学問料

学問料（がくもんりょう）

学問料とは、平安時代に大学寮の紀伝道（文章道）の学生である文章生の中から選抜され、優秀な学生に対して支給された奨学金、現代でいう給付型の奨学金のようなものです。これは「給料（きゅうりょう）」とも呼ばれ、支給対象者は「給料学生（きゅうりょうがくせい）」と呼ばれていました。

起源と背景

学問料の起源は、『続日本紀』の延暦4年（785年）の記事に遡るとされています。そこには、故遠江守・菅原古人の子である清公・清綱ら4名に学問料が給付されたと記されています。しかし、この記事には、この給付が父・古人の侍読としての功績によるものであるとも書かれています。そのため、後世、紀伝道において主導的な立場となった菅原氏が、大学寮における自家の功績を顕彰するために、平安時代中期以降の学問料支給とこの史実を結び付けたという説もあります。

元々、大学寮には「勧学田（学料田）」と呼ばれる田地があり、そこからの貢租によって学生を寄宿させ、食事を給付していました。そのため、菅原清公兄弟の時代には、別途学問料の支給を必要とする事情は存在しなかったと考えられています。

しかし、勧学田の主要な部分を占めていた加賀国の旧大伴家持の没官領が、藤原種継暗殺事件関係者の名誉回復に伴い、当時の権力者であった伴善男の要求によって伴氏（旧大伴氏）に返還されることになりました。さらに、応天門の変によって伴善男が流罪となり、再度没官された当該地が、大学寮ではなく穀倉院に編入されたことから、大学寮は経営基盤を失い、新たに当該地を得た穀倉院との間で対立が生じました。加えて、藤原氏などの有力貴族が、自己の氏族に属する学生のために大学別曹を設置して生活を支援したことから、大学寮の支援を受けた有力氏族の子弟と、支援を失った他氏の学生との間に「格差」が生じるようになりました。三善清行が『意見十二箇条』で勧学田の復興を訴えたのは、このような状況下でした。

穀倉院学問料

穀倉院は、唐の常平倉をモデルとして大同年間に設置されたとされる社会福祉施設の体裁をとっていましたが、実際には、早い時期から律令制の弛緩によって不足する内廷費用を捻出するための「裏金」作りの役割を担っていました。そのため、穀倉院領となった旧勧学田を大学寮に返還することは、財政政策上、朝廷にとって都合が悪く、その代償として、穀倉院から一部学生への学問料支給を行うことで、大学寮側からの不満を緩和しようとしたと考えられています。

当初は燈燭料・月料とも呼ばれ、元慶4年（880年）に小野美材が受けたのが最古であるとも、承平2年（932年）に橘敏通、その3年後に菅原文時が受けたのが最古であるとも言われています。受給者は給料学生と呼ばれ、定員2名で、文章生の中から自薦・他薦によって推挙され、多くの場合、希望者が多数であったため、学問料試（給料試）と呼ばれる詩賦などによる選抜を経て選ばれました。当然のことながら、文章生の多くが給料学生になることを望んだため、結果的にもっとも優秀な学生が選ばれることが多く、給料学生がそのまま優先的に文章得業生に選抜され、大学寮の教官や式部省などの官人への登竜門となりました。しかし、後に紀伝道の家学化が進むと、紀伝道の教官が世襲を確かなものとするために自分の子弟を給料学生に推挙するようになり、試験を行う場合でも譜代の家以外からの受験が困難になっていきました。

勧学院学問料

一方、大学別曹においても、独自に学問料を授ける例が現れるようになりました。大学別曹は元々、一族の学生に対する学問及びその生活の支援に重きを置いていたことから、これを奨励する意図から学問料が支給されました。大学別曹における学問料の初例は、和気広世が設置した弘文院によるものとされていますが、弘文院を大学別曹ではなく一種の図書館であったとする説もあり、和気広世個人が和気氏の氏上としての立場から支給した可能性もあります。

特に藤原氏の大学別曹である勧学院の学問料は著名であり、藤原氏の学生の中から別途に学問料を受ける給料学生が選抜されました。勧学院は藤氏長者が長となり、しかも大抵の場合は摂関あるいは一上との兼務であったため、大学寮側は表向きは拒絶し続けていたものの、実際には勧学院の給料学生は藤原氏の政治的権力を背景として、大学寮で選抜した穀倉院の給料学生と同格と見なされるようになりました。このため、藤原氏出身者はより簡単な勧学院の学問料を志望し、給料学生出身者と同じ社会的待遇を受けるようになったことから、次第に他家の学生を圧迫して、藤原氏による官界支配を強化する原動力となりました。

しかし、平安時代末期になると、大学寮の衰退、穀倉院自体の機能低下に伴って、試験のみならず、学問料自体も名目化することとなりました。

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