中国の書店

中国の書店文化：古代から現代まで

この記事では、中国における書店の歴史と文化について、古代から現代までの変遷を詳細に解説します。中国は古くから豊かな書物文化を育んできた地域であり、その発展を支えた書店の歴史は特筆に値します。

前近代

歴史

古代中国では、竹簡や木簡、帛書といった書物が用いられていました。後漢時代の紙の発明は、書物の普及を大きく促進し、読書人口の増加と書物需要の高まりをもたらしました。これに伴い、書物の商業的流通も盛んになり、書肆、書林、書堂、書屋といった書店の原型が誕生しました。書物の販売者は書賈と呼ばれ、民間の書店で出版された書籍は坊刻本、坊本、書棚本と呼ばれていました。

漢代には、市場で書物を販売する書店が登場したことが文献に記されています。しかし、専門的な書店が存在したかどうかは明確ではありません。印刷技術が発明されるまでは、書物は全て写本であり、商業出版は自鈔自売が中心でした。そのため、大量生産は困難でした。

唐代前後になると、「書肆」「書舗」といった言葉が文献に頻繁に登場するようになり、書籍の売買を専門とする書店が成立しつつあったと考えられます。隋代の科挙制度の導入は、受験参考書の需要を急激に高め、特に『玉篇』や『唐韻』といった書籍は大量に流通するようになりました。書写による供給が需要を満たせなくなり、印刷技術の導入が本格化します。これに伴い、長安や洛陽などの都市では、明確に記録に残る書店が登場しました。しかし、商業出版の対象は実用書が中心であり、古典文献などは限られた層にしか流通していませんでした。

宋代

宋代は、中国における書店の本格的な発展期でした。士大夫の台頭、科挙受験者数の増加、木版印刷技術の向上といった背景から、書籍の需要と供給が拡大し、商業出版が飛躍的に発展します。開封などの都市では、書籍の定期市が開催され、賑わいを見せていました。福建の「麻沙本」のように、低価格で広く流通する書籍も登場しました。朝廷や官庁による出版もありましたが、高価であったため、庶民には手が届きませんでした。営利出版業界では競争が生まれ、経費削減やデザインの工夫などが行われました。南宋になると、新聞のような速報を印刷した書籍も登場しました。また、地方にも有能な書賈が現れ、蔵書事情に精通した書賈が学者や文人を支援する役割も果たすようになりました。

明代

明代は、紙の大量生産・消費の時代となり、書籍の価格が下がり、刊刻・印刷が容易になりました。書籍は都市住民にとって身近な存在となりました。福建が中心だった坊刻本は、江南地域でも盛んになり、南京、北京、蘇州、杭州などには書店街が出現しました。古書・古典文献の販売も増え、有名な書店も多く現れました。挿絵入りの小説なども人気を集め、出版はさらに発展しました。出版文化の広がりとともに、儒教の教養を持つ書賈も登場し、学術的・史料的価値の高い書籍も出版されるようになりました。

清代

清代には、北京の琉璃廠、広東の仏山鎮など新たな出版地・書店街が誕生しました。官刻本も流通する一方で、俗書の貸本も盛んになりました。

近現代

清末民初

1842年の上海租界の成立後、西洋人が創業した出版社や印刷所が活動を始めました。洋務運動期には官営印刷所も各地に設立されました。1890年代からは石版印刷が普及し、廉価な書籍が大量に出版されました。商務印書館などの民営出版社も台頭し、近代的な印刷技術の導入が進みました。1919年の五四運動後には、進歩主義的な出版社も多く創業しました。しかし、戦争によって多くの出版社は活動停止を余儀なくされました。

中華人民共和国

1949年の建国後は、共産党政府による書店業界の再編が行われ、新華書店の小売独占化、出版社の合併と国有化、専門分業化などが進められました。文革期には出版業界は大きな打撃を受けましたが、改革開放期には回復し、民営書店も増加しました。21世紀には、出版集団の形成が進み、ネット書店や電子書籍産業も盛んになりました。検閲や禁書の問題も、書店業界と深く関わっています。

香港

香港には、商務印書館、三聯書店など著名な書店があり、「二階書店」と呼ばれる独立書店も独特の文化として存在しました。しかし、政治的な弾圧も発生しています。

台湾

台湾では、日本統治時代には日本語書店が中心でしたが、戦後は中国語書店が中心となりました。白色テロや検閲の影響を受けながらも、多くの出版社や独立書店が台頭しました。21世紀には、ネット書店の台頭や活字離れなどの影響を受けています。

日本との関わり

日本と中国の書店文化には、古くからの交流があります。日本人の中国紀行文には当時の書店の記述が見られ、日本の蔵書家による中国書籍の購入や、日本の出版社による中国書籍の翻訳出版、日中文化人の交流拠点としての書店など、様々な関わりがあります。近年では、日本の書店が中国に進出したり、中国の書店が日本に進出したりするなど、活発な交流が行われています。

まとめ

中国の書店文化は、古代から現代まで、政治、経済、社会の変化と深く結びつきながら発展してきました。今後も、ネット書店や電子書籍の台頭、検閲の問題など、様々な課題を抱えながらも、独自の進化を続けていくことでしょう。

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