『地下家伝』に基づく師遠の官歴を示します。

1078年 6月：明経擬得業生
1081年 正月：元服。8月：明経得業生
1083年 正月：但馬少掾
1084年 12月20日：明経試及第
1086年 日付不詳：大舎人少允
1088年 12月25日：権少外記
1089年 正月：少外記。2月29日：造曹司別当
1090年 正月：大外記。2月23日：従五位下（平野大原野行幸行事賞）
1091年 正月28日：直講（中原師平の明経博士辞任）。9月17日：辞官（父服喪）
1092年 11月：復任
1093年 2月12日：天文密奏宣旨
1097年 1月29日：兼紀伊権介（直講労）。2月22日：関白内大臣（藤原師通）家文殿
1098年 正月6日：従五位上（直講労）
1099年 8月19日：勅勘（暇申上なく藤原師通への服喪による籠居）。9月27日：恩免
1100年 2月24日：白河院文殿。12月15日：主計権助
1101年 2月9日：兼大外記。月不詳23日：周防権介（大外記労）
1104年 2月27日：正五位下（賀茂行幸行事賞）
1105年 6月18日：助教
1106年 3月11日：兼越前権介。12月29日：関白右大臣（藤原忠実）家政所別当
1108年 3月5日：兼修理左宮城判官
1109年 8月13日：辞官（母服喪）。12月6日：復任。
1110年 1月28日：兼播磨権介。10月12日：主計頭
1111年 9月9日：記録荘園券契所寄人
1113年 8月17日：正五位上
1114年 1月22日：兼但馬権守（主計頭労）
1117年 1月19日：兼摂津守
1119年 2月23日：佳子内親王家別当
1120年 1月28日：兼図書頭
1121年 2月5日：関白内大臣（藤原忠通）家政所別当。4月：兼越前権守
1123年 11月26日：明経博士
1125年 12月15日：兼主殿頭
1126年 12月7日：伊予権守
1130年 1月28日：隠岐守（止大外記）

系譜

父：中原師平
母：不詳
妻：惟宗経定の娘
男子：中原師元（1109-1175）
生母不明の子女
男子：中原師安（1088-1154）
男子：中原師清（1090-1132）
男子：中原師憲
男子：相宴
男子：安覚

脚注

正宗敦夫編『地下家伝 一』日本古典全集第六期、日本古典全集刊行会、1937年
* 上杉和彦「中原師遠」『朝日日本歴史人物事典』朝日新聞社、1994年

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