惟康親王

惟康親王：激動の時代を生きた鎌倉幕府第七代将軍

惟康親王（これやすしんのう）は、鎌倉幕府の第七代征夷大将軍として、わずか3歳でその地位に就きました。在任期間は1266年から1289年までと比較的長く、その生涯は鎌倉幕府の政治情勢と深く関わっています。

生涯

惟康親王は、第六代将軍である宗尊親王の嫡男として、相模国鎌倉で生まれました。文永3年（1266年）7月、父である宗尊親王が廃され京都へ送還されたことに伴い、わずか3歳で征夷大将軍に就任しました。当初は親王宣下を受けず、惟康王と呼ばれていましたが、文永7年（1270年）12月に臣籍降下し、源姓を賜与され源惟康と名乗るようになります。今日では「惟康親王」の名で知られていますが、将軍在職期間の大半は源惟康、つまり源氏将軍として過ごしました。

源氏将軍としての惟康

細川重男氏の説によれば、惟康が源氏将軍であった背景には、当時の蒙古襲来（元寇）という未曽有の事態に対する、執権・北条時宗の政策があったとされています。時宗は、過去の治承・寿永の乱や承久の乱を先例とし、第七代将軍・惟康を初代将軍・源頼朝になぞらえ、自身を高祖父の義時になぞらえることで、御家人ら武士階級の力を結集し、元に勝利することを祈願したのです。

弘安2年（1279年）の正二位への昇叙、弘安10年（1287年）の右近衛大将への任官も、いずれも頼朝を意識したものであり、北条氏がその後見として幕政を主導することによって、同氏による得宗専制の正統性を支える論理としても機能していました。特に源氏賜姓と正二位昇叙は、いずれも時宗政権下で行われており、時宗が源氏将軍の復活を強く望んでいたことが窺えます。

皇室の内部事情

一方、曽我部愛氏の指摘によれば、当時の皇室の内部事情も背景にあったとされています。父である宗尊親王は、後深草・亀山両天皇よりは下位であるものの、将軍在任中も皇位継承権を持ち続けた後嵯峨上皇の皇統（王家）の主要な成員であり、彼を京都に送還した鎌倉幕府も退任後も一定の配慮をし続けました。しかし、文永5年（1268年）に後深草天皇の皇子を差し置いて亀山天皇の皇子である世仁親王（後の後宇多天皇）が立太子されたことで、宗尊親王の子孫が皇位を継ぐ可能性が失われたことに対応した措置であったというのです。

将軍としての権威

建治3年（1277年）7月に惟康の御所が新調された際、惟康の入御を見計らって時宗自らが庭に下りて着座し惟康を迎えたという記録が残っています。これは、権力を掌中に収めていた時宗による惟康への礼遇であり、将軍として一定の権威が維持されていたことを示すものと言えるでしょう。

将軍解任とその後

弘安7年（1284年）に時宗が死去した後も、安達泰盛や平頼綱が時宗の遺志を受け継ぎましたが、弘安8年（1285年）に泰盛が頼綱に滅ぼされた霜月騒動の際には、将軍御所にも火の手がおよび全焼しています。その後、頼綱執政下の弘安10年（1287年）に惟康は右近衛大将に任じられますが、わずか3か月後に辞任し、幕府の要請で皇籍に復帰して後宇多天皇より親王宣下がなされました。

26歳となった正応2年（1289年）9月14日には将軍職を解任され京に送還され、同年12月6日に出家しました。帰洛後の動向については晩年に至るまでほとんど不明ですが、永仁3年（1295年）には惟康親王の娘の中御所が久明親王の正室に迎えられています。

嘉暦元年（1326年）10月30日に薨去。享年63。鎌倉幕府の歴代征夷大将軍の中では最も長命でした。

まとめ

惟康親王は、鎌倉幕府の第七代将軍として、幼くしてその地位に就き、激動の時代を生きました。源氏将軍としての側面や、当時の政治情勢との関わりなど、様々な角度から彼の生涯を考察することで、鎌倉幕府の歴史をより深く理解することができます。

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