南本線

タイ国鉄南本線

タイ国鉄南本線は、バンコクの新トンブリー駅を起点とし、スンガイコーロック駅までを結ぶ全長約1143kmの路線です。この路線はタイ南部を縦断し、マレーシアとの国境に接するパダン・ブサール駅へ至る支線など、7つの支線を含んでいます。本記事では、これらの支線も併せて詳しく解説します。

概要

南本線は、タイ国有鉄道の主要幹線の一つとして、東北本線、北本線に次いで建設されました。他の2線とは異なり、最初から1,000mmのメーターゲージで敷設されました。1903年に旧トンブリー駅とペッチャブリー駅の間が開業し、その後南北3箇所から延伸工事が進められました。1916年には南北からの工事が完了し、1921年にはスンガイコーロックまで全線が開通しました。

開業当初から、カンタン、ソンクラー、ナコーンシータンマラートへの支線も建設され、その後、ナムトック、キーリーラットニコム、スパンブリーへの支線が開通しました。ソンクラー支線は後に廃止されています。

1927年には、タリンチャン駅から分岐してチャオプラヤー川を渡り、北本線に乗り入れてフアランポーン駅に直通するルートが確立しました。これにより、一部の長距離列車はフアランポーン駅発着となり、現在もその運行形態が維持されています。

2019年現在、南本線では夜行特急列車が2往復（うち1往復はマレーシア領内のパダン・ブサール駅まで運行）、ディーゼル特急列車が2往復、夜行急行列車が2往復運行されています。また、長距離快速列車も運行されており、これらの列車にはエアコン付きの2等寝台車が連結されていることが多いです。

2021年には、バーンスー中央駅を起点とする電化新線であるレッドラインが開業し、ライトレッドラインは南本線地上線と並走しています。

2022年には、バーンスー中央駅はクルンテープ・アピワット中央駅に改称されましたが、一部列車が停車する旧駅は「バーンスー分岐駅（地上駅）」として引き続き使用されています。

2023年1月にはダイヤ改正により、フアランポーン駅発着の列車の大半がクルンテープ・アピワット中央駅発着に変更されました。しかし、2往復はフアランポーン駅発着で残され、地上線を経由しています。

同年12月には、複線化予定区間の一部が完成し、暫定ダイヤでの運転が開始されました。これにより、バンコクとフワヒン間の所要時間が短縮されています。

複線化事業

ナコーンパトム以遠の単線区間を近代化するため、第一期複線化事業としてナコーンパトムからチュムポーン間約420kmの工事が進められています。2023年12月には一部区間が暫定的に供用を開始し、残りの区間は2024年度中に営業開始とされています。また、チュムポーン以南のパダン・ブサールまでの複線化も検討されており、実現すればバンコクから国境までの長大な複線区間が完成します。将来的には、他の支線群についても複線化構想があります。

複線化事業には、踏切の立体交差化や、ETCS Level 1導入による安全性の強化も含まれており、高速化と安全性の向上が期待されています。将来的には、マレー半島における高速鉄道プロジェクトに組み込まれる可能性もあります。

ナムトック支線

ノーン・プラードゥック分岐駅とナムトック駅を結ぶ支線は、旧泰緬鉄道の一部であり、「西線」とも呼ばれています。この路線は、第二次世界大戦中に建設され、多くの犠牲者を出した歴史があります。現在では、観光路線として人気があり、週末には観光列車も運行されています。

開業の歴史

南本線の各区間の開業日は以下の通りです。

1903年6月19日：旧トンブリー駅 - ペッチャブリー駅 (150.49 km)
1911年6月9日：ペッチャブリー駅 - チャアム駅 (36.57 km)
1911年11月25日：チャアム駅 - フワヒン駅 (25.93 km)
1913年1月1日：ウタパオ分岐駅 - ソンクラー駅 (26.68 km)
1913年1月1日：パッタルン駅 - ウタパオ分岐駅 (79.79 km)
1913年4月1日：フワイヨート駅 - カンタン駅 (49.26 km)
1914年1月1日：フワヒン駅 - ワンポン駅 (19.86 km)
1914年1月1日：トゥンソン分岐駅 - フワイヨート駅 (43.74 km)
1914年6月1日：ワンポン駅 - プラチュワップキーリーカン駅 (69.48 km)
1914年10月1日：トゥンソン分岐駅 - パッタルン駅 (88.93 km)
1914年10月1日：カオチュムトーン分岐駅 - ナコーンシータンマラート駅 (35.01 km)
1915年2月14日：バーンナ駅 - トゥンソン分岐駅 (94.74 km)
1915年3月15日：バーンクルット駅 - バーンサパーンヤイ駅 (15.99 km)
1915年12月1日：プラチュワップキーリーカン駅 - バーンクルット駅 (58.2 km)
1916年7月17日：チュムポーン駅 - バーンナ駅 (193.81 km)
1916年9月1日：バーンサパーンヤイ駅 - チュムポーン駅 (92.01 km)
1917年4月1日：ウタパオ分岐駅 - クローンサイ駅 (100.27 km)
1918年7月1日：ハジャイ分岐駅 - パダン・ブサール駅 (45.26 km)
1919年1[[1月1日]]：クローンサイ駅 - バロ駅 (35.63 km)
1920年3月1日：バロ駅 - タンヨンマット駅 (37.8 km)
1921年9月17日：タンヨンマット駅 - スンガイコーロック駅 (43.49 km)
1927年1月1日：バーンスー分岐駅 - タリンチャン分岐駅 (14.66 km)
1949年6月24日：ノーンプラードゥック分岐駅 - カーンチャナブリー駅 (52.85 km)
1952年4月1日：カーンチャナブリー駅 - ワンポー駅 (61.06 km)
1956年4月13日：バーントゥンポー分岐駅 - キーリーラットニコム駅 (31.00 km)
1958年7月1日：ワンポー駅 - ナムトック駅 (16.14 km)
1963年6月16日：ノーンプラードゥック分岐駅 - スパンブリー駅 (77.41 km)

その他の出来事

1978年7月1日：ハジャイ分岐駅 - ソンクラー駅（廃止）
2000年3月3日：バーンスー分岐駅 - タリンチャン分岐駅（複線化）
2002年10月1日：タリンチャン分岐駅 - ナコーンパトム駅（複線化）
2003年10月4日：旧トンブリー駅（廃止）
2021年11月29日：ライトレッドライン バーンスー中央（当時） - タリンチャン区間開業

フアランポーン - バーンスー間

フアランポーン駅とバーンスー駅の間は北本線に乗り入れています。この区間は全線複線で、バーンスーとタリンチャン間は電化新線ライトレッドラインと合わせて複々線となっています。公式資料では、バーンスー - タリンチャン間はラーマ6世橋支線とされています。

トンブリー駅 - スンガイコーロック駅

歴史的、そして登記上も、トンブリー駅とスンガイコーロック駅間が南本線の本線です。旧トンブリー駅が基準となっているため、各駅のキロ程もこの駅を基準としています。

一部では、フアランポーン - バーンスー - タリンチャン間や、ハート・ヤイからパダン・ブサール駅を経由してマレー鉄道に接続する経路を「本線」と紹介する記述が見られますが、これは観光客の視点から見た誤解です。南本線単体として扱う場合は誤記であると言わざるを得ません。

旧トンブリー駅は再開発のため移転し、新トンブリー駅が2003年に開業しました。しかし、他の交通機関との接続は考慮されておらず、利用者の利便性は低いままです。フアランポーン駅への直通運転が再開された当初は、同駅発着列車は少数でしたが、現在ではトンブリー駅発着列車は昼行列車のみとなっています。

ライトレッドライン開業後、トンブリー - タリンチャン - ナコーンパトム間を結ぶ短距離列車が増発され、利便性が向上しています。ナコーンパトムまでの電化区間延伸も予定されており、トンブリー - タリンチャン間の電化とライトレッドラインへの組み込みも計画されています。これにより、シリラート駅が旧トンブリー駅に近い場所に再び設置されることになります。シリラート駅には地下鉄の新路線接続も計画されており、実現すればタイ南部からバンコク中心部へのアクセスが向上する可能性があります。

ノーンプラードゥック分岐駅 - スパンブリー駅

この支線は、南本線と北本線を結ぶ短絡線として計画されましたが、スパンブリー県までしか完成しませんでした。スパンブリーは穀倉地帯であり、1990年頃まで米の輸送が行われていました。スパンブリーからビルマ（現ミャンマー）国境方面への延伸も検討されましたが、実現には至っていません。

この支線には交換設備がなく、全線が単一の閉塞区間となっています。列車本数も非常に少なく、乗車が難しい路線として知られています。2022年3月には、実験的にビール輸送がシーサムラン停車場から開始されました。

ノーンプラードゥック分岐駅 - ナムトック駅

この区間は、第二次世界大戦中に建設された泰緬鉄道の一部です。建設は急ピッチで行われ、多くの犠牲者が出ました。終戦後、鉄道は再建され、1958年にはナムトックまで開通しました。

観光路線として人気があり、週末には観光列車も運行されます。

その他の支線

バーントゥンポー分岐駅 - キーリーラットニコム駅
トゥンソン分岐駅 - カンタン駅
カオチュムトーン分岐駅 - ナコーンシータンマラート駅
ハジャイ分岐駅 - パダン・ブサール駅（マレーシア国境）：かつては国際列車が運行されていましたが、現在はタイ編成の列車はパダン・ブサール駅発着、マレーシア編成の列車は廃止されています。本線直通の特急列車と支線のみ走行する普通列車が運行されています。観光列車も不定期に運行されます。
ハジャイ分岐駅 - ソンクラー駅（廃止）：1978年に廃止されました。

主な事件、事故

南本線では、過去に以下の様な事件・事故が発生しています。

2007年6月4日：ヤラー県で線路のボルトが抜かれ列車が脱線、13人が負傷。
2009年10月4日：プラチュワップキーリーカン県で寝台急行列車が脱線、多数の死傷者を出す。
2010年2月23日：パタルン県で貨物列車が脱線。
2010年2月25日：ソンクラー県で普通列車が脱線、22人が負傷。
2010年11月26日：タナコンシータマラート県で寝台急行列車が脱線。
2011年7月25日：チャアム―ノーンサーラー間で急行列車が脱線。
2011年12月28日：プラチャップキリカーン県で特急列車がトラックと衝突、脱線炎上。
2012年5月5日：ナコンシータマラート県で貨物列車が脱線。
2012年11月8日：ナラティワート県で爆弾テロが発生し、旅客列車が脱線、死傷者を出す。

参考文献

岡本和之　『タイ鉄道旅行』　（めこん、1993年）
杉本聖一　『魅惑のタイ鉄道』　（玉川新聞社、2000年）
柿崎一郎　『王国の鉄路 タイ鉄道の歴史』　（京都大学学術出版会、2010年）
ฝ่ายการเดินรถ การรถไฟแห่งประเทศไทย. บัญชีรายชื่อสถานี/ที่หยุดรถ/ป้ายหยุดรถ/ระยะทาง/ชั้นสถานี/สังกัด.
渡邉乙弘　『タイ国鉄4000キロの旅』　（文芸社、2013年）

関連項目

タイ国有鉄道
タイの鉄道駅一覧
タイ国有鉄道北本線
タイ国有鉄道東北本線
タイ国有鉄道東本線
タイ国有鉄道メークローン線
南本線の駅一覧
* タイ高速鉄道計画

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