合奏協奏曲集 作品6 (ヘンデル)

ヘンデル『合奏協奏曲集』作品6：バロック音楽の粋

ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルが1739年に作曲した『合奏協奏曲集』作品6（HWV 319-330）は、12曲から構成されるバロック音楽の傑作です。初版の正式名称は『ヴァイオリン4部、テノール・ヴァイオリン、チェロおよびハープシコードの通奏低音のための七声による12の合奏協奏曲集』であり、テノール・ヴァイオリンはヴィオラを指します。

この作品は、2台のヴァイオリンとチェロによるコンチェルティーノ（独奏群）と、弦楽（第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ）およびチェンバロの通奏低音によるリピエーノ（合奏群）という編成で演奏されます。ヘンデルの数多くの器楽曲の中でも、特に優れて洗練された作品として評価されています。

概要

本作は、アルカンジェロ・コレッリの『合奏協奏曲集』作品6（1714年出版）をモデルとしていますが、その様式は非常に多様です。オペラを彷彿とさせるフランス風序曲、サラバンド風のアリア、ダ・カーポ形式、室内ソナタ風の舞曲の連続、そしてフーガに見られるドイツ的な対位法音楽など、国際的な要素が散りばめられています。音楽学者クリストファー・ホグウッドは、この作品を「コレッリの地味なスタイルに、力強い推進力、研ぎ澄まされた知性、そして豊かな機知を加えたもの」と評しています。

当時、コレッリの音楽はイタリアでは忘れられつつありましたが、イギリスではジェミニアーニらによって伝えられ、高い人気を博していました。ヘンデルの協奏曲は、ヴィヴァルディやアルビノーニのような三楽章形式ではなく、個人の技巧を誇示するような作品でもありません。しかし、一部にはヴィヴァルディの影響も感じられ、例えば第5番の冒頭は、ヴィヴァルディの『調和の霊感』第1曲に似たコンチェルティーノによる開始が特徴的です。また、第6番の第4楽章では、華やかなヴァイオリン独奏が際立っています。

興味深いことに、これらの協奏曲の中には、当時作曲中だったオペラ『イメネーオ』の楽想を転用したものも含まれています。さらに、第5番は同時期に作曲された『聖セシリアの日のための頌歌』と共通の主題を使用しており、この頌歌と同様に、ゴットリープ・ムッファトのチェンバロ曲集『Componimenti musicali』や、ドメニコ・スカルラッティの『チェンバロ練習曲集』から、多くの楽想を借用しています。

作曲の経緯

ヘンデルは1738年にオルガン協奏曲集第1巻（作品4）を出版した後、この時期に器楽曲をまとめて出版しました。作品6は、1739年の9月から10月末までの非常に短い期間に作曲されました。自筆原稿には、各曲の完成日が記されており（第9番を除く）、第1番が9月23日、最後に作曲された第11番が10月30日に完成しています。

自筆原稿には、第1・2・5・6番にオーボエのパートが記されており、これは第1・第2ヴァイオリンのパートをなぞるものでしたが、出版された楽譜からは削除されています。各曲の初演日は明らかではありませんが、1739年11月から翌年3月にかけて、リンカーンズ・イン・フィールズ劇場で上演されたオラトリオや頌歌の幕間に演奏されたと考えられています。この作品は、1740年4月27日にジョン・ウォルシュから出版されました。

各曲の概要

以下に、各曲の構成と特徴を簡潔にまとめます。

第1番 ト長調 HWV 319：短い2つの楽章が連続し、短調の緩徐楽章、フーガ、そしてジグへと続きます。
第2番 ヘ長調 HWV 320：穏やかな第1楽章から始まり、短調の急速な第2楽章、長調の第3楽章、フーガへと展開します。
第3番 ホ短調 HWV 321：短い第1楽章の後、フーガ、ヴァイオリン独奏が活躍する楽章、ポロネーズ、そして再び短調の楽章が続きます。
第4番 イ短調 HWV 322：静かな第1楽章に続き、フーガ、長調の緩徐楽章、そして短調の終楽章で構成されます。
第5番 ニ長調 HWV 323：フランス風序曲とフーガで始まり、舞曲風の楽章、短調の緩徐楽章、そしてメヌエットで締めくくられます。
第6番 ト短調 HWV 324：暗く沈んだ第1楽章、半音階的なフーガ、ミュゼット、ヴァイオリン独奏が際立つ楽章、そしてメヌエット風の舞曲で構成されます。
第7番 変ロ長調 HWV 325：コンチェルティーノがなく、全奏のみで演奏される。フーガ、短調の音楽、付点つきリズムの楽章、そしてホーンパイプで構成。
第8番 ハ短調 HWV 326：フーガがなく、アルマンド、経過句風の楽章、快速な楽章、緩徐楽章、シチリアーナと舞曲風の楽章で構成される。
第9番 ヘ長調 HWV 327：導入部、鳥の鳴き声を模倣した楽章、短調のシチリアーナ、フーガ、メヌエット、そしてジグで構成されます。
第10番 ニ短調 HWV 328：フランス風序曲、フーガ、緩徐楽章、全奏による楽章、そして快速な楽章で構成されます。
第11番 イ長調 HWV 329：付点つきリズムの楽章、フーガ、短い経過句、全奏とコンチェルティーノが対比される楽章、そしてダ・カーポを持つ快速な楽章で構成。
第12番 ロ短調 HWV 330：フランス風序曲、変奏曲形式の楽章、短い経過句、そしてフーガで構成されています。

まとめ

『合奏協奏曲集』作品6は、ヘンデルの卓越した作曲技術と、国際的な音楽様式への深い理解が結実した作品です。各曲はそれぞれ個性豊かで、聴く者を飽きさせません。バロック音楽の愛好家だけでなく、幅広い音楽ファンにおすすめできる傑作です。

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