天龍八部 (小説)

金庸の傑作武侠小説『天龍八部』

『天龍八部』（てんりゅうはちぶ）は、中国を代表する武侠小説家、金庸（きんよう）が手掛けた長編小説の一つです。1963年から1966年にかけて連載され、その壮大な物語と魅力的なキャラクターで、多くの読者を魅了し続けています。

あらすじ

物語の舞台は、11世紀末の宋代中国。雲南大理国の王子でありながら武芸を好まない段誉（だん よ）、契丹人でありながら漢人として育てられた悲劇の英雄・蕭峯（しょうほう）、戒律を破ってしまう少林寺の僧・虚竹（こちく）、そして古の大燕国の末裔で王朝復興を夢見る慕容復（ぼよう ふく）の四人の若者を中心に物語が展開します。

彼らは、親の世代が残した確執や、運命の波に翻弄されながら、それぞれの生き方を模索していきます。物語は複雑に絡み合い、時に独立したように見える四人の物語が、不思議な縁で結びついていきます。

善悪では割り切れない多面的な人物描写も本作の特徴であり、登場人物たちはそれぞれが宿業を背負い、見えない因果の糸に操られているかのように描かれています。物語の舞台も、雲南から江南、中原、北漠、西域へと目まぐるしく移り変わり、読者を飽きさせません。

主要登場人物

段誉（だん よ）: 大理国の王子。武芸を嫌い、琴棋書画を愛する平和主義者。偶然から絶技を身につけ、美女・王語嫣（おう ぎょえん）に一目惚れする。蕭峯、虚竹と義兄弟の契りを結ぶ。
蕭峯（しょう ほう）: 丐幇（かいほう）の幇主。武術の達人であり、降龍十八掌の使い手。豪放磊落な性格だが、契丹人であるという出生の秘密を暴露され、過酷な運命を辿る。阿朱（あしゅ）に好意を寄せられる。
虚竹（こちく）: 少林寺の僧。慈悲深く、仏教に深く帰依している。ひょんなことから逍遥派の掌門に指名され、数奇な運命を歩む。世間知らずで、阿紫（あし）に騙されることが多い。
慕容復（ぼよう ふく）: 古の大燕国の末裔。文武両道で容姿端麗だが、王朝復興に執着し、悪事を重ねていく。自尊心が高く、冷酷な性格。王語嫣の想いを顧みない。
王語嫣（おう ぎょえん）: 慕容復の従妹。武芸に精通した「武林の生き字引」。段誉から一途に想いを寄せられるが、慕容復を愛し続ける。
阿朱（あしゅ）: 慕容家に仕える侍女。変装術に長けている。蕭峯を慕い、献身的に支えようとするが、悲劇的な運命を辿る。
阿紫（あし）: 丁春秋の弟子。毒を使うのを好み、残酷な性格。蕭峯に特別な感情を抱く。物語の中で重要な役割を果たす人物。
游坦之（ゆう たんし）: 聚賢荘の「游氏双雄」の息子。蕭峯を仇として狙う。阿紫に虐待されながらも、一途に想いを寄せる。

その他にも、段誉の父・段正淳（だん せいじゅん）や、その妻・刀白鳳（とう はくほう）、四大悪人と呼ばれる段延慶（だん えんけい）、葉二娘（よう じじょう）、南海鱷神（なんかいがくしん）、雲中鶴（うん ちゅうかく）、吐蕃の僧・鳩摩智（くまち）など、個性豊かなキャラクターが物語を彩ります。

物語の背景

本作の舞台は、宋代の中国大陸。漢民族の宋、契丹人の遼、党項（タングート）人の西夏が鼎立し、複雑な民族関係が描かれています。主人公たちも、それぞれ異なる民族の血を引いており、民族間の対立や葛藤が物語の重要な要素となっています。

また、物語の題名となっている「天龍八部」は、仏教において仏法を守護する八種の神々を指します。物語全体を通して、仏教的な思想や無常観が描かれており、単なる武侠小説に留まらない、深みのある作品となっています。

武功と絶技

『天龍八部』には、数多くの武功や絶技が登場します。

六脈神剣: 大理段氏に伝わる最強の武功。指先から剣気を放つ。
一陽指: 大理段氏の家伝の武功。指先に力を集中させる。
七十二絶技: 少林寺に伝わる数々の必殺技。
降龍十八掌: 丐幇の幇主に受け継がれる強力な掌法。
凌波微歩: 逍遥派の軽功。素早い移動を可能にする。
北冥神功: 相手の内力を吸収する武功。
化功大法: 相手の内力を消す武功。
生死符: 天山童姥が操る暗器。当てられると死よりも恐ろしい苦痛を味わう。

映像化作品

本作は、これまで何度も映画やテレビドラマ化されており、多くの人々に愛されています。最近では、ドニー・イェン主演の映画『シャクラ』（原題：天龍八部之喬峰傳）も話題となりました。

まとめ

『天龍八部』は、壮大なスケールと魅力的なキャラクター、そして複雑な人間関係が織りなす、金庸の傑作武侠小説です。民族問題や仏教的な思想といった深いテーマも内包しており、読み応えのある作品となっています。武侠小説ファンのみならず、多くの人にオススメしたい作品です。

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