大谷巌

大谷巌：映画音響の巨匠

大谷巌（おおたに いわお、1919年8月4日 - 2017年8月3日）は、日本の映画界を支えた録音技師です。そのキャリアは長く、日本映画・テレビ録音協会の会員としても活動しました。

生い立ちとキャリアのスタート

1919年（大正8年）に大阪府で生まれた大谷は、1935年（昭和10年）に日活京都撮影所に入社し、映画業界でのキャリアをスタートさせました。その後、戦時中の1941年（昭和16年）には、日活、大都映画、新興キネマが合併して設立された大日本映画製作（後の大映）に所属しました。1943年（昭和18年）には、落合吉人監督の『風雪の春』で技師に昇進し、その才能を開花させました。戦争末期の1945年（昭和20年）には、白井戦太郎監督の遺作『龍の岬』の録音を担当しています。戦後も大映京都撮影所録音部で活動を続けました。

黒澤明、溝口健二との出会い

1950年（昭和25年）、黒澤明監督の『羅生門』の録音を手がけました。この作品は、日本映画史に残る名作として知られています。翌1951年（昭和26年）には、松竹京都撮影所から大映に移籍してきた溝口健二監督の入社第一作『お遊さま』の録音を担当し、以降、溝口監督の全作品（香港との合作である『楊貴妃』と遺作『赤線地帯』を除く）の録音を担当するなど、溝口作品には欠かせない存在となりました。

大映倒産後も続く活躍

溝口健二監督の没後も、ベテランの斎藤寅次郎監督の『帰って来た幽霊』（1955年）、渡辺邦男監督の『日蓮と蒙古大襲来』（1958年）など、数々の大作を手がけました。森一生、三隅研次といった監督の作品にも多く携わり、その才能を発揮しました。1971年（昭和46年）の大映倒産後には、勝新太郎が主宰する勝プロダクションや、大映京都撮影所出身の西岡善信が主宰する映像京都で録音技師として活躍を続けました。1977年（昭和52年）にはテレビ映画にも進出しました。

晩年まで現役

2000年（平成12年）、80歳を迎える年に、市川崑監督の『どら平太』の現場で録音技師を務め、晩年まで現役で活躍しました。2009年（平成21年）8月には、京都の映画館に通っている様子がスタッフのブログに書かれていました。大映京都撮影所時代の後輩で、日活撮影所に移籍した紅谷愃一が代表理事を務める録音技師の職能団体「日本映画・テレビ録音協会」の会員でもありました。2017年8月3日、脳梗塞のため97歳で亡くなりました。

主なフィルモグラフィー

以下は、大谷巌が録音技師として参加した主な作品です。

『風雪の春』 (1943年)
『かくて神風は吹く』 (1944年)
『龍の岬』 (1945年)
『東海水滸伝』 (1945年)
『羅生門』 (1950年)
『ごろつき船』 (1950年)
『お遊さま』 (1951年)
『西陣の姉妹』 (1952年)
『雨月物語』 (1953年)
『祇園囃子』 (1953年)
『山椒大夫』 (1954年)
『噂の女』 (1954年)
『近松物語』 (1954年)
『花ざかり男一代』 (1955年)
『月を斬る影法師』 (1955年)
『新・平家物語』 (1955年)
『帰って来た幽霊』 (1955年)
『まらそん侍』 (1956年)
『天使もお年ごろ』 (1956年)
『霧の音』 (1956年)
『日蓮と蒙古大襲来』 (1958年)
『四谷怪談』 (1959年)
『不知火検校』 (1960年)
『大菩薩峠』 (1960年)
『妖花伝』 (1960年)
『悪名』 (1961年)
『続悪名』 (1961年)
『婦系図』 (1962年)
『座頭市物語』 (1962年)
『殺陣師段平』 (1962年)
『雪之丞変化』 (1963年)
『座頭市千両首』 (1964年)
『眠狂四郎円月斬り』 (1964年)
『座頭市血笑旅』 (1964年)
『大魔神逆襲』 (1966年)
『あの試走車を狙え』 (1967年)
『とむらい師たち』 (1968年)
『尻啖え孫市』 (1969年)
『新座頭市 破れ!唐人剣』 (1971年)
『座頭市御用旅』 (1972年)
『新兵隊やくざ 火線』 (1972年)
『御用牙 かみそり半蔵地獄責め』 (1973年)
『犬神家の一族』 (1977年)
『剣客商売 辻斬り』 (1982年)
『花笛伝奇』 (1983年)
『薄化粧』 (1985年)
『十手舞』 (1986年)
『竜馬を斬った男』 (1987年)
『226』 (1989年)
『陽炎』 (1991年)
『神谷玄次郎捕物控』 (1990年)
『赤い霊柩車』 (1992年)
『御家人斬九郎』 (1995年)
『どら平太』 (2000年)
* 『時代を越える溝口健二』 (2006年) - 出演


大谷巌は、その長きにわたるキャリアの中で、数多くの名作映画の音響を支え、日本映画界の発展に大きく貢献しました。その功績は、後世に語り継がれるでしょう。

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