別所温泉

別所温泉：歴史と文化が息づく「信州の鎌倉」

長野県上田市に位置する別所温泉は、標高約570mの地に湧く、信州最古と伝わる温泉地です。古くは日本武尊が発見し、「七苦離の温泉」と名付けたという伝説から「七久里の湯」とも呼ばれています。

温泉街には、安楽寺、常楽寺、北向観音といった古刹が点在し、その風情から「信州の鎌倉」と称されています。これらの寺院は、鎌倉時代にこの地を治めた塩田流北条氏ゆかりの地であり、歴史と文化が深く結びついた場所です。

泉質と効能

泉質は単純硫黄泉で、一般的な適応症に加え、慢性皮膚病、慢性婦人病、切り傷、糖尿病などへの効果が期待されています。ただし、これらの効能はすべての人に効果を保証するものではありません。

温泉街の風景

別所温泉の温泉街は、共同浴場（外湯）を中心に発展してきました。現在も「大湯」「大師湯」「石湯」の3つの共同浴場が現存し、地元の人々や観光客に親しまれています。

温泉街は、「大湯地区」と「院内地区」に分かれています。「大湯地区」は大湯を中心に賑わい、駅から徒歩7～8分程度、「院内地区」は北向観音周辺に広がり、駅から徒歩15分程度です。両地区は徒歩で10分足らずで行き来できます。

大湯は木曾義仲、大師湯は円仁（慈覚大師）、石湯は真田幸村ゆかりの湯として知られています。かつては、大湯地区に「長命湯（玄斉湯）」、院内地区に「久我湯」がありましたが、1929年までに各旅館が内湯を整備したため、現在は存在しません。

また、別所温泉駅近くには、上田市営の温泉施設「相染閣別所温泉あいそめの湯」があります。この施設は、2008年に移転・再開業したもので、以前は「分去地区」で営業していました。その他、足湯「ななくり」や「大湯薬師の湯」も設置されています。

別所温泉には、温泉を利用した住民用の洗い場が13ヶ所あり、12の小字すべてに設けられています。

温泉街の歴史

別所温泉を含む上田周辺は、養蚕で栄えた歴史があり、明治時代には30を超える宿がありました。養蚕業の衰退とともに旅館の数は減少しましたが、現在も約15軒の温泉宿が営業しています。これらの宿の多くは、元々蚕種屋で、湯治客に部屋を貸し出したのが始まりです。

温泉街には、そば店が点在する他、山菜や松茸を産する山林が近くにあります。秋には松茸料理を提供する「松茸小屋」が期間限定でオープンします。「あいそめの湯」内には飲食店「比蘭樹」もあります。

共同浴場と宿泊施設

別所温泉には、「大湯」「大師湯」「石湯」の3つの共同浴場があります。

2021年時点での宿泊施設は、別所温泉旅館組合加盟の温泉旅館が13軒（大湯地区7軒、院内地区6軒）、ゲストハウスが4軒（温泉の引湯なし）、民宿が4軒（分去地区、院内地区、上手地区）です。

近年、北陸新幹線開業や長野オリンピックを機に大型投資を行ったものの、消費低迷により経営が圧迫されている旅館が多く存在します。NHK大河ドラマ放映による一時的な客足回復もあったものの、経営破綻に追い込まれる旅館も少なくありません。2015年以降、複数の旅館が事業停止や倒産に見舞われています。

2019年の東日本台風による上田電鉄別所線の長期運休や、2020年からの新型コロナウイルス感染拡大も、温泉街の経営に深刻な打撃を与えています。2020年には、大規模な施設を持つ旅館が自己破産・閉館に追い込まれました。

地区構成

別所温泉は、以下の4地区で構成されています。
分去（わかされ）：別所温泉駅・あいそめの湯周辺
大湯（おおゆ）：共同浴場「大湯」周辺
院内（いんない）：北向観音・常楽寺・安楽寺周辺
上手（わで）：温泉街を流れる湯川の上流部周辺

これらの地区は、それぞれに特徴的な景観と歴史を持っています。別所温泉の祭事「岳の幟」は、これらの4地区が一年交代で当番を務めます。

別所温泉財産区

別所温泉の源泉、共同浴場、足湯、住民用洗い場は、別所温泉財産区が所有・管理しています。別所温泉財産区は、1956年に設立された特別地方公共団体です。財産区の管理者は上田市長であり、財産区議会や運営審議会も設けられています。

歴史と伝承

別所温泉の開湯時期は不明ですが、古代から存在していたと考えられています。伝説によれば、日本武尊が東征の折に発見したとされ、「日本最古の温泉」の一つとも言われています。『日本書紀』には「束間温湯」への行幸が記されており、これが現在の別所温泉であるという説もあります。

平安時代には、清少納言が『枕草子』で「七久里（ななくり）温泉」を称賛しており、これが別所温泉を指すという説も有力です。

鎌倉時代には、塩田北条氏によって安楽寺や北向観音が創建され、戦国時代には真田氏も入湯した記録が残っています。江戸時代には、上田藩主の湯治場として利用されました。

「信州の鎌倉」という名称は、北条氏ゆかりの地であることや、寺社仏閣が点在する様子が鎌倉に似ていることから名付けられました。

社寺・旧跡・名所

北向観音
常楽寺
安楽寺
別所神社
湯かけ地蔵
愛染橋
大湯薬師堂
七苦離地蔵堂
将軍塚
別所温泉森林公園
別所公園
上田市別所温泉センター
* 武屋御殿

作品との関わり

別所温泉は、多くの文学作品や映画の舞台となっています。川端康成は『花のワルツ』を、別所温泉の旅館で執筆しました。吉川英治の『新・平家物語』には、木曾義仲が「大湯」に入湯する場面が登場します。池波正太郎の『真田太平記』には、真田幸村が「石湯」に入浴する場面が登場します。また、映画『男はつらいよ 寅次郎純情詩集』など数々の映画やテレビドラマのロケ地としても利用されています。

アクセス

鉄道：北陸新幹線・しなの鉄道線上田駅で上田電鉄別所線に乗り換え、終点別所温泉駅下車。
バス：上田バス、西武観光バス、千曲バスなどが運行。
自家用車：上信越自動車道上田菅平インターチェンジから国道143号経由。

別所温泉は、豊かな自然と歴史、そして温泉が調和した魅力的な場所です。ぜひ一度、訪れてみてはいかがでしょうか。

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