儀式 (書物)

儀式とは

「儀式」という言葉は、もともと律令制下における朝廷での公務や宮中行事に際しての礼儀作法を指していました。しかし、時代が下るにつれて、これらの作法を規定した編纂物や書物そのものを「儀式」と呼ぶようになりました。

儀式の成立

大化の改新以降、唐の文化の影響を受け、様々な制度や行事、儀礼が導入されました。これに伴い、礼儀作法も詳細に定められるようになり、当初の「儀式」とは、これらの作法そのものを指していました。『続日本紀』には、文武天皇2年（698年）に朝儀の礼、天平20年（748年）に釋奠の礼が定められたことが記されています。

しかし、新しい儀式が増加するにつれて、これらの規定をまとめる必要性が生じました。その結果、儀式の集大成として「儀式」という書物が編纂されることになりました。

「儀式」のモデルとなったのは、唐の礼制を集成した礼書であると考えられています。しかし、日本の「儀式」は、律令格式と重複する部分を避け、純粋な礼儀作法の記述に特化している点が特徴です。逆に、弘仁式や延喜式では、序文において儀礼に関する記述を省略していることが明記されています。

三代儀式について

かつては、弘仁式、貞観式、延喜式の三代格式に対応して、弘仁儀式、貞観儀式、延喜儀式という三代儀式が存在したと考えられていました。しかし、近年の研究では、この説は疑問視されています。

弘仁年間に編纂されたのは「内裏式」と「内裏儀式」であり、「弘仁儀式」という名称の儀式は存在しなかったと考えられています。また、「延喜儀式」についても、逸文とされるものが残存するものの、実際に宮中行事に活用された記録はなく、未完成または後世の仮託とする見解が有力です。

確実に存在したと言えるのは「貞観儀式」のみですが、その名称についても単に「儀式」であったとする説もあり、実際に「貞観儀式」という名称が用いられていたかどうかは不明です。ただし、これらの指摘は、三代格式に対応する三代儀式の存在を否定したに過ぎず、格式と儀式の編纂は、ともに律令法の補完を目的として行われた事業であり、関連性があったと考えられています。

現存する儀式

実際に効力を持っていたと考えられる儀式としては、以下のものが挙げられます。

内裏式: 弘仁11年（820年）に嵯峨天皇に完成が上奏された。
内裏儀式: 「内裏式」とほぼ同時期に編纂された（前後関係は不明）。
貞観儀式（“儀式”）： 貞観年間に編纂された。
新儀式： 村上天皇の頃に作成された。

また、平安時代中期以降には、『西宮記』や『北山抄』のような私撰の儀式書も作成されるようになりました。

まとめ

「儀式」は、当初は礼儀作法そのものを指していましたが、後に作法を規定した書物の名称となりました。三代儀式の存在は疑問視されていますが、律令制度を補完する重要な役割を担っていたことは確かです。現存する儀式書を通して、当時の宮廷文化や社会構造を垣間見ることができます。

参考文献

笹山晴生「儀式」（『国史大辞典 4』吉川弘文館、1984年）
所功「儀式」（上田正昭 監修・編集『日本古代史大辞典』大和書房、2006年）
* 森田悌『日本古代律令法史の研究』（文献出版、1986年）

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