依田信蕃

依田信蕃：不屈の精神で時代を駆け抜けた武将

依田信蕃（よだ のぶしげ）は、戦国時代から安土桃山時代にかけて、その名を轟かせた武将です。甲斐武田氏、そして徳川氏に仕え、数々の戦でその勇猛果敢な姿を示しました。

生涯：逆境を跳ね返す不屈の精神

武田家臣時代：初陣から二俣城籠城戦まで

父・芦田信守は、もともと大井氏や諏訪頼重に仕えていましたが、後に武田信玄に臣従しました。信蕃も当初から信玄に仕え、信濃国先方衆として活躍。信玄の死後は、武田勝頼に仕えました。永禄11年（1568年）の武田氏駿河侵攻では、駿府に乱入した軍勢の中にその名を見ることができます。元亀3年（1573年）の三方ヶ原の戦いにも参陣し、天正3年（1575年）の長篠の戦いでは、父と共に遠江国二俣城を守備しました。

長篠の戦いで武田軍が大敗し、徳川家康率いる徳川軍が反攻してくると、信蕃は僅かな手勢で二俣城を堅守しました。籠城戦の最中に父・信守が病死すると、信蕃が後を継いで守将となり、弟・信幸と共に籠城を続けました。徳川方は攻めあぐね、城の周囲に複数の砦を築き、兵糧攻めにするしかありませんでした。実に半年にも及ぶ攻防の末、徳川方は力攻めでは落城させられないと判断。長篠の戦いで敗れた主君・武田勝頼の「甲斐へ引き上げろ」との命令もあり、徳川方の「全員の助命」を条件に開城することになりました。退去の際、信蕃は雨天での退城を「敗残兵のように見苦しい」として延期を申し入れ、晴天となる3日後まで待ちました。明け渡しに立ち会った徳川家康の重臣・大久保忠世は、城内が清掃され、整然としている様子に感銘を受けたと伝えられています。その後、信蕃は駿河田中城の城将となりました。

天正壬午の乱：徳川家康への忠義

天正10年（1582年）3月、武田勝頼の求心力が低下し、織田信長による甲州征伐が始まると、信蕃は田中城を徳川家康に攻められます。しかし、信蕃は再び堅固な備えで徹底抗戦しました。家康は成瀬正一に開城を説得させますが、信蕃はこれを拒否。籠城を続ける内に、織田軍の攻撃で武田勝頼が自害し、穴山梅雪から開城を勧める書簡を受け、ようやく城を大久保忠世に引き渡しました。開城後、家康から召し抱えの要請を受けますが、「勝頼の安否が判明しない限り従えない」として辞退。その後、春日城へ帰還しますが、家康の勧めにより、織田方の粛清を避けるため遠江に一時的に潜伏しました。

同年6月、本能寺の変が発生。北条氏直との戦い（神流川の戦い）に敗れた滝川一益が小諸城に入ると、信蕃は一益と対面し、一益を円滑に本領へ退去させるため、佐久・小県郡の人質を集めて引き渡しました。この人質には、嫡子・依田康国や真田昌幸の母・恭雲院も含まれていたと言われています。一益は小諸城を信蕃に明け渡し、木曾義昌に人質を委ねて伊勢長島へ帰還しました。その後、人質は義昌から徳川家康に引き渡されました。

7月、北条氏直の兵が碓氷峠を越えて進出すると、信蕃は小諸城を放棄し、「蘆田小屋」へ退いて籠城しました。蘆田小屋は、春日城を指すと考えられています。信蕃はゲリラ戦を展開し、北条軍の補給線を寸断。徳川家康と密に連絡を取り合い、家康の援軍を得て、真田昌幸を調略し、春日城を奪還しました。郡内地方で北条軍が徳川軍に敗北したことで、後北条氏との講和が成立。信蕃は北条方の大道寺政繁が撤退した後の小諸城を任され、周辺の勢力が続々と集まってきました。同年11月、信蕃は前山城を攻め、伴野氏を滅ぼしました。

天正11年（1583年）2月、信蕃は岩尾城の大井行吉を攻略しようとしますが、予想外の抵抗に遭い苦戦。2月22日、実弟・依田信幸と共に敵の銃撃を受け、信幸は同日に、信蕃は翌日に死去しました。享年36。墓所は、後に長男の松平康国（依田康国）が整備した蕃松院です。

家康に属した期間は短いものでしたが、家康は信蕃を高く評価しており、遺児・康国に松平姓と小諸城を与え、当時の家康家臣としては最大級の6万石という大領を相続させています。

子孫

依田康勝の系譜は、福井藩の重臣・芦田信濃家として、家老を輩出する高知席の17家の一席を担いました。

依田信蕃：その生涯から学ぶこと

依田信蕃は、武田家、徳川家という二つの名家に仕え、常に最前線で戦い抜いた武将です。長篠の戦いでの籠城戦や、天正壬午の乱での活躍は、彼の知略と武勇を如実に示しています。また、主君への忠義を重んじ、家臣や領民を大切にする姿勢は、多くの人々から信頼を集めました。彼の生き様は、現代においても私たちに勇気と希望を与えてくれます。

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