門葉

門葉（もんよう）とは

門葉とは、本来は血縁関係のある一族を指す言葉です。しかし、時代が下るにつれて、擬似的な血縁関係で編成された家臣団における格式を示す名称としても用いられるようになりました。特に鎌倉幕府においては、源頼朝（鎌倉殿）の一門としての特別な処遇を受けた者を指し、「御門葉（ごもんよう）」とも呼ばれました。

門葉の登場

『吾妻鏡』には、門葉に関する記述がいくつか見られます。その一つが、平家追討の際に甲斐源氏の板垣兼信が、源氏一門でありながら坂東平氏の土肥実平よりも下位に置かれることに不満を述べたという記事です。この時、頼朝は兼信の要求を一蹴していますが、この記事から、当時の鎌倉幕府において「門葉」（源氏一族）と「家人」（御家人）という概念が存在していたことが分かります。

また、毛呂季光と中条家長が些細な理由で喧嘩を起こした記事にも、門葉に関する記述があります。この記事では、季光が門葉に準じる身分であると記されており、当時の幕府において季光よりも上位に門葉という存在があったことがうかがえます。ちなみに、季光は文治2年（1186年）に頼朝の推挙で豊後守に任じられていますが、豊後は関東御分国（頼朝の知行国）でした。

文治5年（1189年）7月19日の『吾妻鏡』には、頼朝が軍勢を率いて鎌倉から奥州へ出発した際の記事があります。その際に御供をした御家人の名が列挙されていますが、季光よりも前に名前が記載されているのは以下の9名です。

平賀義信（武蔵守）
安田義定（遠江守）
源範頼（三河守）
加賀美遠光（信濃守）
大内惟義（相模守、平賀義信の嫡男）
源広綱（駿河守）
足利義兼（上総介）
山名義範（伊豆守）
安田義資（越後守）

これらの9名は、いずれも清和源氏であり、国司の地位にありました。そして、様々な儀式の場で頼朝の御後に列していたのです。このような状況から、頼朝は律令制の公卿（三位以上）、諸大夫（四位、五位）、侍（六位）の位階秩序を、将軍家（公卿）、門葉・准門葉（諸大夫）、一般御家人（侍）に当てはめることで、一門と御家人の格差を明確化し、幕府の身分秩序を構築しようとしていたという見解があります。また、元暦・文治年間の幕府席次において門葉筆頭ともいえる座を占めていた平賀義信は、源義朝・頼朝親子への忠勤を認められたためだと考えられています。

門葉の衰退

一族組織が脆弱だった頼朝は、門葉が将軍家の藩屏となることを期待していたと考えられます。しかし、門葉は逆に頼朝の権力を脅かす存在でもありました。そのためか、建久年間になると門葉は次々と姿を消し、頼朝の没年には平賀義信・大内惟義の親子を残すのみとなりました。正治2年（1200年）4月1日に北条時政が遠江守に任じられたことで、御家人に対する門葉の優位性は失われました。頼朝が最も信頼を置いていた平賀氏（大内氏）は、承久の乱で北条氏との抗争に敗れ、没落することになります。

ただし、門葉の中で足利氏だけは北条氏と縁戚関係を結び続け、また得宗との政治的対立を避けることで勢力を維持しました。宝治2年（1248年）には、足利義氏が結城朝光との争論において、足利氏は「右大将家の御氏族」であると主張したのに対して、幕府は足利氏と結城氏は対等であるという判断を下しています（『吾妻鏡』宝治2年閏12月28日条）。しかし、鎌倉後期になっても足利氏の幕府内における序列は総じて高いものであり、足利貞氏は執権北条貞時から源氏嫡流と認められていたという見解もあります。もっとも、鎌倉時代の足利氏が「源氏の嫡流」だったとする同時代の史料は確認されておらず、この説が記されているのは戦国時代成立の『今川記』『今川家譜』であるため、鎌倉時代における足利氏の位置付けは「源氏の嫡流」ではなく「御家人の中の名門」と考えるのが妥当だという見解もあります。

関連項目

家門
御一家
徳川御三家

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