元文小判

元文小判（げんぶんこばん）とは

元文小判は、江戸時代中期の元文元年（1736年）に発行された一両の額面を持つ金貨です。別名「文字小判（ぶんじこばん）」とも呼ばれ、後に発行された文政小判と区別するために「古文字小判（こぶんじこばん）」または「真文小判（しんぶんこばん）」とも呼ばれました。元文小判と同時に発行された元文一分判を合わせて「元文金（げんぶんきん）」、「文字金（ぶんじきん）」、「古文字金（こぶんじきん）」、または「真文金（しんぶんきん）」と総称します。さらに、同時に吹替えられた文字銀と合わせて「文字金銀（ぶんじきんぎん）」とも呼ばれます。

元文小判の特徴

元文小判の表面には、鏨（たがね）による茣蓙目（ござめ）模様が刻まれており、上下には桐紋を囲む扇枠があります。中央上部には「壹两」の文字、下部には「光次（花押）」の極印が打たれています。裏面には中央に花押、下部の左端に小判師の験極印、吹所の験極印があり、さらに右上に「文」の文字が打印されています。この「文」の文字は、元禄金との区別のため、「元」の使用を避けたことによるものです。

小判師と吹所の験極印の組み合わせによっては「大」「吉」となるものがあり、これは「大吉」と呼ばれて縁起が良いと珍重されました。特に献上用には意図的に「大」「吉」の組み合わせが打たれたものもあります。

また、佐渡の金座でも鋳造され、小判師と吹所の験極印の組み合わせが「筋」「神」、「筋」「当」となっているものは「佐渡小判」とされます。

元文小判発行の背景

八代将軍徳川吉宗は、米価引き上げ策で財政難にあえぐ武士や農民を救済しようと試みましたが、効果は限定的でした。そこで、町奉行の大岡忠相らの提案を受け入れ、貨幣の品位を下げて通貨量を増大させる吹替えを実施しました。

旧金（享保金や慶長金）100両に対し、新金（文字金）165両という大幅な増歩をつけて交換することで、幕府は出目（改鋳利益）を得ました。これは純金量を約44%低下させる大幅な吹替えでした。

元文元年（1736年）5月16日に出された触書では、世の中の金銀不足を解消するために吹替えを行うとされました。旧金に対する引替は、以下の通りです。

慶長金100両 → 文金165両
新金100両 → 文金165両
元禄金100両 → 文金105両
乾金200両 → 文金165両

当初、旧金と新金は無差別通用とされましたが、品位の異なる貨幣の無差別通用は不可能との嘆願を受け、旧金は65%増しで通用することになりました。

このような大幅な増歩での交換は、通貨の急激な増大とインフレーションを招き、「文金高島田」という言葉が流行するほどでした。しかし、物価や金銀相場は徐々に安定し、文字金銀は長期にわたり流通しました。流通による損傷が著しく、金座による直し小判も存在します。

市民は、この吹替えによる米価の引き上げを評価したとされます。しかし、貨幣価値の低落は米価だけでなく諸色の値段も上げるため、米価調節策としては評価できないという説もあります。

元文小判の通用停止は文政7年（1824年）の触書で文政8年（1825年）2月末までとされましたが、延期され文政10年（1827年）1月末となりました。

元文一分判（げんぶんいちぶばん）

元文一分判は、元文小判と同品位で1/4の量目で作られた長方形の短冊形の一分判です。表面には上部に扇枠の桐紋、中央に横書きで「分一」、下部に桐紋が配置されています。裏面には「光次（花押）」の極印があり、右上に楷書体の「文」の年代印が打たれています。これも「文字一分判（ぶんじいちぶばん）」または「真文一分判（しんぶんいちぶばん）」とも呼ばれます。

文字金の量目と品位

量目

小判の規定量目は三匁五分（約13.06グラム）
一分判は八分七厘五毛（約3.26グラム）
実測値の平均：小判約3.48匁（約13.05グラム）、一分判約0.87匁（約3.26グラム）

品位

規定品位は金65.71%、銀34.29%（金44匁に対し銀22.9565匁）

造幣局による分析では、実際の品位は規定より若干低く、雑分（銅や鉛など）が含まれていました。

文字金の鋳造量

小判と一分判の合計：約17,435,711両1分
一分判は総鋳造量の約3割：約5,230,713両1分（約20,922,853枚）
小判：約12,204,998両
佐渡判の鋳造高（延享3年から文政2年）：小判149,001両、一分判63,858両1分
吹替えによる幕府の出目：1,025,800両

金座での鋳造手数料である分一金は、鋳造高1000両につき手代10両、金座人10両2分、吹所棟梁4両3分でした。

参考文献

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三上隆三『江戸の貨幣物語』東洋経済新報社、1996年。
篠原総一「経済を通して学ぶ歴史 ~ 江戸時代の経済政策 ~ 」経済教育ネットワーク
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瀧澤武雄，西脇康『日本史小百科「貨幣」』東京堂出版、1999年。
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大蔵省造幣局 編『造幣局百年史（資料編）』大蔵省造幣局、1971年。

関連項目

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