小林暢

小林暢（こばやしとおる、1879年 10月19日 - 1935年 1月2日）は、明治後期から昭和戦前期にかけての日本の実業家、政治家です。長野県更級郡信田村（現在の長野市）出身で、地域経済の発展に大きく貢献しました。実業界では、長野農工銀行や八十二銀行（前身の六十三銀行を含む）の頭取を長年務め、その手腕を発揮しました。また、政界においては貴族院多額納税者議員として、国政にも関与しました。

生涯

明治時代

1879年（明治12年）10月19日、小林暢は長野県更級郡信田村で、素封家である小林元辰の長男として誕生しました。父の元辰は、県内有数の大地主として知られていました。1887年（明治20年）に父が亡くなると、家督を継ぎました。小学校卒業後は、私塾で学びました。

1903年（明治36年）5月、上高井郡須坂町（現在の須坂市）に設立された信濃電気の監査役に就任し、実業界でのキャリアをスタートさせました。同年7月には、六十三銀行の取締役に選任され、金融業界に進出しました。六十三銀行は、埴科郡松代町（現在の長野市）の第六十三国立銀行と更級郡稲荷山町（現在の千曲市）の稲荷山銀行が合併してできた銀行です。当時の頭取は飯島正治でした。

1904年（明治37年）1月には、長野新聞の取締役に就任しました。これは、小坂善之助が「信濃毎日[[新聞]]」の経営を開始したことに対抗して設立されたものでした。同年3月には信田郵便局長にも就任し、1905年（明治38年）11月には日本赤十字社評議員となりました。1906年（明治39年）4月には、信田村の村会議員に当選し、地域社会にも貢献しました。1907年（明治40年）7月には長野商業銀行の取締役に就任し、翌1908年（明治41年）1月には頭取に昇格しました。長野商業銀行は、長野市を中心に営業していた銀行でした。1908年2月には信田郵便局長を辞任しました。

1910年（明治43年）1月、長野農工銀行の取締役に就任し、同年11月19日には頭取に昇格しました。長野農工銀行は、長野県における農工銀行で、小出八郎右衛門が初代頭取を務めていました。小林が頭取に就任してからは、貸出手続きの簡略化など、営業方針の改善を積極的に進め、特殊銀行としての機能を強化しました。一方で、長野商業銀行の頭取は辞任し、常務の西沢喜太郎が新頭取となりました。その後も取締役には留任しましたが、長野商業銀行は1914年（大正3年）5月に六十三銀行に合併されました。また、1910年4月には信濃電気で監査役から取締役に転じました。

大正・昭和時代

1920年（大正9年）5月、小林は立憲政友会から第14回衆議院議員総選挙に立候補しましたが、憲政会の春日俊文に敗れ落選しました。しかし、1925年（大正14年）9月には、長野県の多額納税者による互選で貴族院多額納税者議員に当選し、同月29日に貴族院議員に就任しました。貴族院では研究会に所属し、1932年（昭和7年）9月まで1期7年在任しました。後任には、長野電灯社長の小坂順造を推薦しました。

金融界では、1921年（大正10年）7月26日、1903年から取締役を務めていた六十三銀行で、飯島正治の引退に伴い、第3代頭取に就任しました。一方で、長野農工銀行頭取からは退き、西沢喜太郎と交代しました。長野農工銀行では、頭取退任後も、1930年（昭和5年）12月に日本勧業銀行に吸収されるまで取締役を務めました。また、1921年11月には、長野県における貯蓄銀行として長野貯蓄銀行が設立されると、監査役に就任しました（初代頭取は西沢喜太郎）。

1929年（昭和4年）10月に世界恐慌が発生すると、生糸価格の暴落と昭和恐慌による国内不況が重なり、蚕糸業に依存していた長野県の経済は急速に冷え込みました。その影響で、1930年11月には上田市に本店を置く信濃銀行が預金支払い猶予を発表し、実質的に破綻しました。こうした金融不安を背景に、県内に残る有力銀行であった六十三銀行と第十九銀行を合併させようという機運が高まり、1931年（昭和6年）6月に両行の合併による新銀行設立が決まりました。そして、同年8月1日に八十二銀行が発足し、小林が初代頭取に就任しました。副頭取には、第十九銀行常務の黒沢利重が入り、第十九銀行の木内栄司と六十三銀行の飯島正一が常務取締役に就任しました。

金融界以外では、1921年（大正10年）4月から1928年（昭和3年）3月にかけて帝国火災保険（日本火災海上保険の前身）の取締役に在任しました。また、1926年（大正15年）9月には、信濃電気傍系の石灰窒素メーカーである信越窒素肥料（現在の信越化学工業）の発足に合わせて取締役に就任しました。しかし、1930年4月には、信濃電気の取締役を退任し、同年6月には信越窒素肥料の取締役も辞任しました。長野新聞の取締役も、1932年1月に退任しました。一方で、1930年1月には六十三銀行傘下の倉庫会社である昭和倉庫の社長に就任し、翌1931年3月には帝国火災保険取締役に再任しました。

1934年（昭和9年）12月、八十二銀行の業務で上京した際に感冒を患い、日本赤十字病院に入院しました。入院中に狭心症を発症し、1935年（昭和10年）1月2日に死去しました。享年57歳。八十二銀行では、前日に常務の木内栄司も死去しており、頭取と常務が相次いで亡くなるという事態となりました。小林は、死去時まで八十二銀行頭取のほか、長野貯蓄銀行監査役、帝国火災保険取締役、昭和倉庫社長などを兼任していました。

親族

妻：しん（小林営成の姉）
二女：田鶴子（間運吉妻）

栄典

1935年 1月2日 - 従六位（金融業への貢献による追贈）

参考文献

長田八面楼『信山名士の面影』第一巻、評論新聞社、1933年。
貴族院事務局『貴族院要覧（乙）』大正14年12月増訂、貴族院事務局、1925年。
衆議院事務局『第14回衆議院議員総選挙一覧』衆議院事務局、1924年。
衆議院・参議院編『議会制度百年史貴族院・参議院議員名鑑』大蔵省印刷局、1990年。
信越化学工業広報部編『信越化学工業80年史』信越化学工業、2009年。
人事興信所編『人事興信録』第4版、人事興信所、1915年。
杉本正幸『全国農工銀行発達史』全国農工銀行発達史発行所、1927年。
田子昭治編『須坂に電燈が灯されて一世紀信濃電気（株）創立百周年記念誌』信濃電気（株）創立百周年記念事業実行委員会、2003年。
長野県編『長野県史』通史編第7巻近代1、長野県史刊行会、1988年。
長野県編『長野県史』近代史料編第3巻1（政治・行政民権・選挙）、長野県史刊行会、1983年。
長野県編『長野県史』近代史料編第6巻（流通経済商業・金融）、長野県史刊行会、1990年。
長野市誌編さん委員会編『長野市誌』第五巻歴史編近代一、長野市、1997年。
日本火災海上保険企画部編『日本火災海上保険株式会社70年史』日本火災海上保険、1964年。
* 八十二銀行編『八十二銀行史』八十二銀行、1968年。

もう一度検索