手配師

手配師とは

「手配師（てはいし）」は、かつて「請負師（うけおいし）」とも称され、人材を斡旋することを生業とする人々に対する日本固有の呼び名の一つです。この呼称は、その活動が合法か否かを問わず、仲介によって手数料を得て人材を周旋する者全般を指して用いられてきました。

元来、「手配師」という言葉は、単に物事や人員を準備・整頓する人を指す広い意味合いを持っていました。労務の斡旋業者だけでなく、特定の目標達成のために人や事柄をアレンジする者に対しても、「勝ち馬手配師」や「IT手配師」といった派生的な用例が見られます。

現代においては、労働者派遣法や職業安定法といった専門的な法規制が整備・一般化されています。これにより、法令に則って事業を行う組織は「労働者派遣事業者」や「人材紹介業者（有料職業紹介事業者）」と明確に呼ばれるようになりました。その結果、「手配師」という言葉は、主に許可なく違法な手段で人材を仲介する者や、法律の枠外、あるいは伝統的な特定の業態で斡旋業を営む者に対して限定的に用いられる傾向にあります。

また、「請負師」という呼称は、さらに狭い意味合いで使われることがあります。例えば、建築業界など一部の分野では、顧客から特定の工事や作業を一式で受注し、自らは直接労働や作業に携わることなく、必要な職人や材料を調達・手配し、それに要した経費や手間賃に利益を上乗せして収益を得る者を指す場合もあります。

経済活動の多様化や規模拡大は、地域や環境による貧富の差を生じさせましたが、これを是正しようとする動きも自然な流れとして発生しました。人材斡旋業は、雇用促進や生活困窮者の救済といったポジティブな側面を持つ一方で、搾取や人身売買といった負の側面をも同時に持ち合わせていました。

港湾労働者である沖仲仕を父に持つ作家、火野葦平の作品『青春の岐路』には、当時の請負師や仲仕を取り巻く環境が描かれています。そこでは、「請負師も、小頭も、仲仕も、ほとんどが、酒とバクチと女と喧嘩とによって、仁義や任侠を売りものにする一種のヤクザだ。大部分が無知で、低劣で、その日暮らしといってよかった。普通に考えられる工場などの労働者とはまるでちがっている」と記述されており、彼らが当時の社会の底辺で独自の文化や生活様式を持っていた様子が伺えます。

歴史的背景と変遷

古来より、地域社会における無償の労働提供や相互扶助の仕組みとして「結い（ゆい）」がありました。しかし、社会構造が複雑化し、経済活動が活発になるにつれて、物々交換から金銭を用いた労働対価の授受が一般的となりました。このような変化とともに、天下普請に代表される大規模な公共事業が行われるようになります。こうした事業は、特定の地域に限定されない不特定多数の人々が一時的に関わる社会活動であり、狭い地域内の結いのような人間関係に基づく労働提供とは異なりました。ここに、外部から必要な人材を集め、手配するという業態が形成される素地が生まれました。

戦国時代に見られた「寄親寄子（よりおやよりこ）」の関係は、武将と地方豪族の間で軍事組織を編成する際に利用された主従関係です。これは、徒手空拳の者が拠り所を求め、有力者に庇護される一方で、頼られた側は組織を構築し基盤を固めるという互助的な側面も持ち合わせていました。この関係性は江戸時代になると庶民の間にも広がり、特に都市部で仕事や住居を求める人々が、身元保証人となる有力者（寄親）を頼り、住まい（人宿）や仕事の斡旋を受けるようになりました。このような、口入屋（人材斡旋業者）と求職者の関係も「寄親寄子」と称されることがありました。さらに、徒弟制度における師弟関係である「親方子方」や、多様な職業の互助組織における「親分子分」といった主従関係においても、仕事の手配は慣習的に行われており、親方や親分の中から人材を手配することを専門とする者も現れるようになりました。

江戸時代に入り、手配師やその関連組織が増加します。この背景には、全国的な大名の参勤交代や城下町における多くの武家屋敷建設、そして幕府による天下普請（社会基盤整備）が活発化し、公共事業が生活困窮者の救済策としても機能したことがあります。また、商業の発展に伴う港湾荷役の増大や、地方から都市部への大量の人口流入（特に家督を継げない次男以降や仕事を求める男性）も、手配師の需要を高める要因となりました。

参勤交代の大名行列に必要な人員や、参勤交代時の武家屋敷で必要とされる奉公人の全てをお抱えの使用人だけで賄うことは困難でした。そのため、口入屋を通じて人材が募集されましたが、当時の口入屋は高賃金かつ下士に準じる身分的なステータスを得られることから、町人や庶民からの応募が殺到しました。

町奉行の管轄する町では、頻繁な火事や人口増加により家屋不足が慢性化し、建築（普請）が盛んに行われました。これに伴い、町鳶や町大工といった職業の権威が増していきます。中でも、比較的自由な時間があった鳶職（雨天時などは本業や町火消しの仕事が少なく暇になりやすかった）は、祭りの顔役として培った外交的な能力も手伝って、普請の営業活動を行うようになり、これが手配師と呼ばれるようになりました。

多くの都市は扇状地に形成され、河川の氾濫による治水の必要性、河川や港湾における荷役施設の不足、人口増加に伴う土地不足といった問題に悩まされていました。これらの課題を一挙に解決する手段として、埋め立て（河川の護岸を含む）が大々的に行われます。この巨大な事業がもたらした経済効果と、それに伴う人手不足が、沖仲仕や野帳場（屋外作業場）における手配師の隆盛を後押ししたと言えます。また、埋め立て地はそのままでは利用できず、地盤が沈下するのを待つ必要がありました。しかし幕府は単に待つだけでなく、桜を植えたり、近隣での花火打ち上げを奨励したり、遊郭を建設したりすることで、人の流れを作り出し、その土地の締め固めを意図的に促しました。さらに、男性の比率が高い不安定な都市構造の治安維持を図るためにも遊郭の設置は有効と考えられ、その数は増加の一途を辿りました。これにより多くの口入屋や置屋が生まれ、これが人買いや女衒といった、人身売買に関わる手配師が日本全国に暗躍するきっかけとなりました。

明治時代に入ると、1872年10月に東京府が「雇用請宿規則」を公布し、他の府県にも類似の規則が波及しました。その後、明治中期には公益を目的とする職業紹介業が誕生し、大正初期には公立の職業紹介所が設立されていきます。1921年には職業紹介法が制定され、1925年には営利目的の職業紹介事業を取り締まる規則も設けられました。

近代に入っても、悲惨な労働環境を描いた『女工哀史』や『蟹工船』といった文学作品、あるいは債務返済のための遠洋漁業従事など、手配師や人買い（人身売買）の存在を匂わせる描写が見られます。歴史的な背景として、かつて日本の統治地域から継続的に人が流入した際、生活基盤がないことや言葉の壁といった困難から、自然と同郷の先行移住者を頼るケースが多く、その中で仕事の斡旋を専門に行う者も多数存在しました。

多様な分類

手配師という存在は、その起源や形態、扱う人材の種類によって多様に分類できます。その根源には、人買いのように人身売買の側面を持つ場合もあり、その一部は形を変えて現代社会にも存続しています。

社会制度の側面から見ると、人の集団や「組」の発生と手配師は深く関連しています。

寄親寄子: 前述の通り、互助関係や身元保証、仕事斡旋を含む主従関係が手配の素地となりました。
親方子方: 徒弟制度や兄弟弟子といった師弟・同門関係も含まれます。職人が独立する際（暖簾分けなど）には、親方や兄弟子から仕事の斡旋を受けることが慣例でした。職人の中には営業が苦手な者も多く、また「飼い殺し」のような終身徒弟制度が存在したことも、手配師が発生する背景となり得る要因を含んでいます。
親分子分: 兄弟分を含むこの関係は、社会的に孤立しがちな人々や、保障のない職種、社会的な評価が低いとされる職（特に下働きや重労働）に携わる人々が、現代の労働組合や互助会のような「組」を形成した中に見られます。その中で気骨あるリーダーが生まれ、他の構成員との間に親分子分という主従関係が築かれ、これもまた手配する側とされる側という社会構造を生み出す要因となりました。
先取り: 親方などの指示を受け、労務者を集める役割を担う者を指しました。

斡旋対象となる職種や人々の事情による分類も存在します。

人入れ業: 職業全般における人材斡旋を指し、景気や季節によって需要が変動するのは現代の求人状況と同様です。有名な例では、元総理大臣小泉純一郎氏の祖父である小泉又次郎氏が政治家になる前に人入れ業を営んでいました。
口入屋: 主に武家奉公人や、非公式の遊興地（岡場所）における人材斡旋を行いました。
人夫出し: 「人足出し」とも呼ばれ、土木作業員（土手人足）や馬方、荷方といった単純労働や重労働に従事する労働者を斡旋する者を指しました。
顔役: ある地域において社会的な影響力や権威を持つ職業集団のリーダーを指し、港湾荷役における沖仲仕の頭や、建設業のとび職の頭などが別名としてこう呼ばれました。広域暴力団として知られる山口組の前身も沖仲仕の組織でした。
置屋: 遊廓や花街において、酒席や遊興の相手となる女性を斡旋する場所、またはその業者を指しました。
人買: 借金の担保などとして、老若男女問わず強制的に労働を斡旋する者、すなわち人身売買を行う者を指します。
女衒（ぜげん）: 主に上記の置屋に対し、借金の形などで雇用される女性を斡旋する者を指しました。
その他: 自らが仕事を請け負いながら、その実行を他の者に委託・手配することを専業とする者も存在しました。これは、徒弟制度からの独立支援、営業力の差による役割分担、あるいは仏像や絵、家屋、祭礼の山車・神輿、和箪笥といった複数の専門職が関わる物品製作の受注を手配する例などが挙げられます。

現代の法規制と問題点

現在の日本では、労働者派遣法が整備されていますが、建設現場、港湾労働、運送荷役といった業務については、この法律による労働者派遣の対象外とされています。そのため、これらの業務における無許可の人材斡旋や労務手配師の活動は違法行為となります。

労務手配師は、日雇い労働者や生活困窮者が多く集まる場所、例えば公共職業安定所周辺の「寄せ場」（山谷、あいりん地区、寿町など）に出没します。彼らは、暴力団やそれに類する反社会的勢力、あるいは似非右翼などを名乗る組織に所属している場合や、単に人づてや路上で困窮者に声をかけ、直接あるいは自前の宿泊施設（飯場など）に住まわせた上で、建設現場での土工や港湾、市場での荷役といった日雇い労働を勧め、手数料を徴収します。近年、ネットカフェ難民のような若年層の潜在的困窮者が増加した影響で、寄せ場だけでなく、繁華街など人が多く集まる場所でも一般通行人に声をかけるケースが見られるようになっています。

風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律（風営法）に関連する分野でも、手配師と呼ばれる存在がいます。特定のイベントや性風俗関連の映像・写真制作、あるいは酒席で女性が必要な場合や、風営法に基づく料理店（ホステスが在籍する店）などに対し、名目上は芸能事務所（プロダクション）を介して人材を斡旋する形態が見られます。これらの中には違法性を帯びたものや、人身売買、売春といった側面を伴うものがあるため、業界内で手配師と称されることがあります。

建設業法に関連して、「リフォーム詐欺師」と呼ばれる悪質な業者が手配師と揶揄される場合があります。これは、訪問販売法上のリフォーム業者などで、建設業の許可を持たなかったり、建築に関する十分な知識がないにも関わらず、様々な業者を個別に手配し、適切な現場管理を行えない者を指します。また、共同住宅の管理会社の中には、元々清掃業などから発展した経緯を持つものがあり、全てではありませんが、名義貸しや実務経験のない有資格者（建築士、施工管理技士など）を名目的に置くことで建設業の許可を得て、マンションなどの修繕や改修工事を受注するケースがあります。こうした会社が実際には建築知識を持つ者がいないため、下請け業者に丸投げし、その下請け業者の技術力を適切に判断できず、結果として不良施工が発生する場合があります。このような企業体質も、悪い意味で手配師と見なされることがあります。

社会問題としての手配師

現行の労働者派遣法において、建設、港湾、流通の3分野における人材派遣は違法行為とされています。しかし、労働者派遣法が制定される以前は、職業安定法によりほとんどの業種で人材派遣自体が原則禁止されていたため、手配師による活動は社会的に忌み嫌われる性質のものでした。このような背景から、手配師の業態には暴力団をはじめとする反社会的勢力が介入し、公権力による規制や監視を妨害することが少なくありませんでした。その結果、斡旋される労働者の労働環境を適正に保つことや、中間搾取を排除すること、さらにはきめ細やかな待遇を通じて厚生水準を維持・確保することが非常に困難でした。特に、性風俗業界の一部のような非合法な業態においては、こうした手配師による人材調達への依存が常態化する傾向が顕著に見られました。

山谷という地域の日雇労働者を題材としたドキュメンタリー映画『山谷─やられたらやりかえせ』（読みは「やま」）は、こうした手配師が介在する労働現場の悲惨な状況や、それに抵抗する人々の姿を描き、当時の社会問題を浮き彫りにした作品です。

手配師という存在は、歴史的に見ても現代社会においても、労働市場の歪みや社会の構造的な問題と深く結びついており、単なる職業斡旋という枠を超えた複雑な様相を持っています。

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