伊佐須美神社

伊佐須美神社の概要

伊佐須美神社（いさすみじんじゃ）は、福島県大沼郡会津美里町宮林に位置する神社です。この神社は、式内社（名神大社）であり、かつては陸奥国二宮として、会津地方の総鎮守として崇敬を集めてきました。旧社格は国幣中社で、現在は神社本庁の別表神社となっています。

会津盆地の南端、宮川沿いに鎮座しており、その広大な境内には鬱蒼とした社叢が広がっています。この地が「会津」と呼ばれるようになった由来は、第10代崇神天皇の時代に派遣された四道将軍の一人である大毘古命と、その子である建沼河別命が会津で行き会ったことに始まるとされています。二人が国家鎮護のため、神を祀ったことが伊佐須美神社の創祀と伝えられています。

会津地方では、古墳時代前期にはすでに大型の前方後円墳が築かれており、ヤマト王権の東北地方への影響を考える上で、この神社は重要な要素を担っています。

2008年の火災で社殿が焼失したため、現在は仮社殿で祭祀が行われ、再建が進められています。境内には、室町時代の朱漆金銅装神輿（国の重要文化財）をはじめ、多くの社宝や天然記念物、伝統的な神事が今も受け継がれています。

祭神

伊佐須美神社の祭神は、以下の4柱の神々です。これらは総称して「伊佐須美大神」または「伊佐須美大明神」と呼ばれます。

伊弉諾尊（いざなぎのみこと）
伊弉冉尊（いざなみのみこと）
大毘古命（おおひこのみこと）：第8代孝元天皇の皇子で、四道将軍の一人。
建沼河別命（たけぬなかわわけのみこと）：大毘古命の子で、同じく四道将軍の一人。

『延喜式』神名帳では祭神を1座としていますが、現在の文献では上記4柱とされています。さらに、相殿神として塩釜大神と八幡大神も祀られています。また、『奥州二宮慧日山正一位伊佐須美太明神社縁起』によると、本地仏は文殊菩薩とされていました。

祭神に関する考察

伊佐須美神社で祀られる4柱の神々は、四道将軍説話と深く関連しています。四道将軍とは、『日本書紀』に登場する伝説上の将軍たちで、大彦命、武渟川別命、吉備津彦命、丹波道主命の4人を指します。

『日本書紀』によれば、彼らは崇神天皇10年に国土平定のために派遣され、翌年にその成果を報告したとされています。『古事記』では派遣人物や時期に若干の異同が見られますが、大毘古命と建沼河別命がそれぞれ高志道と東方十二道に派遣されたと記されています。この際、二人が出会った地を「相津」と名付けたことが、会津の地名の由来とされています。

四道将軍説話については、史実に基づかない後世の創作とする見解も有力ですが、大毘古命・建沼河別命の子孫とされる阿倍氏の分布が下野から会津、越後へと繋がっていることから、何らかの歴史的背景があったとする指摘も存在します。また、会津地方には4世紀代の大型前方後円墳が存在し、ヤマト王権の早期進出を裏付ける考古学的証拠も発見されています。

伊佐須美神社の社伝では、四道将軍説話に基づき、大毘古命・建沼河別命が国土開拓祖神である伊弉諾尊・伊弉冉尊を祀ったことが始まりとされています。当初は伊弉諾尊・伊弉冉尊の2柱を祭神としていましたが、幕末に大彦命・武渟川別命の2神祭神説が唱えられ、論争が続きました。現在のように4柱を祀るようになったのは、戦後のことです。

「いさすみ」という神名の由来は、「いさなみ（伊弉冉）」の転音説や、大毘古命・建沼河別命が「いざ進み」と励まし合った説などがありますが、明確なことはわかっていません。

歴史

創建

社伝によると、伊佐須美神社の創建は崇神天皇10年に遡ります。大毘古命と建沼河別命は、それぞれ北陸道と東海道に派遣された際、会津で出会いました。彼らは会津に中央の農耕技術や先進文化を伝え、国家鎮護のために、現在の福島県と新潟県の境界付近にある天津嶽（御[[神楽岳]]）に国土開拓の祖神である伊弉諾尊・伊弉冉尊を祀ったとされています。

その後、神社は博士山、明神ヶ岳（波佐間山）を経て、欽明天皇13年に高田南原（高天原）に遷座しました。そして、欽明天皇21年に現在の高田東原に遷座し、社殿が創建されました。この社殿造営には、多数の神官が携わったと伝えられています。

地名伝承では、御[[神楽岳]]は鎮座の際に神楽が奏されたことに、博士山は四道将軍が佩刀を佩いて通ったため「佩かせ山」と呼ばれたことに由来するとされています。明神ヶ岳には現在も伊佐須美神社の奥宮が鎮座しています。四道将軍説話の史実性は不明ですが、御[[神楽岳]]、博士山、明神ヶ岳という道筋は、越後から会津への幹線路を示しており、伊佐須美神社の遷座ルートは大毘古命による北陸からの侵攻路を表すという説もあります。また、このルート周辺には、伊佐須美神社の遷座を妨害したとされる「千石太郎」伝説が残っており、これはヤマト王権への恭順前の会津の様子を示すものとされています。

概史

国史での初見は、承和10年（843年）で、「伊佐酒美神」の神階が無位から従五位下に昇叙されたことが記されています。

延長5年（927年）に成立した『延喜式』神名帳には、陸奥国会津郡の「伊佐須美神社 名神大」として記載され、名神大社に列しています。この当時、会津地方は会津郡と耶麻郡の2郡で構成されており、伊佐須美神社は会津郡に属していました。『和名抄』に見える「会津郡屋代郷」は、伊佐須美神社に由来するとされています。

康和5年（1103年）には、陸奥国の代表的な神社の一つとして、伊佐須美神社が挙げられています。一方、磐椅神社は9世紀中頃までは伊佐須美神社よりも上位に位置していましたが、その後、社格が逆転し、10世紀初頭には伊佐須美神社が上位となりました。この逆転には、磐椅神社が国津神を祀るのに対し、伊佐須美神社が天津神である伊弉諾尊・伊弉冉尊を祀るようになったことが関係していると考えられています。また、『伊佐須美神社史』では、古くは伊佐須美神社と磐椅神社が互いに神を祀り合う相補関係にあったと伝えられています。

中世には、伊佐須美神社は陸奥国の二宮として位置づけられました。中世の史料は少ないものの、蘆名氏からの崇敬や、社地として蘆名氏から300貫文、近世には会津藩主の松平氏から30石を受けていたことが記録されています。また、別当寺として清滝寺が存在しましたが、1667年の神社改めで社地から除かれています。

伊佐須美神社は、度重なる火災に見舞われ、そのたびに再建されてきました。主な焼失と再建の記録は以下の通りです。

1503年：火災で焼失。
1514年：蘆名盛舜により再建。
1783年：火災で焼失。
1789年：松平容頌により本殿・幣殿再建。
1812年：火災で焼失。
1820年：再建。
1868年：戊辰戦争の兵火で一部焼失。
1898年：火災で焼失。
1899年：火災で社務所など焼失。
1900年：社殿再建。
2008年：火災で社殿焼失。

近代社格制度では、1873年に国幣中社に列せられました。戦後は神社本庁の別表神社となり、全国一の宮会により「新一の宮」として岩代国一宮に認定されています。

神階

伊佐須美神社は、神階の昇叙も度々行われてきました。

843年：無位から従五位下。

宝物の御正体円鏡には「奥州二宮正一位伊佐須美大明神」と記されていたとされていますが、鏡は1503年に焼失しています。また、1551年には僧侶が「正一位」の宣旨を賜ったとされますが、これも後に焼失しています。

境内

伊佐須美神社の境内は、0.66ヘクタール（2万坪）の広さを持ち、内苑と外苑に分かれています。

社殿

主要な社殿は2008年の火災で焼失したため、現在は仮社殿で祀られています。焼失した旧社殿は1899年に造営されたもので、本殿は三間社流造、拝殿は七間社流造銅板葺でした。楼門は火災を免れて現存しており、楼門の造営に伴い、それまで使用されていた神門は東に移されています。

社叢

境内の社叢は、神域として保護されてきたため、自然林が保たれています。特に宮川沿いの東側には、ハルニレ、ケヤキ、キタコブシ、アオナラガシワなどの巨木が自生しています。これらの植生は会津開拓前の生態を示すものとして、植物学的にも民俗学的にも重要であり、会津美里町の天然記念物に指定されています。

玉垣内には、本殿跡東方にフジの巨木があり、これは「飛竜の藤」とも呼ばれています。また、この近くには天海が植えたとされるヒノキも立っています。楼門そばには、会津五桜の一つである「薄墨桜」があり、この桜は会津美里町の天然記念物に指定されています。

境内南には、伊佐須美神が最初に鎮座したとされる「高天原」の地にある「あやめ苑」があります。ここには約150種、10万株のあやめが植えられており、6月には「あやめ祭り」が開催されます。

奥宮

奥宮は明神ヶ岳の山頂付近にあり、石祠が鎮座しています。ここは伊佐須美神の旧鎮座地とされ、神社は博士山から奥宮、そして高田南原へと遷座したと伝えられています。この奥宮の地は、信仰が山岳から平地へと移ったことを示すものとして、会津美里町の史跡に指定されています。

摂末社

伊佐須美神社には、以下の摂末社があります。

菅原神社：祭神は菅原道真公。
会津大国魂神社：祭神は会津開拓に従った八百万の神々。
殺生石稲荷神社：祭神は宇迦魂神。

また、境外には斎神社、諏訪神社、麓山神社など12社があります。

祭事

伊佐須美神社では、様々な祭事が執り行われています。

砂山祭：5月5日に行われる、塩を作る神事。
御田植祭：7月12日に行われる、豊作を祈る祭。国の重要無形民俗文化財に指定されています。

文化財

伊佐須美神社は、多くの文化財を有しています。

重要文化財（国指定）

朱漆金銅装神輿：室町時代の作とされる神輿。

重要無形民俗文化財（国指定）

会津の御田植祭：伊佐須美神社の田植神事と慶徳稲荷神社の田植神事を包括。

福島県指定文化財

木造狛犬1対：南北朝時代の作とされる狛犬。
伊佐須美神社のフジ：境内にあるフジの巨木。

会津美里町指定文化財

黄金扉1枚：室町時代の作とされる金の扉。
古代扉1枚：室町時代の作とされる朱漆の扉。
鉄華表1対：鉄製の鳥居。
日本紀竟宴和歌1巻：江戸時代の和歌。
太々神楽：神楽。
伊佐須美神社奥宮の地：奥宮の地。
薄墨桜：境内の桜。
* 伊佐須美神社社叢：境内の社叢。

現地情報

所在地：福島県大沼郡会津美里町字宮林甲4377

付属施設：宝物殿

開館時間：午前9時 - 午後4時

拝観料：大人300円/18歳以下150円

交通アクセス：JR只見線 会津高田駅から徒歩約25分、会津若松駅から会津バスで「横町」バス停下車後徒歩3分。

駐車場：あり

周辺：文殊堂

伊佐須美神社は、その歴史的、文化的価値から、多くの人々に愛され、信仰を集める神社です。訪れる際には、その豊かな歴史と自然に触れてみてください。

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