日本の銀行建築

日本の銀行建築：歴史と建築家たち

日本の銀行建築は、明治初期の商業銀行設立から始まり、西洋の建築様式を取り入れながら独自の発展を遂げてきました。その歴史は、日本の経済発展と深く結びついており、各時代の建築様式を反映した貴重な遺産となっています。

草創期：木骨石造の銀行建築

1871年、三井財閥の大番頭であった三野村利左衛門は、商業銀行開設のため兜町に社屋建設を決定しました。清水組に依頼して建設された「三井組ハウス」は、1872年に完成。木骨石造2階建てで、天守を思わせる塔屋と千鳥破風の装飾が特徴的な、日本初の銀行建築でした。翌年には第一国立銀行に譲渡され、その後の国立銀行の多くが清水組によって施工されました。

西洋建築様式の導入

1900年代に入ると、ロンドンのイングランド銀行本店の影響を受け、ギリシャ風神殿造りが日本の銀行建築にも取り入れられました。ドーリア式、イオニア式、コリント式といった様々な様式が、銀行の個性や威厳を表現するために用いられました。例えば、第一銀行や安田銀行（現在のみずほ銀行）にはドーリア式、三菱銀行（現 三菱UFJ銀行）や日本勧業銀行（現 みずほ銀行）にはイオニア式、三和銀行（現 三菱UFJ銀行）や地方銀行にはコリント式が好んで採用されました。

戦時下の建築規制と戦後の変遷

1938年、戦時下となり銀行建築が禁止されました。戦前最後の銀行建築となったのは、長野宇平治の遺作である日本銀行松江支店です。ギリシャ風のその建物は現存し、「カラコロ工房」として工芸館として親しまれています。戦後は、1980年代以降に、三菱銀行本店ビルや横浜銀行本店ビルなど、100mを超える超高層建築物が銀行の本店として建設されるようになりました。同時に、歴史的建築物の保存も重要視されるようになり、博物館等への転用やファサード保存などの取り組みも行われています。

銀行建築を彩った建築家たち

日本の銀行建築は、多くの優れた建築家たちの手によって彩られてきました。彼らの創造性と技術が、今もなお残る美しい銀行建築を生み出したのです。

辰野金吾

日本銀行本店を設計した辰野金吾は、赤レンガを用いた建物を得意とし、日本銀行大阪・京都・小樽の支店や、第二十三国立銀行（現 大分銀行赤レンガ館）、岩手銀行本店（現 岩手銀行赤レンガ館）などを手掛けました。彼は、日本の近代建築の基礎を築いた一人として知られています。

妻木頼黄

辰野の後輩であった妻木頼黄は、横浜正金銀行本店（現 神奈川県立歴史博物館）を設計。絢爛豪華な作風で知られ、同銀行の大連や北京の支店、日本勧業銀行本店（初代）なども手がけました。その後は官庁建築に専念しました。

長野宇平治

辰野の弟子であった長野宇平治は、日銀本店の増築工事の責任者として携わり、その後日銀の各支店や旧北海道銀行本店、旧帝国銀行広島支店など数多くの銀行建築を手がけました。彼の登場により、ギリシャ神殿風の様式が銀行建築のスタンダードとなりました。

田辺淳吉、西村好時

清水組に所属した田辺淳吉は、旧高岡共立銀行本店、旧第一銀行小樽支店などを設計。同じく清水組の西村好時は、富山農工銀行、第一銀行熊本支店を手掛け、その後第一銀行にスカウトされ、同銀行の各支店を設計しました。後に独立し、台湾銀行や満州中央銀行の本店も手がけました。

渡辺節

官庁から転身した渡辺節は、コンペで日本興業銀行本店を設計。地下水を冷房に用いるという斬新なアイデアや、関東大震災にも耐えうる堅牢な構造が評価されました。銀行建築では日本勧業銀行本店および烏丸支店を設計しましたが、いずれも現存しません。京都駅の設計者としても知られ、ダイビル本館、綿業会館など関西の建物を多く担当しました。

横河民輔、鈴木禎次

実業家としても知られる横河民輔は、三井銀行大阪支店・京都支店の設計を手掛けました。その際、鈴木禎次が補佐を務めました。鈴木禎次は、名古屋を中心に活動し、伊藤銀行（現 三菱UFJ銀行）本店や岡崎銀行本店（現 岡崎信用金庫資料館）などを手掛けました。

桜井小太郎

ロンドン大学卒業後三菱地所に入社した桜井小太郎は、三菱銀行の本店と各支店を設計。白い石材と、上部をすっきりさせた柱の仕上げは、三菱銀行共通のデザインとなりました。横浜正金銀行神戸支店（現 神戸市立博物館）も彼の設計です。

渡辺仁

安田銀行（現 みずほ銀行）の建物を多く手掛けた渡辺仁は、ドーリア式の神殿造りを基本としましたが、農林中央金庫本店では円柱と角柱を組み合わせるなど、大胆なデザインも取り入れました。

佐藤功一

野村銀行（現 りそな銀行）の建築を依頼された佐藤功一は、ギリシャ風建築を嫌い、スペイン風ロココ調の日清生命館（現 丸ノ内野村ビルディング）を設計しました。角地に塔屋を設けるなど、周囲の景観との調和を重視したデザインが特徴です。

矢部又吉

妻木のもとで建築を学び、ベルリン大学留学を経て設計事務所を開いた矢部又吉は、三菱銀行横浜支店を設計しました。その後、川崎銀行の建築を多く手がけ、国産建材を使用したことが評価されました。川崎銀行横浜支店は、外壁を活かした改築により現存しています。

日建設計

住友が銀行業を始めると、野口孫市が本店臨時建設部に招かれ、大阪図書館を設計したのち銀行建築に専念しました。その後、長谷部鋭吉や竹腰健造が加わり、設計部門は後に独立して日建設計となりました。

まとめ

日本の銀行建築は、時代とともに様々な建築様式を取り入れ、変化を遂げてきました。そこには、建築家たちの情熱と技術、そして日本の経済発展の歴史が刻まれています。これらの建築物は、今もなおその姿を残し、私たちに当時の記憶と美しさを伝えてくれています。

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