公孫氏 (遼東)

公孫氏とは：遼東に割拠した一族の興亡

公孫氏（こうそんし）は、後漢末期から三国時代にかけて、現在の中国東北部にあたる遼東地方に勢力を築いた一族です。2世紀後半、後漢の地方官であった公孫度が、黄巾の乱に乗じて遼東で半独立政権を樹立したのが始まりです。

地理的・文化的背景

公孫氏の勢力圏は、漢民族が中心でありながらも、異民族との交流が盛んな地域でした。南は朝鮮半島中西部の帯方郡を境に韓と接し、北東は高句麗、西北は烏丸や鮮卑といった異民族と隣接していました。遼東は中華王朝から見れば北東の辺境に位置し、その地理的な特性が公孫氏の半独立政権としての地位を確立する上で重要な役割を果たしました。

歴史

遼東太守から自立へ

189年、公孫度は後漢朝廷から遼東太守に任命されますが、中央の混乱に乗じて自立の動きを強めます。勢力を拡大し、朝鮮半島の北端である楽浪郡や、一時的に山東半島にまで進出しました。204年には、公孫度の嫡男である公孫康が楽浪郡の南に帯方郡を設置し、韓や倭を勢力下に置くほどに勢力を拡大しました。

魏への服属と独立の模索

公孫康の時代、曹操によって後漢の勢力が再び強まると、公孫康は後漢に服属し、左将軍の官位を授けられました。しかし、公孫康の死後、後を継いだ弟の公孫恭に対し、228年に公孫康の子である公孫淵が謀反を起こし、地位を奪います。

当時、後漢は崩壊し、魏・呉・蜀の三国が覇権を争う時代でした。公孫淵は、三国の中で最も強大な魏に臣従する姿勢を見せながら、一方で呉と同盟を結ぼうとするなど、密かに独立を画策していました。236年、魏の皇帝である曹叡から上洛を求められた際、公孫淵はついに魏に反旗を翻し、燕王を自称しました。翌年には年号を紹漢と定め、近隣の部族に印璽を与えるなどして魏を刺激し、軍事衝突は避けられない状況となりました。

滅亡

公孫淵は一度、魏の幽州刺史である毌丘倹の軍勢を退けましたが、238年、太尉である司馬懿による討伐を受け、国都である襄平に包囲されます。2ヶ月にわたる籠城の末、公孫淵は子の公孫脩と共に城から脱出しようとしましたが、捕縛され、一族もろとも処刑されました（遼隧の戦い）。洛陽に残って魏に仕えていた公孫淵の兄である公孫晃とその一族も処刑され、ここに公孫氏の勢力は完全に滅亡しました。一方で、公孫淵に監禁されていた公孫恭は処刑を免れ解放されましたが、子がいなかったため、公孫恭の死によって公孫度の子孫は絶えることとなりました。

日本との関係

『魏志倭人伝』には、倭国大乱から卑弥呼による魏への遣使までの期間、倭に関する記述が途絶えています。公孫氏滅亡直後に遼東経由で遣使が再開されたことから、公孫氏が倭の勢力による中国本土への朝貢を遮っていた可能性が指摘されています。つまり、倭からの朝貢を公孫氏が独占していた可能性があるという説です。

また、『新撰姓氏録』には、「常世連」という渡来氏族が公孫淵の末裔であるという記述があります。

系譜

公孫度
公孫康
公孫恭
公孫淵
公孫脩
公孫晃

関連項目

常世岐姫神社
公孫氏

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