太秦発声映画

太秦発声映画株式会社とは

太秦発声映画株式会社は、1933年（昭和8年）に設立され、1936年（昭和11年）に製作を中止した、短命ながらも日本映画史に重要な足跡を残した映画会社です。設立当初から先進的なトーキー技術を導入し、日活との提携を通じて数々のトーキー映画を制作しました。

設立の背景

1933年、大沢商会（J.Osawa Co., Ltd.）が京都・太秦に「J.O.スタヂオ」を建設しました。このスタジオは、大沢商会社長・大澤徳太郎の長男である大澤善夫が輸入した最新のトーキーシステムを備えていました。日活京都撮影所長を辞任した池永浩久を顧問に迎え、池永がJ.O.スタヂオ内に設立したのが、この「太秦発声映画」です。

トーキー映画への挑戦

設立第一作は、池永浩久が総指揮を執り、池田富保が監督、早川雪洲が主演を務めた『楠正成』でした。その後、1935年（昭和10年）にはマキノ正博がマキノトーキー製作所を設立し、トーキー映画の量産を開始しますが、それ以前から太秦発声映画は日活と提携し、多くのトーキー映画を制作していました。

しかし、当時の映画監督たちはトーキー演出に慣れることができず、斬新な演出で知られた古海卓二や志波西果もトーキー映画の製作で苦戦を強いられ、サイレント映画へと退行してしまいました。

才能ある人材の起用

1936年（昭和11年）には、トーキー脚本に秀でた脚本家グループ「梶原金八」（鳴滝組）のメンバーである山中貞雄を起用し、山中が監督した『河内山宗俊』は日活との提携で制作されました。また、山中の助監督であった萩原遼が、山中の原作を基に脚色し、高勢実乗を主演に迎えた『お茶づけ侍』で監督デビューを果たしました。

製作中止とその後

しかし、J.O（大沢商会）が東宝映画配給と配給提携を進めたことにより、太秦発声映画は1936年をもって製作を中止しました。最後の作品は辻吉朗が監督を務め、大城龍太郎と深水藤子が主演した『お嬢さん浪人』で、1937年（昭和12年）に日活の配給で公開されました。その後、J.O.スタヂオは4社合併により東宝映画となり、「東宝映画京都撮影所」として再編されました。

フィルモグラフィ

太秦発声映画が製作した主な作品は以下の通りです。

1933年
楠正成　監督：池田富保
決戦高田の馬場　監督：池田富保　※J.O提携
彼女のイット　監督：俵弦太郎
1934年
爆笑王キング万歳　監督：水島正雄
荒木又右衛門 天下の伊賀越　監督：勝見庸太郎
日本人なればこそ　監督：三枝源次郎
旅烏お妻やくざ　監督：古海卓二
1935年
小猿時雨 深川情話　監督：小石栄一
理想郷の禿頭　監督：古海卓二
紺屋高尾 監督：志波西果
なみだの母　監督：永富映次郎
髑髏飛脚 監督：志波西果
海国大日本　監督：阿部豊　※日活・共同映画・J.O提携
地雷火組　監督：志波西果　※日活提携
清水次郎長　監督：池田富保
さむらひ鴉　監督：池田富保　※日活提携
あばれ行燈　監督：渡辺邦男
追分三五郎　監督：辻吉朗　※日活提携
敵討三都錦絵　監督：児井英男・池田富保　※日活提携
1936年
新佐渡情話　監督：清瀬英次郎　※日活提携
石童丸　監督：辻吉朗
赤道越えて　監督：円谷英二
大久保彦左衛門 第一篇　監督：清瀬英次郎　※日活提携
新曲五郎正宗　監督：池田富保　※日活提携
大久保彦左衛門 第二篇　監督：児井英男　※日活提携
河内山宗俊　監督：山中貞雄　※日活提携
馬追ひ人生 上州篇　監督：池田富保
江戸囃男祭　監督：辻吉郎　※日活提携
満州義軍 花大人　監督：田中喜次　※J.O提携
お茶づけ侍　監督：萩原遼　※日活提携
弦月浮寝鳥　監督：辻吉朗　※日活提携
鼠小僧唄祭　監督：尾崎純　※日活提携
南紀州　撮影：木村角山、音楽：白木信義、編集：永富映次郎　※短篇
仇討禁止令　監督：益田晴夫　※日活提携
堀部安兵衛　監督：益田晴夫
1937年
あばれ獅子 後篇　監督：石橋清一
お嬢さん浪人　監督：辻吉朗

関連事項

日活：日活京都撮影所（池永浩久）
大沢商会：J.O.スタヂオ、P.C.L映画製作所、東宝映画配給、写真化学研究所 - 東宝映画（大沢善夫）

外部リンク

日本映画データベース
Internet Movie Database (英語)

太秦発声映画は、短期間の活動でしたが、その先進的な取り組みは日本映画史に大きな影響を与えました。この映画会社が製作した作品は、今もなお多くの映画ファンに愛され続けています。

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