日本戦歿学生の手記 きけ、わだつみの声

『日本戦歿学生の手記 きけ、わだつみの声』について

『日本戦歿学生の手記 きけ、わだつみの声』は、1950年に東横映画が製作し、東京映画配給が配給した日本映画です。この作品は、戦没した学徒兵たちの手記を基に、戦争の悲惨さと無意味さを描いた反戦映画として、日本映画史において重要な位置を占めています。

概要

映画は、第二次世界大戦中のインパール作戦を舞台に、学徒兵たちの敗走と回想シーンで構成されています。東大をはじめとする様々な大学や学校の学生たちが、戦場での過酷な現実、飢えや病気、そして死に直面する姿が描かれています。彼らは、戦場で命を落とす中で、学業への未練や戦争への深い絶望を抱いていました。

キャスト

本作には、多くの新劇俳優が起用されました。主なキャストは以下の通りです。

青地軍曹：伊豆肇
岸野中尉：原保美
河西一等兵：河野秋武
大木二等兵：信欣三
箕田の母：杉村春子
河西の母：英百合子
牧見習士官：沼田曜一
柴山少佐：上代勇吉
野々村中尉：林孝一
根岸兵長：月京介
衛生兵：高原駿雄
馬取兵：時田一男
鶴田上等兵：花沢徳衛
大町伍長：大森義夫
箕田一等兵：稲垣昭三
木村見習士官：杉義一
山田軍曹：佐野浅夫
飯島一等兵：増淵一夫
千葉上等兵：恩庄正一
矢野敦子：沢村契恵子

製作の背景

本作は、後の東映社長となる岡田茂が、24歳の時に実質的な初プロデュース作品として手掛けました。戦没した学友たちの思いを後世に伝えたいという強い意志が、映画化の原動力となりました。映画化にあたり、岡田は東京大学新聞編集部の部室に乗り込み、遺稿集の映画化権を買い取ったというエピソードが残っています。

制作の苦労とトラブル

シナリオ制作では、当初八木保太郎に依頼しましたが、軍隊経験がないため、舟橋聖一の弟で戦争経験のある舟橋和郎が担当しました。しかし、シナリオ完成後、全日本学生自治会総連合の幹部から「天皇制批判がない」とクレームが付きました。岡田は、彼らの意見を聞き入れ、撮影現場に監視役を置くことで、なんとか事態を収拾しました。また、東横映画内部からも「戦争の悲惨さを描いた映画は当たらない」という批判がありましたが、岡田は、絶対に成功すると信じ、映画制作を強行しました。

タイトルについて

映画のタイトルは、1949年に出版された戦没学生の手記集『きけ わだつみのこえ|きけ_わだつみのこえ 日本戦歿学生の手記』に由来します。岡田がこのタイトルを映画に採用しました。

キャスティングとスタッフ

岡田は、レッドパージで他の映画会社を追われた脚本家や監督を起用しました。また、スター俳優ではなく、演技力のある新劇俳優を積極的に起用し、低予算で映画を制作しました。このキャスティングは当時としては異例で、映画界に新しい風を吹き込みました。

撮影

GHQ占領下の時代であったため、海外ロケは許可されず、南方戦線のシーンは宮崎県青島や奈良県で撮影されました。予算を切り詰めるため、寺を宿泊施設として利用し、地元の人々からの支援を受けながら撮影が行われました。

作品の評価と影響

本作は、公開されると大きな反響を呼び、東横映画史上最大のヒット作となりました。しかし、当時の東横映画は配給網を持っていなかったため、十分な利益を得ることはできませんでした。しかし、この映画の成功は、翌年に東映が発足するきっかけとなり、東映の原点とも言える作品となりました。戦後初の本格的な反戦映画として、多くの人々に感銘を与え、後の反戦映画に大きな影響を与えました。

エピソード

試写の際、東京急行電鉄会長の五島慶太が、戦死した次男のことを思い出し号泣したというエピソードが残っています。この出来事がきっかけで、岡田は五島に認められ、その後の出世につながったと言われています。

参考文献

東映『クロニクル東映：1947-1991』 1, 2, 3、東映、1992年。
松島利行『風雲映画城』 下、講談社、1992年。ISBN 4-06-206226-7。
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『円谷英二特撮世界』勁文社、2001年8月10日。ISBN 4-7669-3848-8。
岡田茂『波瀾万丈の映画人生：岡田茂自伝』角川書店、2004年。ISBN 4-04-883871-7。
山根貞男・米原尚志『「仁義なき戦い」をつくった男たち 深作欣二と笠原和夫』日本放送出版協会、2005年1月。ISBN 4-14-080854-3。
大島渚、四方田犬彦、平沢剛『大島渚著作集 2巻』現代思潮新社、2009年。ISBN 9784329004604。
川北紘一監修『日本戦争映画総覧 映画黎明期から最新作まで 歴史群像パーフェクトファイル』学研パブリッシング、2011年。ISBN 4-05-404830-7。
富司純子 降旗康男 野上龍雄佐藤純彌 鈴木則文 神波史男「鎮魂、映画の昭和 岡田茂 安藤庄平 加藤彰 高田純 沖山秀子 長門裕之」『映画芸術』、編集プロダクション映芸、2011年8月号。
岡本明久「東映東京撮影所の血と骨 泣く 笑う 握る」『映画論叢』第36巻、国書刊行会、2014年7月号。
春日太一『日本の戦争映画』文藝春秋〈文春新書1272〉、2020年。ISBN 978-4-16-661272-7。

関連作品

きけ、わだつみの声 Last Friends:1995年の映画。1950年版とはストーリーは全く異なる。

外部リンク

日本戦歿学生の手記 きけ、わだつみの声 - allcinema
日本戦歿学生の手記 きけ、わだつみの声 - KINENOTE
Kike wadatsumi no koe: Nippon senbotsu gakusei shuki - IMDb（英語）

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