奈良許知麻呂

奈良許知麻呂（ならのこちのまろ）について

奈良許知麻呂は、生没年不詳の奈良時代の人物で、大和国添上郡（現在の奈良市一帯）の農民でした。

出自

「許知」という姓は、朝鮮半島からの渡来氏族に由来すると考えられています。古代朝鮮語で「首長」を意味する言葉が語源であるとされています。新羅では「己知」が人名の後に付けられる称号として用いられていました。

『日本書紀』には、百済人の己知部（こちふ）が倭国に帰順し、添上郡の山村に住まわされたという記述があります。また、『新撰姓氏録』には、「己智」一族は秦の始皇帝の息子である胡亥を祖とすると記されており、「三林公」「長岡忌寸」「山村忌寸」「桜田連」も同族とされています。

さらに、『播磨国風土記』には、飾磨郡に「巨智の里」という地名があり、この地名の由来説話も存在します。これらの記録から、奈良許知麻呂の一族が、朝鮮半島から渡来し、各地に居住していたことが推測できます。

記録

『続日本紀』によると、麻呂は非常に孝行者であり、他人から恨みを受けることがありませんでした。継母から讒言を受け、父親の家から出入りを禁じられたにもかかわらず、決して恨むことなく、ますます孝養に励んだとされています。この孝行ぶりは元明天皇の耳にも届き、その徳を称えられ、終身にわたり租税が免除されるという恩恵を受けました。

当時の朝廷は、孝行を重視し、顕彰する政策を取っていました。文武天皇の詔には、曽祖父から玄孫に至るまで、代々孝行を尽くす一家があれば、その家族全員の賦役を免除し、家の門や里の入口に立て札を掲示して義家とする、という規定がありました。これは、賦役令17の「孝子順孫条」に基づくものです。

また、天平14年の優婆塞貢進解には、「大養徳国添上郡仲戸郷於美里戸主奈良許知伊加都」という人物が記録されており、この人物は麻呂の同族であると考えられています。

さらに、『続紀』には、「山村許智人足」「山村許智大足」という名前が記されており、これらも麻呂の同族である可能性が高いです。加えて、『続日本後紀』には、出羽国河辺郡の百姓である奈良許知豊継らに「大滝宿禰」の姓が与えられたという記述があり、その先祖は百済の人であるとされています。これらの記録から、奈良許知麻呂の一族が、広範囲に分布し、朝廷とも関係を持っていたことが伺えます。

まとめ

奈良許知麻呂は、渡来氏族の出自を持ちながらも、日本の地で孝行を尽くした人物です。彼の生涯は、当時の社会における孝の重要性を示すとともに、渡来人の歴史を語る上で貴重な資料となっています。彼の行動は、朝廷の賞賛を受け、租税免除という特別な恩恵につながりました。また、同族と思われる人々が各地で記録されており、その一族の広がりを示す証拠となっています。麻呂の物語は、奈良時代の社会や文化を理解する上で、重要な手がかりの一つであると言えるでしょう。

参考文献

『コンサイス日本人名辞典 改訂新版』p932（三省堂、1993年）
『日本書紀』(三)、岩波文庫、1994年
『日本書紀』全現代語訳（上）、講談社学術文庫、宇治谷孟：訳、1988年
『続日本紀』1・4　新日本古典文学大系12・15　岩波書店、1989年、1995年
『続日本紀』全現代語訳（上）・（中）・（下）、講談社学術文庫、宇治谷孟：訳、1992年 - 1995年
『続日本後紀』全現代語訳（下）、講談社学術文庫、森田悌：訳、2010年
『風土記』、武田祐吉：編、岩波文庫、1937年
『日本古代氏族事典』【新装版】佐伯有清：編、雄山閣、2015年

関連項目

大倭果安
四比信紗
賦役令
孝子

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