単核貪食細胞系

単核貪食細胞系（Mononuclear Phagocyte System: MPS）

単核貪食細胞系は、生体内の主要な免疫機構の一つであり、特に食作用（貪食）によって異物や老廃物を処理する細胞群のシステムを指します。このシステムは、主に骨髄で生成される単球が血液中を経て全身の組織に移動し、そこで組織球やマクロファージへと分化・成熟した細胞によって構成されます。

かつてはこのシステム全体を「細網内皮系」あるいは「網内系」と呼んでいましたが、血管の内壁を構成する内皮細胞の多くはマクロファージとしての機能を持たないことが明らかになったため、現在ではより正確に細胞の機能に着目した「単核貪食細胞系」という名称が一般的に用いられています。ただし、「単核貪食細胞系」という用語自体も、広範囲にわたる細胞群を包括的に捉えようとする古い概念の側面があり、使用にあたっては注意が必要とされています。

構成細胞と分布

単核貪食細胞系を構成する主要な細胞は、単球およびマクロファージです。単球は骨髄で産生され、血流に乗って全身を循環します。その後、様々な組織へと移行し、それぞれの組織に特化したマクロファージへと成熟します。組織に定着したマクロファージは、その局所での名称で呼ばれることがあります。例えば、肝臓ではクッパー細胞、肺では肺胞マクロファージ、中枢神経系では小膠細胞（ミクログリア）、結合組織やリンパ節、脾臓では組織球（ヒストサイト）などです。

これらの細胞の中でも、脾臓には単核貪食細胞系に属する細胞が最も多く集積しており、このシステムにおいて最大の細胞群を形成しています。血中を循環する単球の寿命は約一日と比較的短いですが、組織に定着しマクロファージとして分化した細胞は、数ヶ月から数年にわたる長い寿命を持つことが知られています。

主な機能

単核貪食細胞系は、生体防御、免疫応答、および恒常性維持において多岐にわたる重要な機能を果たします。

1. 老廃物や損傷細胞の除去: 老化したり損傷したりした赤血球、白血球、巨核球などの血球成分は、主に脾臓やリンパ節に存在するマクロファージによって効率的に貪食・分解されます。これにより、体内に不要な細胞やその分解産物が蓄積するのを防ぎます。
2. 病原体の排除と免疫応答: マイコバクテリウム、真菌、細菌、原生動物、ウイルスといった様々な病原体を貪食し、消化・殺菌することで感染防御の最前線として機能します。また、取り込んだ病原体の情報をリンパ球に提示することで、獲得免疫（体液性免疫と細胞性免疫）の活性化にも関与します。
3. 鉄代謝への関与: 老化した赤血球を分解する際に放出されるヘモグロビンから鉄を回収し、フェリチンやヘモジデリンといった形で貯蔵します。特に肝臓のクッパー細胞は鉄代謝において重要な役割を担い、ヘム鉄の生合成や過剰な鉄の貯蔵を行います。骨髄や脾臓のMPS細胞も同様に鉄を貯蔵し、体内の鉄バランス維持に貢献します。
4. その他の生化学的機能: 血漿タンパク質の合成に関与するほか、ヘパリナーゼという酵素を産生して抗凝固作用を持つヘパリンを分解するなど、様々な生化学的プロセスに関与しています。
5. 造血への関連: 骨髄における造血幹細胞（CFU-GEMMなど）から顆粒球、赤芽球、単球、巨核球といった骨髄球系統の細胞が分化・成熟する過程において、単核貪食細胞系に属する細胞がその微小環境の一部を形成したり、サイトカインを産生したりすることで、造血を間接的に支持する役割も担っています。

このように、単核貪食細胞系は、体内の「清掃工場」としての役割に加え、免疫系の重要な担い手として、生体の健康維持に不可欠なシステムです。

もう一度検索