扇形庫

扇形庫とは

扇形庫（せんけいこ）は、鉄道の機関車を格納するために、転車台を中心として扇状に配置された建物を指します。英語では「roundhouse」と呼ばれます。この独特な形状は、特に蒸気機関車が主流だった時代に、機関車の向きを効率的に変える必要性から生まれました。

蒸気機関車は、構造上、前後に運転台がありましたが、常に同じ方向を向いて走行する必要がありました。そのため、終着駅や機関区では、機関車の向きを変えるための転車台が不可欠でした。扇形庫は、この転車台を中心として、扇状に広がった複数の車両格納スペースを持つことで、機関車の入出庫と方向転換をスムーズに行えるように設計されました。また、扇形庫を採用することで、線路の分岐器の数を減らし、敷地面積を有効活用できるというメリットがありました。

扇形庫の歴史と変遷

蒸気機関車が活躍していた時代、扇形庫は多くの機関区で見られました。転車台を囲むように配置された扇形庫は、まさに機関車運用の心臓部であり、その姿は鉄道の歴史を象徴するものでした。しかし、時代が進み、電気機関車やディーゼル機関車が普及すると、機関車の前後を転回する必要性が薄れてきました。これらの機関車は、どちらの方向にも運転できるため、転車台や扇形庫の必要性が低下したのです。そのため、多くの扇形庫は徐々に姿を消していきました。

現在では、雪かき車など一部の特殊車両を除いて、転車台と扇形庫はほとんど使われなくなっています。しかし、その独特の構造と歴史的価値から、一部の扇形庫は保存され、鉄道ファンや歴史愛好家にとって貴重な遺産となっています。

現存する主な扇形庫

幸いなことに、世界各地には今もなお現存する扇形庫がいくつかあります。以下に、主な扇形庫の例を挙げます。

日本

荒屋新町駅（東日本旅客鉄道株式会社）
新津運輸区（東日本旅客鉄道株式会社）
直江津駅（えちごトキめき鉄道株式会社）
天竜二俣駅扇形庫（天竜浜名湖鉄道株式会社）
京都鉄道博物館（西日本旅客鉄道株式会社梅小路運転区）
津山まなびの鉄道館（津山扇形機関車庫）（西日本旅客鉄道株式会社津山運転区・津山駅隣接）
後藤総合車両所運用検修センター（西日本旅客鉄道株式会社米子駅隣接）
宇和島運転区（四国旅客鉄道株式会社）
旧豊後森機関庫（九州旅客鉄道株式会社）

アメリカ合衆国

ボルチモア・アンド・オハイオ鉄道博物館
スチームタウン国定史跡

台湾

彰化扇形庫

ポーランド

* ピールスカ・オクロングラク機関庫協会

これらの扇形庫は、それぞれが異なる歴史と特徴を持っています。中には博物館として公開されているものもあり、当時の鉄道文化を今に伝えています。これらの施設を訪れることで、鉄道の歴史と技術、そしてその魅力をより深く理解することができるでしょう。

扇形庫は、単なる車両の格納庫ではなく、鉄道の歴史と技術を伝える貴重な遺産です。その独特の形状は、蒸気機関車時代の鉄道運行を支えた証であり、今日の鉄道技術の発展にも繋がる重要な存在です。

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