大庭賢兼

大庭賢兼（おおば かたかね）

大庭賢兼は、戦国時代から安土桃山時代にかけての武将で、大内氏と毛利氏という二つの有力な氏族に仕えました。文化人としての側面も持ち合わせていた彼の生涯を、史実に基づいて詳細に解説します。

出自

大庭氏は、桓武平氏良文流の鎌倉氏の流れを汲む一族で、相模国高座郡の大庭御厨を本拠地とする西遷御家人でした。大内氏への臣従は、遅くとも大内義興の時代までには確立していたと考えられています。

生涯

大永3年（1523年）に生まれた賢兼は、大内義隆の時代の『大内殿有名衆』に「小奉行」として記録されています。これが史料における彼の初見です。

天文20年（1551年）の大寧寺の変で大内義隆が陶隆房（後の陶晴賢）に討たれると、賢兼は大内義長に仕え、天文22年（1553年）以降は奉行人として大内氏の権力中枢に参画し、政務に携わりました。

弘治元年（1555年）から始まった毛利元就による防長経略の後、弘治3年（1557年）に大内義長が自害して大内氏が滅亡すると、賢兼は一時的に毛利氏の奉行人として登用され、防長経略の戦後処理に携わりました。

その後、賢兼は毛利元就の側近として、多岐にわたる活動を展開します。元就や毛利輝元の命を受け、各地へ赴いて様々な実務を遂行する官僚としての役割を担う一方で、軍事指揮官としての顔も持ち合わせていました。また、飛鳥井家の歌道に通じ、古典文学を探求した文人でもあり、元就とは和歌を通じて深い主従関係を結んでいました。彼の歌人としての才能や文化的素養は、元就の側近として重用された一因と考えられています。

永禄4年（1561年）には、大内氏に所縁のある鷲頭寺の社奉行を務めました。永禄5年（1562年）には、雪のために元就の陣に遅参して怒りを買ったものの、雪が原因と分かると元就は賢兼を許し、和歌を送り合って和解したというエピソードが残っています。永禄8年（1565年）には、元就が杵築大社（後の出雲大社）へ連歌万句を献納する際に、福井景吉と共に起用されました。

永禄10年（1567年）には、『源氏物語』の桐壷巻を校合し、翌年には飛鳥井雅教から歌道を伝授され、『伊勢物語』の講釈を受けました。永禄11年（1568年）から天正3年（1575年）頃にかけては、毛利氏の中枢奉行人として活動し、寺社や大内氏旧臣に関わる職務に携わりました。

元亀元年（1570年）には、足利義昭の命により毛利氏と大友氏の和睦の使者として派遣されてきた聖護院道増のもとへ、井上就正と共に赴きました。元亀2年（1571年）に元就が死去すると、賢兼は剃髪して「宗分」と号し、元就の死を悼む歌集『宗分歌集』を著しました。その後は毛利輝元の側近として、祐筆のような活動を行っています。

元亀3年（1572年）には、『古今和歌集』の補修を行い、その後も『源氏物語』の校合や『伊勢物語口語抄』の編纂など、古典の研究に力を注ぎました。

天正6年（1578年）には、市川元教の離反を鎮圧する事後処理にあたりました。天正11年（1583年）には、坂会談に輝元の使者として派遣されています。

その後の動向は不明ですが、子の景忠が後を継ぎました。

関連作品

毛利元就（1997年、NHK大河ドラマ、演：中島久之）

参考文献

村井良介『安芸毛利氏』岩田書院〈論集 戦国大名と国衆17〉、2015年。ISBN 978-4-87294-911-7。
岡部忠夫編『萩藩諸家系譜』（マツノ書店、1999年復刻）
『萩藩閥閲録』巻46「大庭源大夫」

もう一度検索