北郷氏

北郷氏の興り

北郷氏は、南北朝時代に島津宗家4代当主・島津忠宗の子である資忠が、北朝方としての功績により足利氏から薩摩迫一帯（現在の宮崎県都城市山田町）を与えられたことに始まります。資忠は、その地名から北郷氏を名乗り、これが北郷氏のルーツとなりました。

都城領主としての北郷氏

資忠の子・義久は、1375年に薩摩迫から都之城に移り、現在の宮崎県都城市の礎を築きました。しかし、その後は周辺勢力の圧力により、戦国時代初期には都之城と安永城のみを保持するまでに衰退しました。

この状況を打破したのが、8代当主・北郷忠相です。忠相は智勇に優れた名将で、飫肥の豊州家と結び周辺勢力を討ち、勢力を拡大。現在の都城市、三股町、山之口町、そして曽於市の一部を含む都城盆地一帯を手中に収めました。

忠相から10代当主・時久までの時代が北郷氏の全盛期とされ、特に9代当主・忠親が豊州家の養子となったことで、北郷氏の勢力圏は日向国南部にまで広がりました。豊州家は後に伊東義祐に敗れて飫肥を失いますが、北郷本家は領地を拡張し、時久の時代には大隅の恒吉や外港の内之浦までを手に入れ、日向国諸県郡から大隅国囎唹郡の大部分に及ぶ最大版図を築きました。

北郷氏は島津氏の九州統一戦にも従軍し、豊臣秀吉に対しても徹底抗戦を主張しましたが、最終的には島津義久の命により降伏し、本領を安堵されました。

転封と都城復帰

11代当主・忠虎は島津義弘に従い朝鮮出兵に参加しますが、戦地で病没。その後、太閤検地により都城から祁答院へ転封となり、事実上の減封となりました。都城には伊集院忠棟が入ります。これは、豊臣家の意向による島津家中の建て直しの一環であり、北郷氏が朝鮮出兵の従軍に遅れたことへの懲罰だったとも考えられています。

忠虎の子・長千代丸（後の12代・忠能）が幼かったため、忠虎の弟・三久が家督代となり、兵を率いて朝鮮を転戦しました。

その後、旧領都城の伊集院氏が島津氏に反乱を起こすと（庄内の乱）、北郷氏は鎮圧側として参戦し、旧領奪還のため奮戦。戦後、都城に復帰することができました。しかし、すべての領地が戻ったわけではなく、大隅国の領地の大部分は島津宗家の直轄地となりました。

都城島津家への改称と江戸時代

江戸時代に入ると、北郷氏は薩摩藩内で最大の家禄である日向都城4万4000石（後に3万9600石）を領しました。領内は五口六外城に区画されていました。

1663年、17代当主・忠長の時に、島津宗家の命により北郷姓から島津姓に復し、「都城島津家」と呼ばれるようになりました。これにより、北郷氏嫡流の血統は断絶しました。

1712年には、島津家の家格整備が行われ、都城島津家は島津左衛門家、島津周防家と並び、大身分に位置づけられました。大身分は、藩主への挨拶の儀式序列において一門四家に次ぎ、国老（家老）よりも上位とされました。

都城島津家は、小大名に匹敵する石高を持ち、足利将軍家から直接領地を安堵されたという由緒から、自立志向が強く、江戸時代初期には本宗家との確執が絶えませんでした。

また、12代当主・忠能以降は短命な当主が続き、15代当主・久直から18代当主・久理までは島津本宗家からの養子でした。さらに一時期は当主不在の時代も迎えました。江戸時代を通して都城領主としての地位は変わりませんでしたが、本藩の財政難のため、いくつかの外城を上知しました。

戊辰戦争と明治維新

戊辰戦争では、私領一番隊を派遣し、鳥羽・伏見の戦いから会津若松城攻めまで従軍しました。

明治維新期の当主は、島津久光の外孫にあたる久寛でした。当初は士族に列しましたが、1891年に養子の久家が男爵に叙せられ、華族となりました。久家は陸軍軍人として日露戦争で戦功を挙げました。大正期に入ると、久家とその跡を継いだ息子の久厚が子爵への陞爵運動を行いましたが、認められず男爵家のままでした。

その他の北郷氏

北郷氏には、本家以外にも複数の系統が存在します。

忠虎の弟・北郷三久は、北郷家の祁答院転封後、平佐郷の領主となり、平佐北郷氏の祖となりました。平佐北郷氏は、薩摩藩の城代や家老を務めた者も輩出し、幕末まで続きました。また、幕末の当主久信は、戊辰戦争で海軍を率いて戦功を挙げました。

その他にも、薩摩藩士として複数の北郷氏庶流が続きました。

北郷氏の菩提寺であった龍峯寺は1867年に廃寺となり、現在は龍峯寺跡島津家墓地となっています。

北郷氏・都城島津家歴代当主

北郷資忠
北郷義久（誼久）
北郷久秀
北郷知久
北郷持久
北郷敏久（義久）
北郷数久
北郷忠相
北郷忠親
北郷時久
北郷忠虎
北郷忠能
北郷翁久
北郷忠亮
北郷久直
北郷久定
島津忠長
島津久理
島津久龍
島津久茂
島津久般
島津久倫
島津久統
島津久本
島津久静
島津久寛
島津久家
島津久厚
島津久友

職制

五口六外城
口：弓場田、鷹尾、中尾、来住、大岩田
外城：安永城、山田城、志和池城、野々三谷城、梶山城、梅北城

その他の北郷氏

系統を異にする北郷氏として、豊前国仲津郡の豪族が存在します。

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