地名集

地名集とは

地名集（英: gazetteer）は、地名とその位置に関する情報を提供する辞書やデータベースのことです。地名学の分野で重要な役割を果たし、地図や地図帳と併用されることが一般的です。地名集には、国、地方、大陸といった地理的な特徴だけでなく、人口、GDP、識字率などの社会統計、山、河川、道路などの都市環境に関する情報も掲載されています。

地名集で提供される情報は多岐にわたり、地名の位置情報、都市環境の詳細、人口統計、経済データなどが含まれます。通常、地名は五十音順やアルファベット順に整理されており、利用者が容易に情報を検索できるようになっています。

地名集の歴史

地名集の歴史は古く、古代ギリシャ時代にはすでに存在していました。世界初の地名集は1世紀の中[[国]]で編纂されたとされています。9世紀の中[[国]]では、活版印刷の発展とともに、地方の地名集制作が盛んになりました。

6世紀には東ローマ帝国の地理学者ステファヌス・ビザンチウムが地理辞典を制作し、16世紀のヨーロッパにおける地名集編纂に影響を与えました。近代の地名集は図書館で閲覧できるだけでなく、インターネット上でも参照可能です。

語源

「gazetteer」という単語は、「地理索引または辞書」を意味します。この単語が英語に取り入れられたきっかけは、1693年にイギリスの歴史家ローレンス・エチャードが作成した「The Gazetteer's: or Newsman's Interpreter: Being a Geographical Index」という作品でした。

エチャードは、自身の作品のタイトルが「非常に高名な人物」によって提案されたと述べていますが、その人物の名前は明かしていません。歴史家のロバート・C・ホワイトは、この人物がエチャードの同僚であったエドマンド・ボフンであると推測しています。

18世紀以降、「地名集」という単語は、地理辞典や地理名鑑といった意味で使用されるようになりました。また、ロンドンには「Gazetteer」という日刊新聞が存在していました。

地名集の種類と分類

地名集は、掲載される情報の種類や量によって分類されます。

世界の地名集: 各国の基本的な統計情報や、都市、町、村に関する情報がアルファベット順に掲載されています。
Short-form gazetteers: コンピュータマッピングや地理情報システムと連携して使用され、地名、緯度、経度、空間参照系などの情報を提供します。
Descriptive gazetteers: 工業、政府、地理に関する詳細な記述や、都市の歴史、地図、写真などが含まれます。
Thematic gazetteers: 港、原子力発電所、歴史的建造物など、特定のテーマに沿って場所や地理的特徴を紹介します。

これらの地名集に共通している点は、地理的な位置が一覧として表示される際に重要視されている点です。

地名集の編集者は、国勢調査や商工会議所などの公式文書や、その他の情報源を参照して情報を収集し、要約を作成します。

歴史

西洋

古代ギリシャ・古代ローマ時代

歴史家W・W・ターンは、紀元前324年～323年の間にアレクサンドロス大王の太守によって作成された地名集を、古代の地名集として挙げています。この文書は紀元前1世紀にギリシャの歴史家シケリアのディオドロスによって改訂されました。

紀元前1世紀には、ハリカルナッソスのディオニュシオスが、人々、都市、交易について記述した歴史叢書を著しました。歴史家のTruesdell S. Brownは、ディオニュシオスの記述は「歴史」よりも「地名集」に分類されるべきであると述べています。

フランシス・セロリアは、紀元後2世紀のプトレマイオスとパウサニアスが地理学用語を用いた地名集を制作したと述べています。

古代エジプトでは、古代の行政区画を記したパピルスにタニスの名前が見られ、当時の地名集として機能していたと考えられています。

中世

1086年にウィリアム1世によって作成されたドゥームズデイ・ブックは、イングランドのすべての行政区画に関する調査記録であり、土地所有者や農場所有者に課税するために作成されました。この調査記録には、多くの城が一覧に掲載されています。

1316年には、エドワード2世によってNomina Villarumという調査書が作成されました。これはイングランドの行政区画に関する一覧であり、各地方から徴兵できる軍隊の数を調べるために使用されました。

テューダー朝時代には、ジョン・ノーデンが「Speculum Britanniae」という地名集を作成し、イングランドの地名をハンドレッドに関してアルファベット順に並べ、地図で位置を参照できるようにしました。

1611年には、ジョン・スピードがイングランドの都市名をアルファベット順に並べ、各都市の簡単な地図、歴史、行政区画、経度、緯度などをまとめた「Theatre of the Empire of Great Britaine」を出版しました。

1680年には、ジョン・アダムスが約24,000の地名とその地理的位置を収録した「Index Villaris」を出版しました。

1688年には、エドマンド・ボフンが8,500の項目を収めた地名集「地理辞典」を出版しました。ボフンは、西洋初の地理辞典はステファヌス・ビザンチウムによるものだと述べています。

1605年には、フィリップス・フェラリウスが地理辞典「Epitome Geographicus in Quattuor Libros Divisum」を出版し、都市、河川、山地、湖沼といった項目別に地名を整理しました。

ピエール・ドゥヴァルは様々な地理辞典を作成し、多言語で記された初のヨーロッパの地理辞典となりました。

ローレンス・エチャードが1693年に出版した地名集は、様々な言語に翻訳され、広く利用されるようになりました。

アメリカ独立戦争後には、ジェレミー・ベルナップとエベニーザー・ハザードが地名集を作成しようとしましたが、ジェディディア・モースが先に「Geography Made Easy」を作成しました。しかし、モースの地名集は出版が遅れ、ジョセフ・スコットが1795年にアメリカ合衆[[国]]の地名集を出版しました。モースは1797年に「The American Universal Geography」を出版しましたが、当時の風潮から批判を受けました。

近代

19世紀には、スコットランド人の出版社によって大英帝国の情報を求める大衆の声に応える形で地名集が出版され、イギリスで非常に人気が出ました。この伝統は現代にも続いており、イギリス所有国土地名集や、スコットランド地名集などが発行されています。

世界の地名集も出版されており、1912年にはリッピンコット・ウィリアムズ・アンド・ウィルキンスによって世界地名集が出版されました。

東アジア

中[[国]]

近代の中[[国]]学者や歴史家は、後漢時代に書かれた「越絶書」が中[[国]]の地方集の原型であると考えています。最初の地方志は、常璩によって編纂された「華陽国志」であると考えられています。

現存する近代以前の中[[国]]の地名集は8,000点以上に上ります。地名集は宋の時代に一般的になりましたが、現存している作品の多くは明と清の時代に作成されたものです。

唐の時代までに地名集はより細かい内容まで扱うようになり、地方の天文台、学校、堤防、水道、郵便局、地元の神々を祀った寺院、墓などが個別の項目として扱われるようになりました。

宋の時代には、地名集は地方貴族や有力家系の伝記、書誌、地方の名所に関する詩や散文を集めた文学選集も扱うことが一般的になりました。

610年、隋の皇帝煬帝は、地方道路、河川、運河、著名な建築物に関する情報をまとめた「途径」と呼ばれる地名集を作成しました。この地名集は中央政府が地方の統治や治安維持のために利用しました。

歴史家ジェームズ・M・ハーゲットは、「宋の時代までに地名集は政治、行政区画、軍事関連項目に関して現状に見合った情報が掲載されるようになり、地方、中央政府ともに前時代よりも多くの地名集を出版した」と述べています。

明の時代には、地方の地名集は中央政府に委任されたものから、地方独自の作成物へと変化していきました。

清の時代には、無人地域や行政機関が置かれていない地域に測量のための部隊や役人が派遣され、地方の公式地名集には新たに定められた行政単位や少数民族に関する情報が含まれるようになりました。

明の地名集は、商人層に対する郷紳の態度の変化についても記しており、時代が経つにつれ、郷紳は商人から投資を募り、学術書の出版や建築物の建設を行うようになったため、商人に対して以前は見られなかった好意的な扱いが見られるようになりました。

清の時代には、蒋廷錫らが「大清一統志」を編纂しました。また、マテオ・リッチは中[[国]]語の世界地名集「坤輿万国全図」を作成しました。

1859年には、ウィリアム・ミュアヘッドが「地理全志」を出版しました。1844年には、魏源が「海国図志」を出版し、日本でも翻訳されました。

中華民[[国]]は1929年に地方志を作成し、1956年には毛沢東のもとで、1980年代には鄧小平のもとで地名集の出版が行われました。

朝鮮

朝鮮では、学者が中[[国]]の地方誌の構成を取り入れた地名集を発行していました。李氏朝鮮の最初の地方誌は1432年に出版された「新撰八道地理志」で、1454年に「世宗実録地理志」と改題され、1531年に「新増東国輿地勝覧」というタイトルで再版されました。

李氏朝鮮では、国際地名集も作成していました。

日本

日本では、近代まで「風土記」と呼ばれる地名集が発行されていました。風土記には、様々な地方の歴史風俗や伝説が掲載されています。例えば、奈良時代に作成された「播磨国風土記」には、3世紀の応神天皇について記述されています。

江戸時代にも地名集は大名などの庇護のもとで制作されました。19世紀になると、日本人によって世界の地名集が作成されるようになりました。

南アジア

近代以前のインドでは、地方に関する地名集が作成されていました。ムガル帝[[国]]時代には、アブル・ファズルが「アイネ・アクバリ」という地名集を作成しました。

イスラム世界

近代以前のイスラム世界でも地名集が作成されていました。サファヴィー朝の製図家は、地方に関する地名集を作成していました。

地名集の一覧

この記事では、世界の地名集や特定のテーマに関する地名集など、多数の地名集が一覧として掲載されています。

脚注

記事中の脚注は、参考文献の情報を補足する形で記述されています。

参考文献

記事の参考文献は、各学者の論文や書籍を引用しており、地名集の歴史や分類に関する詳細な情報を提供しています。

結論

地名集は、歴史的に重要な役割を果たしてきた情報源であり、現代においても地理情報の基盤として利用されています。この記事では、地名集の歴史、種類、分類、そして世界各地での発展について詳しく解説しました。

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