安藤東野

安藤東野（あんどう とうや）

安藤東野（1683年 - 1719年）は、江戸時代中期の儒学者で、荻生徂徠の初期門人として知られています。本名は煥図（かんず）、字は東壁（とうへき）、通称は仁右衛門。晩年には商丘丈人（しょうきゅうじょうじん）とも号しました。王世貞を模範とした詩文に優れましたが、30代で病没しました。

生涯

下野国那須郡黒羽城下（現在の栃木県大田原市黒羽）で、黒羽藩の藩医である大沼玄佐の次男として生まれました。父は那須資隆の六男を祖とする滝田氏の出身です。幼少の頃から父に学問を学び、医業を嫌い儒学の道に進みました。

1695年に父が亡くなり孤児となったため、江戸に出て安藤宗純の養子となり、下総関宿藩主の牧野成貞に学問を、中野撝謙に文章を学びました。1696年には、江戸に来た太宰春台と知り合います。また、中野撝謙や石原鼎庵から中国語音や書道も習得しました。

1703年、漢文訓読に頼らない読解を目指す荻生徂徠は、東野の中国語能力に注目し、中野撝謙に頼んで東野を弟子にしてもらいました。東野も徂徠の古文辞学に魅力を感じ、門下に入ります。1706年、牧野氏が三河吉田藩に転封となり、中野撝謙は京都へ去りました。

1704年頃、甲斐甲府藩主の柳沢吉保に出仕し、徳川綱吉にも進講しました。

1708年、京都にいた太宰春台に岡島冠山を通して江戸に戻るよう促す書簡を送りましたが、大火の影響で届かず、1710年に再び書簡を送りました。翌年、春台はこれに応じて江戸に戻り、徂徠の門下となりました。また、伊藤東涯の古義堂への鞍替えを考えていた山県周南を説得して徂徠門下に留めるなど、徂徠の学派の勢力維持、拡大に貢献しました。

1709年、吐血し、柳沢邸を去って神田橋に移り、その後は養父の元で療養しました。1710年、柳沢吉保に辞職を願い出ましたが、その後も3年間禄が支払われました。

その後、河内西代藩主の本多忠統の援助により白山に草堂を結びましたが、火事で焼け出され、西代藩邸に身を寄せました。1719年4月13日に死去。墓所は台東区橋場の福寿院にあります。

没後30年経って『東野遺稿』が刊行されました。

『東野遺稿』

東野の死後、遺稿の出版が計画されましたが、東野には子供がおらず、遺産は親戚の手に渡り安藤家は困窮したため、荻生徂徠が刊行活動を主導することになりました。しかし、東野の詩文が散逸していたため、遺稿の収集作業は難航しました。1728年に徂徠は志半ばで死去してしまいます。その後、遺稿は弟の奎州の元に渡り、次いで本多忠統の手に渡りましたが、本多忠統は自身の著作の刊行を優先し、東野の遺稿を放置したため、太宰春台が遺稿を取り戻して刊行を目指しました。刊行が成ったのは太宰春台の死後、東野の死から30年後の1749年5月でした。最終的な編集者は石川大凡、山井崑崙、根本武夷です。

1935年に藤村義朗により再刊され、1989年には『詩集日本漢詩』第14巻に収録されました。黒羽田町の個人蔵刊本が1993年5月27日に黒羽町指定有形文化財となりました。

内容

上巻
楽府9首
擬漢鐃歌18首
五言古詩2首
七言古詩4首
五言律詩24首
五言排律3首
七言律詩24首
七言排律1首
五言絶句4首
七言絶句54首
詩余3首
聯2首
中巻
序8首
野撝謙（中野撝謙）の京に往くを送る序
蘐園随筆序
香洲律師が嶼に遊ぶを送る序
徂来先生甲陽（甲府）に使するを送る序
徂来先生の五十を賀し奉る序
琴鶴丹侯（黒田直邦）五十寿序
唐話纂要序
大潮上人を送る序
記6首
中川に遊ぶ記
遊湘（湘南）紀事4首
弘明（弘明寺）第一
金沢を歴て鎌倉に抵る第二
鎌倉諸遊第三
画島（江ノ島）天女洞第四
剛庵記
下巻
論3首
平相国（平清盛）論
平内府（平宗盛）論
管仲論
説1首
必観説
啓1首
朝鮮国李東郭学士に呈する啓
* 書87首

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