京都大学フィールド科学教育研究センター森林ステーション芦生研究林

京都大学芦生研究林：原生林が息づく学びの森

京都府南丹市美山町芦生に位置する京都大学フィールド科学教育研究センター森林ステーション芦生研究林（以下、芦生研究林）は、1921年に京都帝国大学の演習林として開設された歴史ある研究施設です。近畿地方に残る数少ない大規模天然林であり、原生林も含むその豊かな自然環境から、「芦生原生林」や「芦生の森」とも呼ばれています。本稿では、芦生研究林の地理、気候、植生、動物相、歴史、そして現在抱える課題について詳しく解説します。

1. 芦生研究林の概要

1.1. 地理

芦生研究林は、京都市内中心部から北へ約35km、福井・滋賀両県との県境に位置する由良川源流域にあります。丹波高地の東端部に位置するため標高が高く、三国岳(959m)を最高点として、標高600-800mの地点が全体の約2/3を占めています。林内を由良川の源流がU字型に流れ、大小の河谷が複雑に入り組んだ地形を形成しています。地質は、砂岩や泥岩などの堆積岩で形成されており、チャート層が急峻な崖や滝を作り出しています。

1.2. 気候

芦生研究林は、日本海側気候と太平洋側気候の移行帯に属しており、年間を通して降水量が多いのが特徴です。年平均気温は11.7℃、降水量は2,353mmと、京都市内と比較して平均気温が低く、降水量が多い傾向にあります。豪雪地帯としても知られ、積雪深は事務所構内で1m前後、多い場所では2mを超えることもあります。

1.3. 植生

芦生研究林は、暖温帯林と冷温帯林の移行帯に位置するため、植物の種類が非常に豊富です。木本植物、草本植物、シダ植物合わせて900種以上が確認されており、多雪地帯特有の伏条更新を行うアシウスギやアシウテンナンショウなど、「芦生」の名を冠した学術上貴重な植物も自生しています。その他、エゾユズリハやニッコウキスゲなど、多種多様な植物が生育しており、植物学者の中井猛之進が「植物を学ぶ者は一度は京大の芦生演習林を見るべし」と語ったことでも知られています。

1.4. 動物

芦生研究林には、ツキノワグマ、ニホンカモシカ、ニホンザル、ニホンジカ、イノシシなどの中大型哺乳類をはじめ、ヤマネ、ムササビなどの小型哺乳類、さらにはクロホオヒゲコウモリやミズラモグラといった貴重な種も生息しています。鳥類では、コノハズクやヤマセミ、オシドリなどの他、オオタカやハイタカなどの猛禽類も見られます。爬虫類、両生類、昆虫類も多種多様な種が生息しており、芦生で新たに記録された種も存在します。

2. 芦生研究林の歴史

芦生研究林の歴史は、平安京遷都以降の京都の材木需要に端を発します。由良川源流域の山林は、建築用材確保のための杣山として伐採と更新が繰り返されてきました。明治時代以降は、知井村（現在の美山町）の共有林として地域住民の生活を支えていましたが、財政基盤の脆弱な知井村では、広大な山林を対象とした事業の実施が困難でした。一方、京都帝国大学では、国内に演習林を設置する必要に迫られており、芦生奥山が候補地として選ばれました。1921年、京都帝国大学と知井村の間で地上権設定契約が締結され、京都帝国大学芦生演習林が誕生しました。

3. 芦生研究林の課題

芦生研究林は、過去に大規模伐採による森林の荒廃、近年では入林者の増加によるオーバーユース、ニホンジカの食害など、様々な課題を抱えています。

3.1. オーバーユース

登山ブームなどによる入林者の増加は、下草の踏み荒らしやごみの放置、トイレの問題、水質汚染など、オーバーユースの問題を引き起こしています。大学側は、入林制限やマナー啓発などの対策を講じていますが、抜本的な解決には至っていません。

3.2. ニホンジカの食害

近年の暖冬傾向によるニホンジカの個体数増加は、下草や若木の食害を深刻化させています。大学側は、防鹿柵の設置や銃猟による個体数調整などを行っていますが、効果は限定的です。

4. まとめ

京都大学芦生研究林は、豊かな自然環境と学術的な価値を持つ貴重な研究フィールドです。しかし、オーバーユースやニホンジカの食害など、様々な課題を抱えています。これらの課題を解決し、芦生研究林の自然環境を保全していくためには、大学、地域住民、行政、研究者、そして入林者一人ひとりが協力していくことが不可欠です。

今後も芦生研究林が、研究・教育の場として、そして人々の心の拠り所として、その価値を未来に繋いでいくことを願います。

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